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隣に咲いた向日葵

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向日葵だった人

向日葵だった人

額にじわりと汗が滲む。薄い生地と言えども、腹の少し下をがっちりと掴まれたように纏っている浴衣は暑い。
彼女は殊更に暑そうだ。僕より一、二枚多く重ね着しているはず。落ち着いた緑を基調とした浴衣。帯の上から、さらにシースルーな赤いリボンを巻いている。
結んだ後ろ髪に、くるりと波打つ後れ毛。目元のラメが太陽の光を反射させて、キラキラと音を奏でているみたいだった。

三時間ほど余裕を持って家を出て、会場近

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当たり前だと言わせて

当たり前だと言わせて

調子に乗った、と思った。同時に、それでいいとも思えた。
彼女の喜ぶ顔を見て、僕もまた嬉しくなる感覚が手に取るようにわかる。
何よりも、365日のどの日よりも楽しみにしていた日。前夜、仕事が終わってからずっと、そわそわしっぱなしだった。

普段は昼からの仕事で11時ごろの起床だから、早起きは辛いかとも思われたが、案外流れるように身体を起こすことができた。
愛ってすげぇな、と思う。できないことが、でき

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どうせ、愛だ。

どうせ、愛だ。

それぞれの世界から忍び寄る憂鬱から逃れるようにして、恋人とお揃いのTシャツを身に纏ってみる。貰った時の感情とか、燦々とした情景とか、彼女の笑みなんかが香ってくる。身体の奥の奥の方からぽわりと温かいものが漂ってきて、彼女のことが恋しくなっては、会いたくなる。会えない時間にどうしようもなく会いたくなるのに、ないものねだりだな、会える時間を疎かにしてしまう瞬間がある自分に後になって気がつく。バイバイと手

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面影が、よすがに重なってゆく

面影が、よすがに重なってゆく

青々と咲き誇るネモフィラの中に、ぽつぽつと白い子たちもいた。それを見つけた恋人は、幸せを手に掴んだような面持ちで目を輝かせていた。

フィルムカメラを持ってきてよかったと心の底から思った。淡い写真は、今どきスマホのアプリでも簡単に撮ることができるけれど、27枚という制限付きのフィルムに、慎重に、丁寧に、彼女の全てとまではいかずとも、僕が撮ることの出来る彼女を精一杯写すことができるから。昨年と同じ場

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7%

7%

いくつになっても月を見上げる人間でいたい。月に情緒を見つけられるからよいとか、月の美しさを一瞥もしないからよくないとか、そういった類のものではなくて、ただ、月を見上げる人間でいたい。星でもいい。真っ暗な帳に穴が空いたように煌めく月や星をぼうっと眺め、綺麗だと、美しいと、そう思える心を持った人間でありたい。僕がいつ頃から夜空を見上げるようになったのか、それは覚えていない。いつの間にか、淡黄色に輝く彼

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あぁもう、暇じゃなくたって会いたい

あぁもう、暇じゃなくたって会いたい

一目見たとき、胸の表面からふわっと花を咲かせるような感覚。一瞬にして身体中に根を張り巡らせ、枝を伸ばし、鮮やかな色が実る。
マッチ棒を擦ったその一瞬、勢いよく燃え盛る炎のような煌めき。
その対象が人間であろうとも、他のどんなものであろうとも、一目惚れというものは確かにある。
一心不乱に見つめ、目で追いかける。その人だけが、それだけが、周りの光を全て吸収してしまったかのような輝きを得る。目を奪われる

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すっげぇ幸せ、って思ってた

すっげぇ幸せ、って思ってた

天国には7つの階層あって、その最上階には神様がいる。
最上階の天国。最大級の幸せ。
セブンス・ヘブンは「すっげぇ幸せ!」って意味があるスラングらしい。
7つの階層の最上階ってどんなところなんだろう。
すっげぇ幸せ! ってどんなものなんだろう。
神様がいるところなんて気を遣って疲れてしまいそうだけど、そこからの景色は眺めてみたい気持ちはある。
経験したことあるんだろうか。すっげぇ幸せ! って感じたこ

