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#創作
『穴の中の君に贈る』 # 毎週ショートショートnote
一見絶望的なこの状況だが、案外そうでもないかもしれない。
この向こうにも同じような穴があって、両方から掘り進めば、見事トンネル開通、などということも考えられるわけだ。
絶望は希望の始まり。
穴はトンネルの始まりだ。
いや、待て。
トンネルが開通して、掘り進んできた2人が抱き合ったとしてだ。
お互いに穴の外には出られないから掘り進んだのではないか。
そんな穴が開通したとして、その先どこに向かうとい
『違法の健康』2 # 毎週ショートショートnote
殊更に健康にこだわり必要以上に長生きをしようとする健康者は、自然の摂理に反していると言わざるを得ない。
健康は違法だと提訴された。
もちろん、健康者はそれに意を唱える。
健康が違法なら、不健康も違法ではないか。
いや、違法というなら、むしろ不健康こそが違法だ。
必要以上に、糖分やカロリーをとり、寿命を縮めてしまう。
医療費もかさむ。
不健康こそ違法であり、不健康者は排除するべきだ。
と、そこに
『違法の健康』 # 毎週ショートショートnote
小窓ひとつない薄暗い小屋の中で女は打ちひしがれていた。
情けなくて涙も出ない。
どうしてこんな目にあうのか。
あんなに苦労したのに。
憲兵に見つかるとは。
つい数時間前までは希望に満ち溢れていた。
やっと闇で手に入れた食料の山。
普通では手に入らない野菜や甘い果物。
少しだが白米もある。
これを息子に食べさせる。
空襲の犠牲になり、余命いくばくもない息子に。
息子の笑顔を見たい。
最後にもう一度
『息子は死にましたよ』
これは事実をもとにした物語である。
その朝、銀行のシャッターが上がると同時にその男は彼女の目の前に立った。
背は高くないが少し太り気味。
40歳くらいだろうか。
左目と比べて右目が極端に細い。
「母が亡くなったんですけど」
カウンターの向こうに腰をかけてそれだけ言った。
この歳で、他人と話すのに慣れていないようだ。
「お母様がお亡くなりになられたのですね。
ご愁傷様です。大変でしたね」
よくある
『株式会社のおと』# 毎週ショートショートnote
「みんなに応援してもらって、仲間と素晴らしいものをつくるのが株式会社なんだよ」
彼は、自分の質問に父が答えるのを聞いていた。
次の日、テーブルの上に一冊のノートがあった。
「株式会社のおと」と書かれている。
「これはなんだい? 」
「これはね、ママに応援してもらって、パパと僕で素敵なおはなしを書いていくんだよ。だから、株式会社のおとなんだ」
「で、あの時のように、この新しいノートに2人で物語を書
『タイムスリップコップ』 # 毎週ショートショートnote
「あら、このコップ、誰のかしら。
どこかでもらったのだったかしら。
まあ、いいわ。
あなた、このコップでいいでしょ」
こんな光景が、あなたの家でも見られないだろうか。
いつからあるのかわからないコップが、戸棚の奥から現れる。
そしてある日。
「あら、このあいだのコップ、どこに行ったかしら。
あなた、知らない?
この戸棚にしまったんだけどなあ。
まあ、いいわ。
また、そのうちに出てくるわよね」
も
『初めての鬼』 # 毎週ショートショートnote
いやあ、困りましたね。
信じてもらえないなんて。
私は鬼です。
これ以上、どう言えば。
今どき、鬼がみんな、アフロヘアみたいな髪型にツノを生やしているなんて。
真っ赤な、あるいは真っ青な体に、虎の皮を巻いて、トゲトゲのついた金棒を持っているなんて。
そんな格好で、街を歩けますか。
そんなのは、いまだに日本人はちょんまげを結っていると信じている、浮かれた欧米人と同じですよ。
そりゃ、悪い奴もいま