『君に贈る火星の』
今日も携帯が鳴る。
ーやあ、そっちは夜かな。もう、時間の感覚もなくなっちゃったよ。
あたしは聞いているだけだ。
ー君に会える日が楽しみだよ。でも、もう少し時間がかかりそうなんだ。
彼は楽しそうに話し続ける。
ーすごいと思わないかい?こんなに離れたところから、君と話ができるなんて。
多分、彼の目には窓の外の景色が映っているのだ。
ーここからはもう地球は小さな星にしかみえないよ。
でもそれだけ僕は目的地に近づいているっていうこと。
そして、僕が地球に帰る日も近づいているというわけなんだ。
僕が地球に帰れば君はヒーローの妻だよ。
どんな気分だい?
あたしは答えない。
ーほら目的地の火星が見えてきたよ。
あと何日くらいだろう。
僕は考えてるいるんだ。
君に贈りたいと。
君に火星の…
彼の声が途切れる。
聞き慣れた年配の女性の声。
ーさあ、戻るのよ。
ーでも火星が…
ー火星じゃないの。病室に戻って。
ーいやだー…
電話が切れる。
あたしは今日も涙をぬぐう。
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