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好きも、嫌いも、連絡しても

好きも、嫌いも、連絡しても

いつかは終わりが来る。
そんなこと、誰しもがわかっているはずだ。
それでも、僕たちは、終わりが来ないかのように、終わりに気が付かないふりをして笑っている。喜んでいる。苦しんでいる。
誰かを好きになることは容易い。一目惚れとか、目で追っていたとか、情が湧いたとか。
誰かに好きと言って。誰かに好きだと言われて。あぁ、わたしも好きかもなんて言って。付き合って、別れる。
キスから始まることもあれば、セック

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ぬくもりとエロティシズム

ぬくもりとエロティシズム

帷が降りた夜に月がぴたりと張り付いている。
見上げた先で煌めく孤独は、とてもとても麗しい。

月を捕らえんとばかりに月暈が浮かび上がっていて、思わずスマホを取り出してデジタルの中へ押し込もうとした。
画面を六等分するグリッドの中央に、暗闇で光るボタンのように映しだされている月を収める。
光量やアスペクトを調節して、可能な限りボタンを際立たせてやる。
捕らえたッ——

美しいものを美しいと感じた時、

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恋人はなぜ愛おしいのだろうか

恋人はなぜ愛おしいのだろうか

恋人は何故こんなにも愛おしいのだろうか。そもそも、愛おしいってなんだろう。
分からないけど、愛おしいと感じるものはたくさんある。本、日の出、布団、犬、ぬいぐるみ、友人、猫、そして恋人。
たくさんの愛おしいに囲まれた日常を、平然と日常だなんて言っていいものだろうか。
そうだな、もっと特別で絢爛たるものなのではないか。改めてそう認識すべきものではないだろうか。
愛おしい日常への審美眼を持ち合わせておく

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死にたいなら、会いに行ったらいいと思うんだよ

死にたいなら、会いに行ったらいいと思うんだよ

自殺するのに勇気が必要って、言う人もいるでしょう? でも、ほんとはそんなの必要ないのかもね、とか思ったりもする。必要だとしても、ほんの一瞬だけだよ。しかも、その一瞬の勇気は、勇気なんて呼べるものじゃないと思うんだ。衝動買いと似ているかもね。

どうしようもないことってあるでしょう? 眠れない夜があったり、恋をしてしまったり、お菓子を一袋食べてしまったり。そんな、どうしようもないことの中に自殺も含ま

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恋人と、魔法の時間

恋人と、魔法の時間

二ヶ月も前の話なんだけど、恋人の生誕祭をした。
21歳おめでとうの日。
金ねぇ金ねぇって言う割に恋人へのプレゼントには極限まで使ってしまう、その先の金欠を無視するムーヴ。
去年も今年も、誕生日のあとの財布は痩せっぽっちになった。
誕生日とか記念日にはお手紙を書くのだけど、恋人には文章を書くことを売りにしてるから毎度気合が入る。だけど、読み返すとクサすぎて読んでられない。
もっと、ふわふわした文章書

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あなたと、知らなかった自分と。

あなたと、知らなかった自分と。

陽射しが小道に照り返り、もうすぐ訪れようとしている夏に挟まれたような気分だった。夏は暑くて好きじゃない。

中でも、夏に差し掛かるジメジメとしたこの季節が一番好きじゃない。だが、頭の上でうねるパーマにとっては好都合のようだ。

***

恋人と、久々にバドミントンをした。
何年ぶりだろうか。
記憶している範囲で言えば、4年前以来だろうか。いや、あの時は結局し損ねたから、もっと前ということになる。

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「本当の愛」の裏側

「本当の愛」の裏側

アドラー心理学によると、

確かにそうかもしれない。
自分らしく、ありのまま振る舞うことの出来る恋愛は、それが本当の愛を育んでいる恋愛と言える気がする。

世の中には様々な人がいて、「恋人に尽くしたい」と思う人はいることだろう。まぁしかし、そうは言っても、「尽くす」=「無理をする」ということでは無いはずで。
僕も過去には、「尽くす」=「無理をする」もんだと思っていた時期があるけれど、今となっては、

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