見出し画像

『棒アイドル』 # 毎週ショートショートnote

ねえねえ、知ってる? このスタジオ、出るらしいの。
出るって、まさか。
そう、それも棒のように細いアイドルの幽霊らしいわよ。

こんな噂が囁かれるのは、都内某所にある撮影スタジオ。
いつ頃からそんな噂が流れるようになったのか。
業界関係者の中には、
「それは、アイドルのような棒の幽霊だな」
などと、ひねくれたことを言う輩もいた。

その日のスケジュールが終わり、静まりかえったスタジオ。
年老いた警備員は、「さあ、いいぞ」と指を鳴らす。
スポットライトが一本のマイクスタンドを照らし出す。
そして、マイクスタンドは右に左に、くるりくるり。
さながら、アイドルのダンスのように動き始める。
七色の照明がその動きを追う。
外から見れば、あたかも一本の棒が踊っているように見えただろう。
マイクが元の位置に戻ると、幕が降りるように暗闇が戻った。
「おやすみ」
戸締りを確認して、警備員は家路に着く。
彼が、若くして亡くなったあのアイドルの父親だとは誰も知らない。


この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,460件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?