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読書ノート

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頭が動いたままに、心が感じたままに残した記録となっています。 読書の感想に正解はなくていいと思っています。 どういう人生だったかで、捉えかたはたくさんあっていい。
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記事一覧

〈読書記録〉短歌と散文のマリアージュ

〈読書記録〉短歌と散文のマリアージュ

くどうれいん × 東直子
2人の歌人が、短歌と散文でつなぐ、みずみずしい歌物語。

◇ 本の中身

29歳の「みつき」は、この先の人生を思うと、途方もない気持ちになる。こちらが、くどうれいんパート(黒文字)。
謎の存在「ミメイ」は、おなじ街を漂よっている。こちらが、東直子パート(青文字)。

短歌の背景を語るように散文が綴られているので、短歌がよくわからなくても楽しめる。

みつきの物語は、たまに

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〈読書記録〉欲望のウロボロス

〈読書記録〉欲望のウロボロス

むせかえるほど濃厚な匂いが、ただよう。
場所、モノ、ひと。匂いは記憶に縛られて、傷として刻まれる。手放したい感情を刺激する。

◇ 本の中身

画家の清秀は、父の秘書である間宮から呼び出される。電話では話せない内容であることから、絶縁していた天才料理人の父・康則のマンションへと赴く。
そこには父の遺体と、裸の少女の姿があった。少女の名前は蓮子。8歳のときから11年間マンションに監禁されていた。

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【読書記録】型がわかれば「おもしろい小説」は書ける

【読書記録】型がわかれば「おもしろい小説」は書ける

小説を書くことは、選ばれた、特別な才能がなければできないことだと、勝手に思っていました。YouTubeで著者の動画をみて、本書を読むまでは。

◇ 本の中身

作品の魅力を最大限、引き出してくれる「上達のポイント」をステップ毎に、丁寧に、わかりやすい文章で教えてくれます。

プログラミングとおなじで、作り方を知っていなければ、おもしろい小説は書けない。そんな当たり前のことなのに、いわれるまで考えも

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【読書記録】give & take のマナーって難しい

【読書記録】give & take のマナーって難しい

100分間、夢中で読める中編小説『ハンドレッド ミニッツ ノヴェラ』シリーズとなります。

ポトラッチ(potlatch)とは
北米の西海岸の先住民が気前のよさを競った宴の習慣のことです。
主催者は客たちに食物のほか大量の財物を贈り、威勢を誇示します。客はそれを上回る返礼をすることが義務づけられています。いきつく先は、貴重な私財を壊して相手を圧倒する。という本来の目的を忘れた行為にまで発展するので

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4月、読みおわった本「まとめ」

4月、読みおわった本「まとめ」

今月は「8冊」読みました。

コンビニ人間 / 村田沙耶香

普通って、なんだろう。
大丈夫、みんな、わかってない。

水中の哲学者たち / 永井玲衣

水面を、ちゃぷちゃぷしているだけでは、もの足りない。
深く潜るように、問いつづける。

誰が勇者を殺したか / 駄犬

勇者になりたい?

休むヒント。 / 群像編集部

休み、なにしてる?

問うとはどういうことか / 梶谷真司

考える。疲れ

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【ペンギン・ハイウェイ】 - 少年は、おとなへ -

【ペンギン・ハイウェイ】 - 少年は、おとなへ -

夏休みまえのある日、登校中に不思議な光景を目にする。住宅街にペンギンが現れたのだ。
小学4年生のアオヤマ君は、ペンギンを研究することに決める。 

歯磨きを忘れて虫歯になるほど勉強熱心なアオヤマ君。
ある日、歯科医院に勤めるお姉さんの投げた缶コーラがペンギンに変わる瞬間を目撃する。
「この謎をといてごらん。どうだ。君にはできるか」
ペンギンの謎を解明することは、お姉さんの謎を解明するのとイコールに

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【レーエンデ国物語 夜明け前】 - 消えた歴史が、語られる -

【レーエンデ国物語 夜明け前】 - 消えた歴史が、語られる -

「革命の話をしよう」

この一節からはじまる物語も、ついに第4の歴史を記します。舞台となるのは帝国の支配にすっかり慣れてしまったレーエンデ。

ついにレーエンデを「国」と表現する場面があります。感慨深いです。

3部までに語られなかった謎や、歴史の裏側に触れている今作。運命は激流となって加速します。
「夜明け前」にふさわしい内容となっており、最終巻ではどんなラストを迎えるのか、楽しみです。

