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『宿営』


軍港といっても

ごく小さなものだったから

艦船は横付けすることができずに

私たちはボートで上陸した


凪の時間


焼けつくような

真昼の日照りも収まって


港から宿営地までは

ほど遠くない


何往復かして物資を運び終え

日が沈んだ頃に

きょうの任務が解かれた




夜襲があった




降り注ぐ焼夷弾の雨で

ログハウスやテントは焼かれ

貯水タンクは破裂し

仲間を何人か失ったと思う


もとよりこの地を

いちおうの根城としたのは

島の裏側にあたる敵の占領地から

最も離れており

また先述のとおり

港がごく小さいことが理由だった


ところがそんな僻地へ

我が方の大軍が

次々と腰を下ろしたものだから

敵方にとっては

飛んで火に入るなんとやら

そんなところだったのだろう




狭いテントにうずくまり

身を寄せ合い

一睡もできない夜が明けた


状況を知らせる伝令が走っている


こう言っては他の仲間に申し訳ないが

どうやら自分の小隊の連中は

幸いにも無傷だったようだ


救援物資もまもなく届くという


とはいえ被害はそう小さくないから

救護班の手伝いを募る声があった


私は取り立てて医療の知識はないものの

腕っぷしだけは自信がある


担架運びなら任せておけ

テントの入口を開け…


青い目の敵兵と目があった




私のひたいには銃口




咄嗟の場合には何もできなくなるのが

人間の性質のようで


私は両手を挙げることもできず

固まってしまった


青い目は相変わらず

まばたきもせずに

私を凝視している


救護を募る伝令の声は

敵兵の腰にぶら下がった

何やら小さな機械の箱から

発せられている










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