『ヒトのカケラ』
ごらんください。
発掘されたカケラの数々です。
あちらの青みを帯びているのが幸福のカケラ。あれが夢のカケラ。
さらにこれが愛のカケラ。もうかなり色が落ちていますが、元はきれいなピンクだったと思われます。
その他にも、情熱のカケラ。沈黙のカケラ、平和のカケラ等々、かなりの数になります。
こんなにカケラばかり集めて彼らは何をしていたのか。
そうですよね。おっしゃる通りです。
カケラを集めるくらいなら、愛そのもの、幸福そのものをなぜ手に入れようとしないのか。
そこが、我々も不思議でした。
愛のカケラをいくつ集めても、愛そのものにはならない。
幸福のカケラをどれだけ集めても、幸福そのものにはならない。
地球のカケラであるこの石ころをいくつ集めても地球にはならないだろうと。
その通りです。
それでも彼らはカケラを集め続けた。
なぜか。
我々はついに解明したのですよ。
長年の研究によって、ついに彼らの残した文献の解明に成功したのです。
それによると、ごく少数を除いては、愛とか幸福そのものを手に入れることは非常に困難であったらしい。
そこで、多数を占める庶民はカケラを集め始めたのです。
そしてそのカケラを握りしめることによって、感じていたのです。
愛や、幸福といったものを。
ただ、不思議なことに、少数が手にしていたという幸福そのもの、愛そのものはどこからも発見されていないのです。
ひとつくらいは発掘されてもよさそうなものですが、見つかっていない。
今では、少数が手にしていたという愛そのもの、幸福そのものは幻だったのではないかという説が有力です。
そんなものはそもそも存在しなかったのではないかと。
中には、このカケラこそが、本物の愛であり、幸福であり、夢であったという学者も出てきています。
先ほど言われた、石ころ。
確かに地球のカケラです。
これも文献によると、彼らはこの石ころを握りしめることによって、地球の丸さを感じることができたようです。
そして丸い地球の裏側の、見たことのない、山や海や空の存在を知ることができたのです。
さらに、会ったことのない、恐らくその後も会うことのないであろうヒトたちの生活に思いをはせていたのです。
通信手段も使わずに彼らは感じることができたのです。
はるか彼方の夕日を。
それが恐らく、彼らがこの地球に何百万年も生存し続けた秘密であろうと言われています。
文献では想像力と書かれています。
そんな彼らがなぜ滅びたのか。それは謎です。
彼ら自身になんらかの問題が発生したのか。
この地球という星になんらかの変化が生じたのか。
今後の課題ではあります。
さあ、そろそろ我々も戻らないと、軌道に乗り遅れます。
星に戻ったら、ほら、この「ヒトのカケラ」について語りながら、今夜は一杯やりましょうよ。
地球の見えるバーでね。
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