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『拡散しすぎたら手に負えなくなりそうだということで、』


「はい、じゃこれ保険証返しますね。えぇっとそれじゃ明日の晩23時59分までで終わりになりますんでね。え?みなさんそれ訊ねてきますけど、早めるのは無理なんですよ、仕組み上どうしてもね。私はただ受付しているだけで、あとはシステムのほうが自動でやっているわけなんです。どうしようもないんですよ。今晩だけは我慢して眠ってください。そうね、15時までの受付で当日の晩に対応できるんだけど、それ以降はね。まぁこの場所を見つけられただけでもラッキーじゃないですかあなた。どうやって見つけたの?ん、お友達?クチコミで?こっそり?へぇ良い人脈を持ってますね。あ、そうそう、そのお友達にも聞いてると思うけどね、SNSなんかにアップしたらすぐに今日の手続きを取り消すし、二度と申請できないですからね。教えた相手もマークするから、そこだけは気を付けてね。一生に一回のチャンスを承認欲求で潰さないほうがいいですよ。うん。それじゃあ気を付けてお帰りください。そうね、来た道を引き返していただくのがいいんじゃないですかね。バスで来たでしょ?戻るのもあるから。あぁ時刻表みてあげようね。あ、5分後に来ますよ。はい。お気をつけて。あさってからは素敵な春になりますね。」


私の仕事は花粉症管理人。まぁ国の出先機関といったところでしょうか。

この窓口に申請してくれれば、無料で花粉症の症状を半永久的に停止します。

ただし場所だけは、この国のどこかにあるということしか、口外できないのです。

さっきの来訪者にも伝えたように、”ほんとうのクチコミ”を除いては情報が拡散できないようになっています。

もともとは、その辺の情報管理も緩かったんですよ。だって花粉症患者のみなさんほんとうに辛そうですからね。

ところがですね、花粉と同じでこの窓口の情報もね、拡散しすぎたら手に負えなくなりそうだということで、何年も前にデジタル担当チームが設立されて、余計なネット上のクチコミには厳正に対応するようにしたんです。

え?だったらオンラインで申請できるようにすればいい?何を言っているんですかあなた。花粉症で頭がぼうっとしているのでしょう?

オンラインで申請なんてできるようになったら、私の仕事がなくなっちゃうでしょう。ねぇ。











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