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2022年10月の記事一覧
『告白雨雲』 # 毎週ショートショートnote
告げられた思いは、それが叶おうが叶うまいが、空高く昇っていく。
しかし、告げられなかった思い、胸の奥深く秘められたままの思いは、湿気を含んだまま、空の低いところにとどまる。
高さで言えば、スカイツリーの少し上あたりだろうか。
見る人が見ればわかる。
あれが告白雨雲だと。
告白雨雲は、本来なら、あと何億年かはもつと考えられていた。
しかし、昨今の、温暖化の影響はここにもおよんでいた。
もう、いつ降
『あの世から来た男』
ベンチに座っていると、突然両足の間から顔が現れた。
「うわ」
「いや、そこはあっと驚くためゴローじゃないと」
そう言いながら、男はベンチの下から這い出してきた。
「よっこいしょ」
男は、長髪に細いバンドを巻き、もみあげからあご、鼻の下まで濃いひげに覆われている。
派手な服装で、上着の袖と、スボンの裾がラッパのように広がっているが、清潔感は一切ない。
どう見ても小さすぎる丸メガネが鼻の上にちょこんと
『棒アイドル』 # 毎週ショートショートnote
ねえねえ、知ってる? このスタジオ、出るらしいの。
出るって、まさか。
そう、それも棒のように細いアイドルの幽霊らしいわよ。
こんな噂が囁かれるのは、都内某所にある撮影スタジオ。
いつ頃からそんな噂が流れるようになったのか。
業界関係者の中には、
「それは、アイドルのような棒の幽霊だな」
などと、ひねくれたことを言う輩もいた。
その日のスケジュールが終わり、静まりかえったスタジオ。
年老いた警
『ジュリエット釣り』 # 毎週ショートショートnote
「どうだい、ジュリエットは釣れたかい?」
「そう簡単には見つからないよ」
彼の名はロミオ。
悩める女子からの恋愛相談を受け付けている。
その中から、ロミオにふさわしい、いわばジュリエットを探し出そうという魂胆だ。
「君、ついにジュリエットを見つけたよ」
ある日、ロミオから連絡が入った。
「おめでとう」
「いや、そうでもない。ジュリエットには夫がいる。決闘しなくてはならないんだ」
河原で向かい合
『しゃべる画像』 #毎週ショートショートnote
夫が浮かない顔をして寝室に入ってきた。
いつもの上機嫌はどこに行ってしまったのだろう。
心配になって尋ねてみる。
「あの子としゃべれなくなったんだよ」
「何か不具合が起きてるんでしょうかね」
「わからない。もう、だめだ」
「わかりました。私からあの子に言っておきますからね」
夫は毎晩、寝る前にパソコンを通して、娘と楽しそうに話している。
時々、大きな笑い声も聞こえてくる。
懐かしい話で盛り上がっ