記事一覧
2024年3月に読んだ本
『天才による凡人のための短歌教室』 木下龍也
【雑感】
これは短歌の愛に溢れた、私たちへの挑戦状である。現代短歌の旗手、木下龍也が、惜しみなく創作における手の内を明かしてくれる贅沢さ。内容は端的かつ実践的。非常に分かりやすい。短歌とは、今この瞬間を切り取ることより、過ぎ去りし思い出を書くことに適したツールであるという。文章からは、三十一文字で記憶を結晶化させる営みの奥深さ、歌人としてのプロ
2024年2月に読んだ本
『かわいそ笑』 梨
【雑感】
信じたくない現実が近づいてくる。こちらが目を背けているのを知っているかのように、顔を覗き込んでくる。第三者だと思っていた自分が、いつの間にか当事者になっているというようなことが、ネットの世界では屢々ある。被害者、加害者が誰なのか分からぬまま、悪意も善意も匿名性の渦に消えていく。伝承の豊富さを見れば、現代の遠野はインターネットなのかもしれない。これを読み終えた次
2024年1月に読んだ本
『口訳 古事記』 町田康
【雑感】
古事記にして町田節。軽妙軽妙軽妙。神々のスケールはべらぼうで、その一挙手一投足がまた新たな神を生むという。神は神を気軽に発生させ、気軽に殺す。その思想、行動原理は一様に気狂い。人知の及ばぬとはこのことかと思いきや、一つ一つの伝承の源泉は、結局人間の想像力なのだから面白い。関西弁の神々は不条理ギャグ漫画のようなやり取りを続け、自然体のまま独自の哲学をもって
ごはん杖【#毎週ショートショートnote】
私は子供の頃から、巻寿司をごはん杖と呼んでいた。ごはんで出来た杖だからだ。
流石に大人になってからは改めたが、一度だけつい口走ってしまったことがある。同僚達と寿司屋に行った時であった。
「ごはん杖、一本追加で」
しまった、と思った。私は大いに笑われた。
そんな中、一人笑わない女性がいた。彼女は後からこっそり私だけに告白した。
「私もごはん杖と呼んでます」
妻との出会いはそんな些細なきっか
2023年 FNS27時間テレビの話
2023年7月22日(土)-23日(日)放送
FNS27時間テレビの感想です。
4年ぶりに復活した27時間テレビが終わりました。
番組が復活すると聞いて驚き、総合司会が千鳥・かまいたち・ダイアンの3組であることにその何倍も驚いた数ヶ月前が今では懐かしく思います。
結局視聴できたのは15時間程度だったかとは思うのですが、感想を一言で表すと「めちゃくちゃ面白かった」ですね。
テレビが好きでずっ
ブーメラン発言道【#毎週ショートショートnote】
六道輪廻のローテーションに「ブーメラン発言道」が加わったのはつい最近のことである。
修羅道に常に諍いが、餓鬼道に絶え間ない飢えが存在しているように、ブーメラン発言道の世界では空を覆い尽くすほどの無数のブーメランがいつも飛び交っている。
メインストリートを歩けば、脳天にブーメランが刺さった亡者がそこかしこに斃れており、中にはいつか見たような政治家や評論家の姿もあった。
「静かにしろ!」と大声で
メガネ初恋【#毎週ショートショートnote】
安藝 聖世美 様
お元気ですか
突然の手紙で驚かせてしまったらごめんなさい
やわらかな春の日が続いて
空に雲が 靉靆(注1) としている様子は
見ているだけでどこか穏やかな気持ちになります
でも今の僕はそうではありません
あの日からずっと
靉靆(注2) とした心持ちをしているのです
卒業式の日
僕はあなたに想いを伝えようと決めていました
でも言い出せなかった
僕の中ではあの日が
今も
オノマトペピアノ【#毎週ショートショートnote】
ピアノを弾く前はいつもこうだ。
脳内で言葉と音楽が混ざってぐちゃぐちゃになる。
ドミドミファラファラ。
体中が緊張でミシミシ悲鳴を上げる。
だが、メゾメゾしてても仕方がない。
ト音ト音拍子にいかなくとも、
四分四分挑むな!当たってアレグロ!
僕は舞台へスタッカート歩み出る。
レント椅子に座ると、辺りは静寂に包まれた。
会心の出来だった。
スラースラーと軽やかに動く僕の指。
ファミファミと
理科室まがった【#毎週ショートショートnote】
立てこもり事件の現場は理科室だった。
一人の教師が生徒三十名を人質とし、突入すれば全員殺すと叫んだのだ。教師は錯乱した様子で、会話は既に成り立たない。業を煮やした警察は、強行手段に踏み切った。
クレーンで吊り下げた鉄球で校舎の外壁を破壊し、一気に制圧する作戦を実行に移したのだ。
異常な衝撃に歪む室内。
混濁した意識の中で教師は思わず絶叫する。
「理科室まがった!?」
場面が切り替わる。