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ショートストーリー

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短い物語をまとめています。
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#片思い

迷宮入り。

迷宮入り。

嘘しかつけない日に良い事があった。
正直に過ごそうとした日は怒られた。

嘘をついてはいけませんと教えられたけど、正直なことが良いわけではないらしい。ついていい嘘というのもあるらしい。

嘘をついて、笑って見せた。
正直に泣いた。

朝から、元気に挨拶した。
やりたくないことを断った。
みんなの話題に話を合わせた。
知らないところで起きた悲惨なニュースを消して、ゲームの続きをした。
もう会う気のな

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消えた蜘蛛の居場所は知らない。

消えた蜘蛛の居場所は知らない。

 戸惑いながら怒るボクに、「ごめんね」とすぐに謝れるキミに恋をするのは1年後のことだった。

 小学校の掃除の時間。共にふざけていた女の子が急に泣き出した。箒の柄の木の部分でボクを叩いて笑っていたその子が、暫くして、ぼーっと他のことに気を取られていたから、ボクはその子の頭にコツンと箒の柄を当てた。すると、その子はしゃがみ込んで泣き出してしまった。すぐに「だいじょうぶ?」と、周りの女の子達が集まって

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本命のキミへ。

本命のキミへ。

 片思いの相手から義理チョコを貰ったあと、少し話す時間がとても嬉しかった。不思議と焦りも緊張もなく、僕だけの片思いが滞りなく進行中だ。
 その日も何人かが、「しょうが無いから、あげるよ」と僕のところにやってくる。そんな男も女も関係なくチョコを食べる義理チョコ交換会が始まると、滑り込むようにキミも僕にチョコをくれた。
 その時はまだ、キミと余り話したことがなかったら、ドキっとした。
 でもその日から

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【私のこと好き?】企画参加

【私のこと好き?】企画参加

物語の中には沢山の人がいるし素敵な人が多いから、この中から選ぶことにした。
「私のこと好き?」なんて、野暮なことを確認しないでも気兼ねなく「好きなんだ」と言える存在を手に入れられるんだから。いつでも本棚に座っている静かなところが好き。
バナナと遺伝子が50%も同じ生き物からピッタリ来る人を選ぶなんてナンセンスだし、もし、そんな人が現れてもなんだか萎縮してしまうから。
だから、もう決めたの。次はこの

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ペンシルnoチョコレート

ペンシルnoチョコレート

背伸びの上手い人たちに囲まれた幸せな時間だった。ちょっと高いところにあるものを無邪気に取る人たちだから、そこには憧れも混じった驚きがあって自分の心まで両手で掬い上げられたような感覚がしていたんだ。
そんな人たちの中で、格別に背伸びの上手かったキミに惹かれていた。

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まだ、そこに君がいる気がして。

まだ、そこに君がいる気がして。

シッポを切り離したトカゲは、自分のシッポのことをいつまで覚えているのだろうか。命の危険から逃れるために仕方なく切り離すのだから、逃げる事に全力を注いでいて、それどこではないだろう。
でも、ボクなら後で気になって、一度見に戻りたくなると思う。すぐに戻るのは危険だとしても、ほとぼりが冷めた、そう、何年かたった後なら大丈夫だろうと見に行ってしまうと思う。
ボクにとってその人は、そんな思い出だった。

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いつもの席で、いつも二人で。

いつもの席で、いつも二人で。

「優しさにすら傷付くような弱い人間だから」そう言ってから、彼女は美味しそうに注文したパスタを食べはじめた。
そんなことを自ら口にするような人は本当に弱いのか、と頭をよぎった。
でも弱っている可能性はあるか、と思い直して「そうなんだ」といつもの相槌をかえした。
彼女は時々、こんな風にボクを食事に誘って、いや、ボクを食事に誘ってではない。彼女の食事にボクを誘う。
そんな彼女を、頭ごなしに否定できないボ

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