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エッセイ

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私のこと、日常のこと
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記事一覧

一緒に、光が差す場所で | エッセイ

一緒に、光が差す場所で | エッセイ

「あなたがそうなっても、私は変わらないもの」

 当たり前のように言い放った彼女の横顔を、今でもはっきりと思い出せる。薄暗い部屋の中で、私には見えないものをまっすぐに見据えた強い目をしていた。

 それは、横浜・みなとみらいのホテル最上階に友人と宿泊した夜のことだった。30歳目前の女2人、白ワインを片手にベッドに寝そべっていた。

「映画でも見ない?」

 唐突な彼女の提案に、私は大きく頷いた。ふ

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両家顔合わせ食事会は手作りしないほうがいい | エッセイ

両家顔合わせ食事会は手作りしないほうがいい | エッセイ

両家顔合わせ食事会。

そう、それは結婚前に両家が一堂に会して挨拶をし、婚約を確認し合う食事会。初対面の家族が出会い、ぎこちなく会話を交わして親睦を深める。

一般的には1人あたり1万円ほど。よいお店の個室をとり、服装は全員フォーマルで、上座下座があり、切って食べる手土産は避ける。和食なら料亭、多いのはフレンチのフルコース。下見のために一度訪れて、プログラムをつくって、費用は自分たちで……。

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はじまりのXYZ | エッセイ

はじまりのXYZ | エッセイ

「XYZは最後のカクテルって言われてる。アルファベットの最後だから」

 最後のカクテル、と私は繰り返した。薄暗いバーで、オーナーは続ける。

「最後ってことは、また最初があるってことだろ」

 それはたしか、春の気持ちのよい夜のことだった。23時半過ぎ、バーの扉を開くと客は誰もおらず、唯一の店員であるオーナーに私はカウンター席へ促された。

「きらきらした感じのやつ、お願いします」

 21歳の

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お盆を終えて | エッセイ

お盆を終えて | エッセイ

5月に祖父を亡くしてから3ヶ月、新盆をあらかた終えました。大変だったけれど、学びは多かったので自分の記録として残しておきます。
(祖父を亡くしたときのエッセイは以下)

とにかく、ドタバタしてたら終わりました...。事故で亡くなったこともあり、誰ひとりとして予期できなかった今回。入院経験なし、持病なし、毎日しっかりごはんを食べ(新卒社会人男性くらい)、目と耳は悪くなってきたけれど認知症の気配もなく

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日記 夫婦のこととか

日記 夫婦のこととか

朝起きたら、熱帯魚がいなかった。

オレンジ色で人懐っこいレッドグラミー。水槽を覗いて数秒、そうだ、深夜に埋めたんだったと思い出した。容態が急変して2日、静かに彼女は息を引き取った。もう会えない。

たかが魚、と言う人もいる。
そういう人は、祖父が亡くなったときも「そのくらいで」と鼻で笑った。私の痛みは私の痛みだ、そう分かっていても、あいまいに笑い返すたびすこし胸が詰まる。
空の水槽を撫でて、弱り

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いまは、まだ | エッセイ

いまは、まだ | エッセイ

祖父の訃報が入った。
享年88、病気もなく直前まで変わりない様子だったという。

地元で祖父と2人で住む母から祖父が救急搬送されたという連絡が来たとき、「これは、だめだな」と直感で悟った。今までも何度も搬送されていたけど、今回は母が異様に落ち着いていたからだ。

喪服のレンタルを調べ、会社の休暇制度を調べ、直近の予定を確認しながらも、頭のどこかでは「まさかね」と思う楽観的な私もたしかにいた。でも、

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お鮨!お寿司!おすし! | エッセイ

お鮨!お寿司!おすし! | エッセイ

私の友人は冬生まれが多い。
なので、冬はお祝いの機会がほかの季節よりもかなり増えます。

「なに食べたい?」
「お鮨!」

このやりとりが、この冬、祝う相手の全員と発生しました。なぜ……?
うん。お鮨美味しいもんね、わかるよ。毎週食べても飽きないよね。せっかくだから、行ったところをまとめようね。

