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オノマトペピアノ【#毎週ショートショートnote】

ピアノを弾く前はいつもこうだ。
脳内で言葉と音楽が混ざってぐちゃぐちゃになる。

ドミドミファラファラどきどきはらはら
体中が緊張でミシミシみしみし悲鳴を上げる。

だが、メゾメゾめそめそしてても仕方がない。
ト音ト音とんとん拍子にいかなくとも、
四分四分しぶしぶ挑むな!当たってアレグロくだけろ

僕は舞台へスタッカートすたすたと歩み出る。
レントでんと椅子に座ると、辺りは静寂に包まれた。


会心の出来だった。

スラースラーすらすらと軽やかに動く僕の指。
ファミファミぱちぱちと割れんばかりの拍手と歓声。
今この瞬間、僕はピアニスト最高の栄誉を手に入れたのだ。


そこで目が覚める。
夢、だったか。

コンクール当日の朝。
ダ・カーポはじめからというわけだ。

どこからかピアノの音が聴こえる。
今日、僕が演奏する曲だ。
それが携帯電話の着信音だと気付く。


コーチからの激しい怒声。

午前11時。
僕の出番はすでに終わっていた。
着信履歴は30件。寝坊をしたのだ。

意識が朦朧とする。
足の力がだんだん弱くなる。
僕はその場に崩れ落ちた。また音が鳴る。


デクレッシェンド!!!どんがらがっしゃん!!!

(410字)



たらはかに(田原にか)様の企画に参加しました。
今回のお題は「オノマトペピアノ」でした。
ありがとうございました。

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