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記事一覧
ごはん杖【#毎週ショートショートnote】
私は子供の頃から、巻寿司をごはん杖と呼んでいた。ごはんで出来た杖だからだ。
流石に大人になってからは改めたが、一度だけつい口走ってしまったことがある。同僚達と寿司屋に行った時であった。
「ごはん杖、一本追加で」
しまった、と思った。私は大いに笑われた。
そんな中、一人笑わない女性がいた。彼女は後からこっそり私だけに告白した。
「私もごはん杖と呼んでます」
妻との出会いはそんな些細なきっか
ブーメラン発言道【#毎週ショートショートnote】
六道輪廻のローテーションに「ブーメラン発言道」が加わったのはつい最近のことである。
修羅道に常に諍いが、餓鬼道に絶え間ない飢えが存在しているように、ブーメラン発言道の世界では空を覆い尽くすほどの無数のブーメランがいつも飛び交っている。
メインストリートを歩けば、脳天にブーメランが刺さった亡者がそこかしこに斃れており、中にはいつか見たような政治家や評論家の姿もあった。
「静かにしろ!」と大声で
メガネ初恋【#毎週ショートショートnote】
安藝 聖世美 様
お元気ですか
突然の手紙で驚かせてしまったらごめんなさい
やわらかな春の日が続いて
空に雲が 靉靆(注1) としている様子は
見ているだけでどこか穏やかな気持ちになります
でも今の僕はそうではありません
あの日からずっと
靉靆(注2) とした心持ちをしているのです
卒業式の日
僕はあなたに想いを伝えようと決めていました
でも言い出せなかった
僕の中ではあの日が
今も
オノマトペピアノ【#毎週ショートショートnote】
ピアノを弾く前はいつもこうだ。
脳内で言葉と音楽が混ざってぐちゃぐちゃになる。
ドミドミファラファラ。
体中が緊張でミシミシ悲鳴を上げる。
だが、メゾメゾしてても仕方がない。
ト音ト音拍子にいかなくとも、
四分四分挑むな!当たってアレグロ!
僕は舞台へスタッカート歩み出る。
レント椅子に座ると、辺りは静寂に包まれた。
会心の出来だった。
スラースラーと軽やかに動く僕の指。
ファミファミと
理科室まがった【#毎週ショートショートnote】
立てこもり事件の現場は理科室だった。
一人の教師が生徒三十名を人質とし、突入すれば全員殺すと叫んだのだ。教師は錯乱した様子で、会話は既に成り立たない。業を煮やした警察は、強行手段に踏み切った。
クレーンで吊り下げた鉄球で校舎の外壁を破壊し、一気に制圧する作戦を実行に移したのだ。
異常な衝撃に歪む室内。
混濁した意識の中で教師は思わず絶叫する。
「理科室まがった!?」
場面が切り替わる。
大増殖天使のキス【#毎週ショートショートnote】
7時になりました。
ZHKニュースの時間です。
強いポジティブ性を持ち、地獄への定着が懸念される天使について、冥府は緊急の対処が必要な外来生物に指定し、対策を強化することを決めました。
天使は昨年に地獄で初めて確認され、先月には血の池港で陸揚げされたコンテナから1万匹以上が見つかるなど、これまでに全獄で20件あまり、累計10万匹が確認されています。
冥府は昨夜の閻魔官邸での会見で、天使を「S
失恋墓地【#毎週ショートショートnote】
N県の牛来村は、東京から車で3時間半。
山間の風光明媚なこの村に「失恋墓地」という場所がある。オカルト好きが「絶対に行ってはいけない」と噂するこの墓地に一体何があるのか。この目で確かめるべく、我々月刊シー取材班は現地調査を敢行したのだった。
村外れの一角に静かにそれはあった。
苔むした石柵が、まるで来るものを阻むかのように墓地を取り囲んでいる。後ろは森になっており、昼間だというのに薄暗い。恐る恐
2次会デミグラスソース 【#毎週ショートショートnote】
はじめに申し上げておく。
この「デミグラスソース」は、比喩だ。
俺はその日、会社の新年会に参加していた。
会は職場近くの有名洋食屋を貸し切っての盛大なものだった。テーブルには豪華な料理が所狭しと並んでおり、名物のデミグラスソースを使ったハンバーグはまさに絶品。俺は牡蠣のフルコースでしこたまワインを飲んだり、馬鹿みたいにでかいパフェを完食して場を盛り上げたりと、この時間を心ゆくまで楽しんだ。
そ
宝くじ魔法学校 【#毎週ショートショートnote】
「宝くじ魔法学校…」
それが先代の最期の言葉やったんです。
私は学が無いもんですから、しょうみな話、その意味がよう分からんかったんですわ。ただヤクザの幕引きっちゅうもんは、我々にとって極めて重いもんなんです。若い衆には一語一句違わず、伝えてやらなあかん。ただ、その真意がさっぱり分からん。私も無い頭絞って色々考えました。倅に聞いたら、魔法学校っちゅうのはハリポタいう映画のことちゃうかという話で。す
2003年 副都心にて
元子供と大人予備軍で満たされたスクランブル交差点。交錯する途方もない時間の波にいつも溺れてしまいそうになる。ここに立つ人間ひとりひとりに発生からの物語が存在し、何かの因果で今、この限られたフレームに集結しているという事実。その偶然性を計算するには、自らの頭蓋が収納しているコンピュータのスペックではとても足りない。脳漿が沸騰しつつあるのを感じた私は、一度大きく深呼吸をする。
やがて歩行者信号が青に変