『銀河系より』
マンションに戻り、明かりをつける。
マスクを蓋のついたゴミ箱に投げ入れる。
手を丁寧に洗う。
脱衣所で衣服を脱ぐと、そのままバスルームに入る。
一日の疲れを洗い落とすように熱いシャワーを浴びる。
食事は勤務先の1階にあるコンビニで済ませてきた。
冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
部屋の隅に置かれた小さな机に向かい、ノートパソコンを立ち上げる。
ベランダからはるか彼方の星が一瞬小さく輝いたのを確認すると、机に戻りキーポードを叩き始めた。
兄さん、前回の報告から少し間があいてしまいましたね。
既に聞かれていると思いますが、この星は今、未曾有の危機に直面しています。
かつて僕が対決してきたどんな危機よりも、もっともっと深刻な状況です。
何度、手を差し伸べようと思ったかしれません。
何度、兄さんに助けを求めようと思ったかしれません。
しかし、その一方で信じるんだという声が聞こえてきたのです。
今は彼らを信じるんだと。
もちろん彼らの愚かさは今回もいろいろなところで露呈してきました。
兄さんは何度も僕に言いましたね。
いつまでその星にいるのだ。
そんな愚かな生物を助けても仕方がないぞ。
我々が助けてもいずれ自滅していく運命なのだ。
でも、彼らは僕たちの助けがなくても多くの危機を乗り越えてきました。
それは兄さんもご存じでしょう。
僕が滞在しているこの国でも、あれ以来何度も大きな災害に襲われてきました。
誰もがもうだめだろうと思うような壊滅的な被害を受けた事もあります。
それでも、彼らは国を超えて助け合い、立ち直ってきたのです。
確かに彼らは、憎み合い、傷つけ合い、裏切り、裏切られ、争いは絶えることがありません。
時に、宇宙のどんな侵略者よりも残虐な行為に走ることもあります。
それでも彼らは助け合うことができるのです。
彼らは僕たちの星にはない何かを持っているとは思いませんか。
今また地球規模の危機に舞われています。
今度の敵は目に見えない敵です。
防いでも防いでもさらに進化していく強敵です。
当初は僕も今回だけはだめかと思いました。
何度ベータカプセルのボタンに指をかけたことでしょう。
でも、彼らは未だに敗れてはいないのです。
戦い続けているのです。
もちろん勝利まではまだまだ時間がかかるかもしれません。
それでも彼らはあきらめてはいないのです。
兄さん、この彼らの姿勢こそ兄さんが僕たちに教えてくれたことではないでしょうか。
これでも、彼らは愚かだと言えますか。
今僕は救急救命士として働いています。
まわりは使命感に燃えた人たちでいっぱいです。
ゾフィー兄さん、僕はもう少し人間の姿で働き続けようと思います。
彼らが名付けた僕の名前、それは君たちのことだと言える時まで。
ウルトラマン、それは君たちのことだと。
明日も早いので今回の報告はこれくらいにします。
銀河系より
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