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『公共の福祉なんてなくても』


白昼の私鉄沿線


ロータリー式の駅前広場では

とある議員が演説をしていて


また少し離れた場所では

神に救われたいかなんて

呼びかけをしている集団がいる


双方の目の前を

奇声を発して

見えない敵と闘いながら

横切る男がひとり


いつも両手に

スーパーの袋を抱えて

それからたまに

鳩を威嚇するわけ


一瞬だけ群衆の注目を浴びるけど

皆すぐに目を逸らすのは

おやくそく


男にとって

公共の福祉なんてなくても

なんとかなるし

ましてや神様なんて

いらないんだよ


いつも交番の前ここを通るときは

私たちに敬礼をくれる


男は誰に危害を加えるでもなし

だから

私の出番でもない


男はまいにち

周囲からのチラ見も

気に留めることなく

大きな奇声を出しながら

駅前広場を闊歩する


立番たちばんの私は

そっと見守る


いっぽうそんな私は

制服の下に

女性モノの下着をつけている


同僚にはまだ

バレていない


妻以外には

まったくバレていない


それから入手経路は

妻を含めて

絶対の秘密だ


私にとって

公共の福祉なんてなくても

なんとかなるし

ましてや神様なんて

いらないんだよ


私はなにより大切なものを

しっかりと

身に着けているのだから







































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