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フランス詩を訳してみる

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#翻訳

ひよこのるる訳詩目録

2018年11月以来発表してきたぼくの訳詩約70編の、作者別の目録です。もし気に入った作品を見つけたら、同じ作者や時代の他の作品も読んでみていただけたらとてもうれしいです。

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作曲家・ミュージシャン別の索引も用意しております。

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以下、作者の生年順に並べています。

Marcus Valerius Martialis/マルクス・ウァレリウス・マルティアリス(ローマ)
c.40-c.

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ヴェルレーヌ「願い」(フランス詩を訳してみる 33)

Paul Verlaine (1844-1896), Vœu (1866)

(川路柳虹の訳を参考にした。)

『土星人詩集』(Poèmes saturniens)からの1編です。

日本ではあまり知られていないようですが、手元にあるJean Orizet編のフランス詩アンソロジーでは、「よく見る夢」と「秋の歌」と並んで『土星人詩集』からこの詩が取り上げられていました。

原文は、ギリシャ語由来の

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アンリ・ド・レニエ「抒情小曲 Ⅰ」(フランス詩を訳してみる 29)

Henri de Régnier (1864-1936), Odelette I (1897)

ちいさな葦の葉ひとつあれば
背の高い草を
いちめんの野を
やさしい柳の木を
歌う小川を ふるわせることができた。
ちいさな葦の葉ひとつあれば
森に歌を歌わせることができた。

通るものらはそれを聞いた、
夜の底に 心のうちに
静寂のなか 風のなかに
はっきりと またかすかに
近く また遠くに……。

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ランボー「感覚」(フランス詩を訳してみる 25)

Arthur Rimbaud (1854-1891), Sensation (1870)

(中原中也、永井荷風、堀口大學、金子光晴、清岡卓行、粟津則雄、宇佐美斉、鈴村和成の訳を参考にした。)

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前回に引き続き、ルーマニアのピアニスト・作曲家ディヌ・リパッティ(Dinu Lipatti, 1917-1950)が歌曲を作曲しています(1945年)。

チェコの作曲家ハンス・クラーサ(Hans

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格を気にするひと(訳者あとがき2)

格を気にするひと(訳者あとがき2)

このところ翻訳する中で、格を気にさせすぎない日本語にする、ということを気にしていることがある。

学校で習う英文法では

〈主格〉  I  私が
〈所有格〉  my  私の
〈目的格〉  me  私を/私に

というのがある。ドイツ語やフランス語にもだいたい同じようなものがある。日本語文法では「ガ格」「ヲ格」「ニ格」などと呼ばれていて、これも似たようなものだ。

しかし、ぼくらは普段それほど格を意

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ネルヴァル「幻想」(フランス詩を訳してみる 22)

Gérard de Nerval (1808-1855), Fantaisie (1831)

その歌のためならぼくは失ってもかまわない、
ロッシーニとモーツァルトとヴェーバーのすべてでも。
それははるか昔の歌、暗くてもの憂げで
ぼく一人だけにひそかな魅力を放つ。

その歌が耳に入ってくるたびに
ぼくの魂は二百年前に若返る。
それはルイ十三世の時代、目の前では
一面の緑の丘を夕陽が黄色に染めていく

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リルケ「白鳥が 自分自身に取り囲まれて…」(フランス詩を訳してみる 20)

Rainer Maria Rilke, Vergers XL (1924)

消しゴム山さんが翻訳・紹介されていたリルケのフランス語の詩を、ぼくも訳してみました。

白鳥が 自分自身に取り囲まれて
水の上を進んでいく、
まるで滑らかに移動する絵画のように。
このように 私たちの愛する存在は
時として 移動する空間そのもの
となる ことがある。

愛する存在は 水の上を進む白鳥のように
私たちの乱れ

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ひよこのるる訳詩目録 作曲家・ミュージシャン別索引

noteで70編以上の詩を翻訳する中で、それらに関係のある音楽もたくさん紹介してきました。クラシックの歌曲や合唱曲が多いですが、シャンソンやロックもあります。いろいろな詩を楽しんでいただく一つのきっかけとして、それらを作曲家・ミュージシャン別に並べてみました。

おなじみの人や作品の中に、聞いたこともないような人や作品が交ざっていることでしょう。またすべてが傑作というわけではないでしょう。しかしそ

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ヴェルレーヌ「よく見る夢」(フランス詩を訳してみる 18)

Paul Verlaine, Mon rêve familier (1866)

(上田敏・堀口大學・渡辺洋・大熊薫の訳を参考にした。)

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レオ・フェレによるシャンソン(1964年)があります。

ルイーズ・ラベ「生きながら死に 灼かれながら溺れ…」(フランス詩を訳してみる 15)

Louise Labé, Sonnet VIII (1555)

生きながら死に 灼かれながら溺れ
酷暑にあえぎながら凍えている。
人生はあまりに優しくあまりに厳しい。
激しい苦悶の中に喜びが混じる。

笑いながら同時に涙に暮れ
楽しみながら幾多の深い苦しみに耐えている。
幸せは立ち去りながら永遠にとどまり
私は枯れながら同時に青々と茂る。

これほどにも〈恋〉は私を振り回す。
苦しみのどん底にあ

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幸福でいることを誓い合おう(訳者あとがき)

幸福でいることを誓い合おう(訳者あとがき)

いつも運任せで翻訳している。
気になった詩に体当たりしてみて、日本語が浮かんでくるのを待つ。
それらしい形になったら出来上がり。ならなければお蔵入りになる。
一編仕上げるたびに、ぼくに訳せる作品はもう全部訳してしまったという感覚に陥る。
感性のどこかに引っかかる作品が見つかるまでこの無力感は続く。

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かつて学生合唱団に所属していたとき、ぼくは演奏会が面白くなかった。
演奏後にはたくさん拍手

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ユゴー「こうして季節が暮れて……」(フランス詩を訳してみる 12)

Victor Hugo (1861)

先日のランキングで35位になっていたヴィクトル・ユゴー(1802-1885)の秋の詩を訳してみました。1902年になって出版された遺作です。

ボードレール「アホウドリ」(フランス詩を訳してみる 10)

Charles Baudelaire, L'Albatros (1861)

『悪の華』第2版より。

しばしば水夫は慰みに捕まえる、
底深い荒海を滑りゆく船に
気だるげについて来る
雄大な海鳥アホウドリを。

甲板に降ろされるや否や
蒼天の王者は おずおずと不器用に
大きな白い翼を 惨めったらしく
櫂のように両脇に垂らす。

天翔る旅人の 無様でだらしないこと!
かつての偉丈夫の 滑稽で醜いこと

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ラマルティーヌ「湖」(フランス詩を訳してみる 9)

Alphonse de Lamartine, Le Lac (1820)

日本での知名度は低いですが、フランス・ロマン主義を代表する詩です。全64行と、これまで訳してきた詩よりも大分長いので、読み通しやすいように、いつもより若干意訳の度合いを強くしています。

(村上菊一郎・窪田般彌・入沢康夫の訳を参考にした。)

Ainsi, toujours poussés vers de nouveaux

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