幸福でいることを誓い合おう(訳者あとがき)
いつも運任せで翻訳している。
気になった詩に体当たりしてみて、日本語が浮かんでくるのを待つ。
それらしい形になったら出来上がり。ならなければお蔵入りになる。
一編仕上げるたびに、ぼくに訳せる作品はもう全部訳してしまったという感覚に陥る。
感性のどこかに引っかかる作品が見つかるまでこの無力感は続く。
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かつて学生合唱団に所属していたとき、ぼくは演奏会が面白くなかった。
演奏後にはたくさん拍手をもらえたし、中には1500円のチケットをわざわざ買って聞きに来てくださる方もいた。
でもそれがなんなんだよ、と思った。
こっちは死ぬ気で音楽を届けているのに何も返してもらえない、という気持ちだった。
ぼくはどんな見返りを求めていたのか。それは演奏者と聴衆が一緒に響き合う神秘的な体験だったのだろうか。
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ゲオルゲの詩を訳していて、これはすごく好きだと思った。
ゲオルゲは軽々しく好きと言うことを許さなそうなタイプの詩人だ。
現にぼくはこの詩が全然分かっていない。年が steigen する(高まる)とはどういうことなのか。3行目の flicht は直説法なのか命令法なのか。麦の穂(?)のことをどうして saat(種子)と言うのか。
それでもぼくはぼくの訳を公開せずにはいられなかった。
この詩の中の、失われていく自然、終わりかけの関係、その中で美しさを見つけて幸福であろうとする姿勢がいとおしかったから。
ねえ聞いて聞いて、と言いたかった。一緒に震えようよ、と。
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ラマルティーヌの「秋」を読んでいたとき、いつも参考にしているこちらのアンソロジーの注に面白いことが書いてあった。
最後から2番目の連に関して、この詩を書いていたころ、ラマルティーヌの恋人の母親が、財産のない男と結婚することに反対していたのだという。その後、『瞑想詩集』が出版されて大ヒットしたことで、母親は考えを変えた、と付け加えられていた。
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初心者のための投資術みたいな記事を読んだら、20代は投資よりも自己投資が大事です、と書いてあった。
ぼくは何をすればいいのだろう。こんな運任せのあそびをいつまでも続けていていいのだろうか。
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Schön ist der Flammen Schein,
Es springen die Funken;
メーリケの詩「捨てられた娘」のこの2行が、これまで訳した中で一番好きかもしれない。
炎のかたち きれい
火花たち とびはねる
と訳した。
特になんということもない一節だが、失恋した少女の、幼い真剣な眼差しが、およそ200年の時を隔てて、はっきりと浮かんでくる。
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そんなぼくのコレクション。
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