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『村一分』


村八分


火事があったときに

火消しを手伝わなかったら

集落全体が燃えちまうから


死人がでたときに

葬式を出してやらなかったら

腐って病気がはやっちまうから


--


この歳まで

私は一生懸命働いた


ありがた迷惑なほどに

教育熱心な親に育てられ

父と同じ名門校へ

父と同じ一流企業へ


働き始めてからも

親の干渉がなかったかといえば

それは嘘になる


鬱陶しいことが多かったが

それなりに時を過ごし

今に至る


七年前の父に続き

母も逝った


なんだかんだで

私は父にも母にも

感謝している


そして妻にもとても

感謝している


私が仕事で

厳しい立場に置かれたとき

いつもそばにいてくれた


両親の看病も

妻がいなければ

ままならなかったと思う


また素晴らしい二人の宝物を

この世に授けてくれた


家族四人

この苦しい大都会を抜けて

少しのびのびとしても

いいのではないだろうか


--


いくら私の収入がそれなりとはいえ

都会ではこのような豪邸は

建てられないだろう


移住者にとっては

はじめが肝心だ


寄合へ夫婦そろって顔を出し

笑顔を振りまいた


苦い顔をしていた連中も

袖の下に少し忍ばせれば

ふんっとはにかみ笑いを

返してくる


そのうち拙宅へ皆を招いて

宴を設けることもした


寄合所より数段立派な離れを

庭に作ったから


田舎者たちときたら

カネがないなら

教養も品もないから


呑めや唄えや

観るに堪えない

どんちゃん騒ぎ


あぁかまわない

いくらでもやってくれ


うまい頃合いを見計らい

鳴らした商談の腕を以って

連中に半ば洗脳のような

説法を続けた


じきにここの村人は

私の云うなりになる


うちの邸で楽しんでくれ


その代わりに


ごみ当番などやらないぞ


盆踊りなどに関わるか


うちの壁に石でも投げつけてみろ

おまえの頭をかちわるぞ


我が子に指一本でも触れてみろ

六代先まで祟ってやるぞ


俺にひれ伏せ連中よ


どうだこれが

権力だ

俺の魅力だ

わかったか田舎者らが


おまえたちと俺が関わるのは

寄合だけだ


俺のことが怖いなら

これからは寄合のたびに

布施でも払っていくことだな


--


村一分


寄合があったときに

布施を納めなかったら

イジュウシャ様に

何をされるかわかったもんか






















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