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2022年7月の記事一覧
『ビール傘』 # 毎週ショートショートnote
おめでとうございます。
第一志望の球団に見事決まりましたね。
ありがとうございます。
子供の頃から、この球団のエースになることを夢見てきました。
この喜びを、誰に伝えたいですか?
父ちゃ…いや、父です。
父と2人で目指してきました。
僕が野球を始めたのも父のおかげです。
そう言えば、そのこうもり傘、いつも身につけていられますね。
ああ、これですか。
僕の父も、プロを目指していました。
し
『ふりかえるとよみがえる』 # 毎週ショートショートnote
毎日この時間になると、母は私を連れ出した。
幼い私を背負い、ゆっくり歩いた。
自分の歩みに合わせて、時の流れも緩やかになると信じているかのように。
この時だけ、母は少し優しくなる。
微かに鼻歌の聞こえることもあった。
厳格な父を支えるために家事をこなし、唯一気の抜ける時間帯だったのだろう。
行き先は、いつも近くの河原。
走り回る子供たちの声が聞こえる。
ボールの弾む音。
犬の鳴き声。
母は私に
『いつものやつで』 # たいらとショートショート
「先にお飲み物お伺いしましょうか」
そんな感じじゃないんだよなあ。
そんな店でもないし。
いつもなら、
「ビールでいいでしょ」とさっさと持ってきてくれるのに。
そして、こっちは、
「あと、いつものやつで」
となるのに。
なのに、こっちまでかしこばっちゃって、
「え、ああ、ビールでお願いします」
だなんて。
どうして、こうなったんだろうなあ。
そもそもは、僕の転勤の話からだ。
昨日、急に辞令が出た
『サラダバス』 # 毎週ショートショートnote
バスに飛び乗ると、アナウンスが流れた。
「本日はサラダバスをご利用いただき誠にありがとうございます」
乗客は僕ひとり。
運転手さんの後ろの席に座った。
動き出すと、運転手さんが話しかけてきた。
「今日は、どうされました?」
僕は話し始めた。
ある人と一緒に暮らしていたんです。
でも、その時の僕は、季節の変わり目も気づかないほど、病んでいたんです。
その人にも辛く当たってしまって、その人は、自分の
『カミングアウトコンビニ』 # 毎週ショートショートnote
集合場所は、カミングアウトのコンビニ。
カミングアウトというのは、小学校の時の担任だ。
きっかけは、谷口君だった。
終わりの会で、突然、
「僕は和田君が好きです」
教室はざわついた。
先生は多分それを静めようとしたのだろう。
「よし、先生もカミングアウトするぞ」
そして、
「先生は、静香のことが大好きだ! 」
静香は、泣きそうだった。
冗談でも、そんなことを言ってはPTAが黙っていない。
間も