 ◇

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【たまごのはなし】 - ひねくれ哲学たまご -

【たまごのはなし】 - ひねくれ哲学たまご -

第27回 日本絵本賞 大賞
第14回 MOE絵本屋さん大賞 第2位
第 2回 TSUTAYAえほん大賞 第2位
第28回 ブラチスラバ世界絵本原画展 金牌

 ◇◇◇

1玉だけ目覚めた、たまご。
ほかのたまごは起きない。ころがしたら割れてしまった。
マシュマロならどうだろう。やっぱり起きない。マシュマロたちに埋もれてみた。それでも起きないから、かじってみた。
「なんで かじるのさ?」
みじかい

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【問うとはどういうことか】 - 正しさに殺されないために -

【問うとはどういうことか】 - 正しさに殺されないために -

2021年の元首相でありオリンピック委員会会長であった森喜朗氏の発言からはじまります。

「女性差別」だと騒がれて、叩かれていました。梶谷さんはもっと厳しく捉えていて、「反民主主義」と主張。森氏だけではなく、マスコミや疑問をもたなかった大人たちへ「問う力がない」と言及しています。

 ◇◇◇

問うことをしなくなる要因は5つ、考えられるそうです。

基本歓迎されない
「わからない=質問」教育の基本

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【休むヒント。】 - 仕事と休みの関係性 -

【休むヒント。】 - 仕事と休みの関係性 -

群像 2024年 01 月号
特集「休むヒント。32人の休みにまつわるエトセトラ」の単行本化。
益田ミリ「休み時間」描き下ろし。

 ◇◇◇

休むことが苦手な日本人。
いまだに「休むのは悪いこと」と認識している人が一定数います。
仕事をしていると安心できる。むしろ、仕事をしていないと不安になるようです。

仕事に夢中になる時期はあっていい。私にもそんな時期はありました。
ムリをしているわけではな

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【誰が勇者を殺したか】 - 勇者をつむぐ物語 -

【誰が勇者を殺したか】 - 勇者をつむぐ物語 -

魔王を倒した勇者一行。
王都に帰還したのは仲間の3人だけだった。

高潔の剣聖
性悪の聖女
偉才の賢者

なぜ勇者は死んだのか。その質問に答えるときの3人は歯切れがわるい。
様々な疑惑はあるけれど、誰もウソをいってないようだ。それなのに真実がみえてこない。

 ◇◇◇

才能に恵まれた剣聖、聖女、賢者をまとめる勇者は、なんの才能もなく、ただ努力をするだけの普通の人でした。
その努力が異常だったので

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【水中の哲学者たち】 - 息をするように考える -

【水中の哲学者たち】 - 息をするように考える -

㊗️受賞
第17回「わたくし、つまりNobody賞」

哲学研究者であり、哲学対話ファシリテーターでもある永井玲衣さんの哲学エッセイとなります。

 ◇◇◇

水の中をたゆたうように、言葉に揺られるような文章を読んでいると癒されます。

ユーモアがあり、静かで柔らかくありながらも感情が揺れ動き、コミカルで面白く、とても好きな文章です。

哲学対話をしたことはないけれど、疑問を投じるという点では

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【コンビニ人間】 - これは愛の告白 -

【コンビニ人間】 - これは愛の告白 -

普通がわからない。
他者のいうことがわからない
社会に生きる正常がわからない。

幼少期、行動や発言に周りが引いた。
どうしてかは理解できなかった。
そんなことが何度も繰り返された。
いつしか彼女は話さなくなり、何もしなくなっていった。

異常とみられる彼女を「治す」と表現する家族。妹のアドバイスのおかげで人間に擬態して生きてきた。コンビニをとおして世界と触れているときだけ人間になれた。
体の全て

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3月、読みおわった本「まとめ」

3月、読みおわった本「まとめ」

今月は「7冊」読みました。

地雷グリコ / 青崎有吾

全力で挑むのは気持ちがいい。
勝ちを確信した後の、負けるかもしれないと違和感を感じた瞬間の表情がたまらない。

シャーロック・ホームズの凱旋 / 森見登美彦

事件を解決しない探偵。
うだうだしているホームズに、やきもきするワトソン。名コンビ復活は叶うのでしょうか。

正欲 / 朝井リョウ

読むまえの価値観には戻れない。
誰にも理解され

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