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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2023年3月の記事一覧

『「来ちゃった」』

『「来ちゃった」』

18:55発のフライト

保安検査場の通過締切時刻は18:35

私がタクシーの車止めに着いたのが18:37

羽田から高知へ飛ぶフライトは

きょうはもうなくて

こんなことなら

どうせ着の身着のままなんだから

仕事が終わってから

いったん帰宅なんてせずに

そのまま空港へ

向かってくればよかった

この時間だと

高知は鉄道を乗り継いで

行けるような場所ではないし

あきらめるほかな

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『俺はちょっと逃げ出したくなって』

『俺はちょっと逃げ出したくなって』

へとへとになって帰宅する

シャワーを浴びる

ビールを開ける

めったに連絡をよこさない弟から

メッセージがきている

思えば4年前

ばあちゃんの葬式以来だ

弟は同じく都内に住んでる

何の仕事かは詳しく知らない

カネの無心は困るぞと

そう思いながら

メッセージを読もうとしたら

電話が鳴った

「読んだ?」

弟からだった

「早く読んでよ」

ハンズフリーにして

改めて読み始め

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『宿営』

『宿営』

軍港といっても

ごく小さなものだったから

艦船は横付けすることができずに

私たちはボートで上陸した

凪の時間

焼けつくような

真昼の日照りも収まって

港から宿営地までは

ほど遠くない

何往復かして物資を運び終え

日が沈んだ頃に

きょうの任務が解かれた

夜襲があった

降り注ぐ焼夷弾の雨で

ログハウスやテントは焼かれ

貯水タンクは破裂し

仲間を何人か失ったと思う

もと

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『きょうは世相カード54弾の発売日』

『きょうは世相カード54弾の発売日』

私の働くカードショップはなかなかの穴場みたいで

きょうは世相カード54弾の発売日

とくに事前から発行枚数が少ないと言われていた

青と緑が人気で

きょうだけで在庫がなくなりました

もっと人気店だと行列が出来たりするのでしょう

ところで灰色だけはまったく売れず

緑と青を買い逃したお客様におすすめしても

いらないと言われます

私は青も緑もいらないな

『「痛ぁぁい!」』

『「痛ぁぁい!」』

目を覚ましたら

一面の風景が

(といっても自分の部屋)

ぜんぶドットというか

立方体すなわちキューブの

集合体になってて

あの粗いブロックの…

そうマインクラフトみたいな

モノに触った感覚もまんまそれ



っていうか俺自身の身体もか?

やべえよやべえよ

とりあえずスマホを

ってもう解像度が粗すぎて

液晶画面はたった4色

アプリがどれだかわからない

適当に黄色いやつを

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『「せっかくの披露宴なんで!はい!一生に一度なので!」』

『「せっかくの披露宴なんで!はい!一生に一度なので!」』

「おめでとうございます。新郎の上司の、いけだまさしともうします。すてきな結婚生活を!」

(拍手)パチパチパチパチ

「えぇと…やまだ…りゅうじともうします。新郎の会社の同僚でございます。そうですね、ええ…おめでとうございます」

(拍手)パチパチパチパチ

--

「それでは式場のスタッフがマイクを持って、お席を順にまわるということで、よろしいですか?」

「せっかくの披露宴なんで!はい!一生に

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『『全国列島縦断 あなたのまちの∧Vじょゆう』 ~立ち読みじゃなくて買えよな~』

『『全国列島縦断 あなたのまちの∧Vじょゆう』 ~立ち読みじゃなくて買えよな~』

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「ちゅことで頼むからな」

「いやちょっと待てって」

父親からの電話は一方的だった

実家の押入れの奥底に

かれこれン十年も隠していた

秘蔵のVHSが

母親の手によって発見されたという

ラベルには

『全国列島縦断 あなたのまちの∧Vじょゆう』

父親はなんなのこれなんなのと

母親から問い詰められたらしく

(母もさぁ…問い詰めるなよ…)

