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『愛してる』

「愛してる」
その言葉を、伝家の宝刀のように仕舞い込んでいるのなら、彼女の部屋を覗いて見るといい。

その部屋を隙間なく埋めているのは、何だと思う?
ほら、たくさんの「愛してる」だ。

古いものは、初恋の「愛してる」
これは、今では見かけなくなった装丁の日記帳の中に大事に納められている。
もちろん、彼女はとっくに忘れてしまっているけれどね。

この、見るからに重そうな「愛してる」
ドアストッパーにちょうどいいのよ、だとさ。
壁に飾られているのは、カラフルな「愛してる」
壁紙の色とマッチしてるわ。
この、大きな「愛してる」
それは、寒い夜に彼女の体を包み込む。

ほらほら、ここでは、どんな「愛してる」も彼女の好きにされている。
だから、君の「愛してる」も、彼女の前ではこんなものさ。
せいぜい、鍋つかみにでもなればいいほうさ。

僕の「愛してる」?
彼女は言ったよ。
あなたの「愛してる」は軽すぎるのよってね。
わかっていたんだよ。
僕の「愛してる」なんて、軽くて、地味で、小さくて。
お守りにもなりはしないとね。

でもね、うなだれる僕の耳元で、彼女は囁いたんだ。
だから毎日欲しいのよ。



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