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2024年1月に読んだ本




『口訳 古事記』 町田康


【雑感】

古事記にして町田節。軽妙軽妙軽妙。神々のスケールはべらぼうで、その一挙手一投足がまた新たな神を生むという。神は神を気軽に発生させ、気軽に殺す。その思想、行動原理は一様に気狂い。人知の及ばぬとはこのことかと思いきや、一つ一つの伝承の源泉は、結局人間の想像力なのだから面白い。関西弁の神々は不条理ギャグ漫画のようなやり取りを続け、自然体のまま独自の哲学をもって、生かし、殺し、嘆き、笑う。こんな方々から生まれた国に生まれた我々は、もっともっと好き勝手に生きるのが良いのかもしれない。




『成瀬は天下を取りにいく』 宮島未奈


【雑感】

少し変わった才女成瀬と、彼女を取り巻く普通の人々の日常。話の規模は小さいが、彼女のスケールは馬鹿でかい。舞台は滋賀。私自身同郷ということもあり、折々に仕込まれた「滋賀あるある」たるものには気持ち良く殴られた。学習船うみのこへの「琵琶湖の生き物や水質について学習して、カレーを食べる」の言い様には流石に笑う。ただそれはこの作品の一要素に過ぎない。この成瀬、とにかく気持ちの良いやつなのだ。女学生一の快男児は、作中でも、読者の心にも爽やかな風をびゅうびゅう吹かす。学生時分に読めれば尚更良かったと思う。




『夜行』 森見登美彦


【雑感】

作者の描く世界は、いつも憎たらしいほど美しい。内気な文学青年たちの心を撃ち抜かんとするその居心地の良さは、その世界に吸い込まれてしまいたくなるような魔力と魅力がある。他作品に比べてユーモアこそ控えめだが、不気味な怪異の連なりと、同時に描写される沢山の夜の美しさは唯一無二であった。妖しい。あと登場する地名。ずるい。鞍馬、尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡。一つ一つずるい。何がずるいかは分からない。良すぎることが罪。雰囲気の極北。この辺りがつい憎たらしいとか言ってしまいたくなる所以である。




『エレファントヘッド』 白井智之


【雑感】

二十転三十転。倫理観皆無の弩級のエンタメ。一切の前知識なく一気に読めたのは幸運だった。絶対にそうすべき。悪趣味で奇っ怪で緻密で繊細。この世の最悪が勢揃い。臓物を並べて創ったモザイクアートのような仕上がりで、すべてに意味しかない。とても人に勧めたいが、とても人に勧められない、地獄のような幸せな読書体験だった。ロジックもトリックも浮世離れしているが、全くもって腑に落ちるし、難解そうで分かりやすいのが凄い。作者の頭の中を見てみたい。きっとめちゃくちゃ性格が悪いはず。もちろん最高の賛辞の意味で。

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