いったんは俺のせいにしたらしいんだが

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『僕はおもむろに視界を窓の外へやった』

『僕はおもむろに視界を窓の外へやった』

早朝の集中力をもって仕上げようとしていたプレゼン資料の作成がいよいよあと一歩というところで、僕はおもむろに視界を窓の外へやった。

そしたら、向かいに聳え立つウチよりもだいぶ立派なタワーマンションの、その屋上に人影があるのを目にしたわけ。

こうして自宅で日中作業などを行っていると、同じような光景には出会うことはままあるものの、それは往々にして設備点検業者の姿であったりするから特段気に留めることも

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『拡散しすぎたら手に負えなくなりそうだということで、』

『拡散しすぎたら手に負えなくなりそうだということで、』

「はい、じゃこれ保険証返しますね。えぇっとそれじゃ明日の晩23時59分までで終わりになりますんでね。え?みなさんそれ訊ねてきますけど、早めるのは無理なんですよ、仕組み上どうしてもね。私はただ受付しているだけで、あとはシステムのほうが自動でやっているわけなんです。どうしようもないんですよ。今晩だけは我慢して眠ってください。そうね、15時までの受付で当日の晩に対応できるんだけど、それ以降はね。まぁこの

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『公共の福祉なんてなくても』

『公共の福祉なんてなくても』

白昼の私鉄沿線

ロータリー式の駅前広場では

とある議員が演説をしていて

また少し離れた場所では

神に救われたいかなんて

呼びかけをしている集団がいる

双方の目の前を

奇声を発して

見えない敵と闘いながら

横切る男がひとり

いつも両手に

スーパーの袋を抱えて

それからたまに

鳩を威嚇するわけ

一瞬だけ群衆の注目を浴びるけど

皆すぐに目を逸らすのは

おやくそく

男にと

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『きょうの運勢第1位はぁ~~』

『きょうの運勢第1位はぁ~~』

きょうの運勢第1位はぁ~~

おとめ座のアナタ!

仕事もプライベートもすべてが好循環でしょう!

素敵ないちにちを過ごしてくださいね!

ラッキーアイテムは白い靴!

--

眠る時以外は垂れ流しでついている

朝のニュースショーの占いコーナー

おい!きょうは最高らしいぞ!

生命維持装置から離れられない

おとめ座の俺よ!

白い靴なんて持っていないから

差し入れしてもらおうかな

『クラスの女子何人かに』

『クラスの女子何人かに』

卒業式終わって

担任もいなくなって

教室でだらだら残ってたら

学級委員の鈴木から

クラスの女子何人かに

プレゼントが配られたのよ

卒業のお祝いだって

包みをほどいてみれば

アルバム

卒アルもらったし

まだあったんだって思ったら

表紙に「カタログギフト」って

なんだろ

ページをめくると

見飽きたクラスの男子たち

何人かの顔写真と

プロフィールが

並んでいて

マジな

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『めちゃくちゃかっこわるいよう』

『めちゃくちゃかっこわるいよう』

大学進学のために

わたしは東京へ

引越しが落ち着いて

同じ高校から

上京した友達と

ランチをしていたんです

まだアルバイトもしていないのに

なんだか奮発して

イタリアンのお店に来ちゃって

都会のまんなかで

ちょうどお昼時だから

とっても混んでいる

サイゼリヤのパスタしか

ふだん食べたことないから

もう値段を見てびっくり

きっと美味しいんだろうな

(サイゼリヤはやすく

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『村一分』

『村一分』

村八分

火事があったときに

火消しを手伝わなかったら

集落全体が燃えちまうから

死人がでたときに

葬式を出してやらなかったら

腐って病気がはやっちまうから

--

この歳まで

私は一生懸命働いた

ありがた迷惑なほどに

教育熱心な親に育てられ

父と同じ名門校へ

父と同じ一流企業へ

働き始めてからも

親の干渉がなかったかといえば

それは嘘になる

鬱陶しいことが多かったが

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