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『穴の中の君に贈る』 # 毎週ショートショートnote

一見絶望的なこの状況だが、案外そうでもないかもしれない。
この向こうにも同じような穴があって、両方から掘り進めば、見事トンネル開通、などということも考えられるわけだ。
絶望は希望の始まり。
穴はトンネルの始まりだ。

いや、待て。
トンネルが開通して、掘り進んできた2人が抱き合ったとしてだ。
お互いに穴の外には出られないから掘り進んだのではないか。
そんな穴が開通したとして、その先どこに向かうというのか。
そうだ、むしろ希望は絶望の罠なのだ。

「様子はどうだ」
「まだ、何も言いません」
「そうか。仕方がない。埋めてしまえ」
「はい」

危なかった。
あいつらは地中の自由に気づいてはいない。
地上では、水平に移動するか、せいぜいぴょんぴょん飛び跳ねるのが関の山だ。
だが、穴は垂直にも水平にも、斜めにも掘り進むことができる。
だから、今も掘り進んでいる。
上手くいけば、君がうなだれている穴にたどり着けるだろう。
諦めるな。
絶望は自由の始まりかもしれない。

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