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『まだらの地球』

久しぶりの休日だった。
遅く起きた僕は送られてくるニュースをベッドで読んでいた。
子供たちは外で遊んでいる。
あまり高いところに行っちゃダメよ。
妻の声がする。
どうせあのおもちゃでは高度1キロくらいにしか行けないだろう。
それでも油断すれば大けがをする。

突然、コール音がベッドの枕のあたりから響き渡る。
研究所からだ。
片手でスクリーンを目の前に呼び出す。
すぐに来られるかね。
所長は休みのところすまないがとも言わずに要件だけを告げてきた。
妻に伝えて着替えると、そのまま2階から飛び出した。

あれは…?
スコープから目を離すと所長に尋ねた。
あれは、まさか…?
そうだ。あれが地球だ。
所長はどさっという音が見えるようにソファに腰を下ろした。
2、3日前から兆候はあったのだよ。
え、そんなに短期間でですか?
僕は驚きを隠せなかった。隠すつもりもなかった。

確かにこちらと比べれば数百倍の時間の速さとはいえ、それは…。
もう一度スコープを覗いた。
かつて、青と緑に覆われた球体が今は白と黒のまだら模様に変わっている。
観測できる範囲で最も美しいと言われた星。地球。
それが、白と黒の醜い、表現しようのないものに覆われてしまっている。

大気汚染にしてはひどすぎます。何か、新しい宇宙カビのような?
もう一度よく見てみたまえ。
言われて見てみると、少しずつそのまだら模様はうごめいていた。
さらに拡大してみると、白と黒だけでなく、中には少し黄みがかったものや、その中間のような色もある。
それが4本の触手を伸ばしてウジムシのように地球の表面をはい回っている。

あれは、もしかして…?
そうだ、我々が最も恐れていたウイルスだ。
ウイルス…では、もう地球は…。
そうだ。もう地球は…。
所長は僕から目をそらせた。
で、そのウイルス名は?
ウイルス名は、ヒト…今のところI型としておこう。

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