都内の、25,000円以下くらいで食べられるお店7店舗です。

築地青空三代目 丸の内12月にランチ

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1年まとめ | エッセイ

1年まとめ | エッセイ

 2023年度も終わり。
 大学入学を始め、さまざまなことがあった1年でした。せっかくなので、振り返ってみます。

大学にて 2023年の4月、京都芸術大学の文芸コースに3年次編入しました。もっと文章を書けるように、読めるようになりたくて。
 試験もない通信制の大学、ちゃんと学べるの? 友達はできる? 不安もいっぱいでしたが、幸運にも友人や先生方にも恵まれ楽しい学生生活を過ごしました。何事も自分か

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第3回文芸実践会・短歌:テーマ「砂」 | 活動報告

第3回文芸実践会・短歌:テーマ「砂」 | 活動報告

第3回目となる今回はなんと、京都芸術大学・通信で「短歌と俳句」の講師を担当していらっしゃる中沢直人先生をゲストとしてお迎えしました。

事前に提出された14首を皆で批評し、最後に本人が作品の意図について説明をします。今回のテーマは「砂」で、詠み込み必須です。

音の渦、まばゆい笑顔はおまじない きみは磁石、わたしは砂鉄田村:下の句がおもしろい。きみに吸い寄せられる、惹かれているように思ったので恋愛

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書道と夫  |  エッセイ

書道と夫 | エッセイ

 真白な紙に、黒がすぅっと走る。

 伸びやかな線が踊り、三十秒ほどで一文字が作られた。べったりとした墨が筆を通すと途端に軽やかな文字になる様子は、いつ見ても不思議な気持ちになる。
 まあ、読めないのだが。

「それ、なんて読むの」
「秋」

 私の質問に答えながら夫はもう次の字を書いている。
 ぐっぐっと筆に力を込めてゆっくり書いているのに、滲むこともぶれることもないのはなぜだろう。私が習字をす

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日記と短歌と俳句と

日記と短歌と俳句と

忙しかった年末年始がやっと落ち着きました。

あけましておめでとうございます、というには少し躊躇う日にちと、心配なニュースの数々ではありますが。

ふりかえりを兼ねて。
去年最後の授業だった『短歌と俳句』から、自分が提出したものをこちらに載せたいと思います。
自分の去年1年を表すような短歌と俳句になったので、備忘録をかねて日記のようなかたちで記します。

まずは短歌。

この短歌は、2023年に出

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第2回文芸実践会・漢詩和訳「雨夜」 | 活動報告

第2回文芸実践会・漢詩和訳「雨夜」 | 活動報告

第1回・短歌に続き、今回は詩の会を開催しました。同じ漢詩の和訳を皆で行うことで、各人による訳の違いを楽しみ、自身の表現の幅を広げることが目的です。

事前に提出された9つの詩を批評し合い、最後に本人が作品の意図について説明をします。
(↓漢詩和訳とは)

原詩について今回、和訳を行った漢詩(原詩)はこちら。
明代に活躍した詩人・何景明(1484~1522)の五言律詩である、『雨夜』という作品です。

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勉強をすること、悔しいということ  |  エッセイ

勉強をすること、悔しいということ | エッセイ

悔しい、と思うことがなかった。

2歳から習っていたピアノも、中学のときに部活動で担当していたサックスも、勉強もテストも入試も就職も、1度として「悔しい」と思ったことがなく、また自分の選択や結果に対して「後悔」することもなかった。凪のような人生だった。

常に1番だったわけではない。
ほどほどの努力をしてほどほどの結果が出ればそれで私は満足だった。自分より上の人がいれば素直に祝福し、自分と比べるこ

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親友について  |  エッセイ

親友について | エッセイ

 親友がいる。

 目は大きく鼻は高く派手で綺麗な顔立ち、すらりと長身、頭脳明晰な1つ年上の女性だ。高校1年生の時に出会ったため、付き合いはそろそろ13年目になる。去年の私の結婚式では披露宴の司会という大役を引き受けてくれた。そんな彼女のことが、彼女と出会ったころの私は心底苦手だった。

 高校のころ、彼女はプライドが高かった。すべて自分が1番でないと気が済まず、気に入らないことがあればすぐに言い

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