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フレンドリーな取り立て屋さん書籍化されます
『フレンドリーな取り立て屋さん』がKADOKAWAさんからコミックとして書籍化されることになりました。
もともとnoteで公開していたこの短編ですが
pixivさんで開催されたマンガ原作コンテスト「コミカライズ・パーティ」でpixiv賞をいただき
ロキチキンさん作画で書籍化の運びとなりました!
原作となった小説ではキャラクターに名前はなく、強面な取り立て屋さんが債権者のもとを訪れお節介を焼くと
ドラマみたいなふたりのはじまり08
後輩を家に泊めたあの雪の日から、今まで以上に彼が気になるようになってしまった。
仕事をしていても、無意識に彼の姿を探してしまう。たくさんの人が話していても、彼の声だけをはっきりと聞き取ってしまう。
そんな自分に気づくと、慌てて首を左右に振り心の中で「別に好きなわけじゃない」と言い聞かせる。
だって、社内恋愛なんて面倒でしかない。
私は悪あがきのように、何度もそう繰り返す。
休憩時間に私が社内を歩
ドラマみたいなふたりのはじまり07
俺は先輩のベッドでひとり横になっていた。
薄暗い部屋の中、ぼんやりと天井を見上げながらため息をひとつこぼす。
冷えた体を温めるために交替でシャワーを浴び、カップラーメンで夕食を済ませ、そろそろ寝ようかという流れになった。
先輩の部屋で眠れそうな場所はリビングにあるソファと、引き戸で区切られた寝室においてあるベッドの二か所。
俺はソファでいいと言ったのに、先輩は自分がソファで寝るからベッドを使って
ドラマみたいなふたりのはじまり06
「――先輩、今の本気で言ってます?」
低い声でたずねられ、その迫力にごくりとのどが上下した。
後輩がこちらに一歩近づき、私の背後にある壁に手をついた。
長身の彼と壁の狭い空間に閉じ込められ、鼓動が速くなる。
「俺がその程度の気持ちで先輩を口説いてるって、本気で思ってます?」
彼は静かな口調で言いながら軽く首を傾けた。
顎をしゃくるようにしてこちらを見下ろす不機嫌な視線が色っぽい。
「自分で言うのも
ドラマみたいなふたりのはじまり05
好意が先か、快楽が先か。
最近そんなことをよく考える。
そっけなく接しているのにめげずに私を口説いてくる後輩は、もともと好意を持っていたからあの夜私を抱いたのか、それとも酔った勢いでの一夜が予想外によかったから私に執着しているのか。
どう考えたって後者だろう。あのイケメンが前から私を好きだったなんてありえない。
入社したころから気になっていたと言われたけれど。私は来年で三十歳。幸せな恋もつらい経験
ドラマみたいなふたりのはじまり04
先輩とふたり、打ち合わせのために取引先に向かった。
ビルの前でコートを脱ぐ。となりにいる先輩を見下ろすと、マフラーをはずすところだった。
綺麗なうなじとうすい耳たぶが目に入って、思わずごくりとのどが上下する。
寒さのせいで耳たぶが赤くなっていてかわいい。冷たくなった耳を甘噛みしていじめたい。首筋にキスをして、うなじにかみついて、痕を残したい。あんたは俺のものだってしるしをつけてやりたい。
そんなこ
ドラマみたいなふたりのはじまり03
一週間前。
俺はひそかに想いを寄せ続けていた会社の先輩と寝た。
そして、現在。
その先輩に露骨なほど避けられている。
仕事中は最低限の会話しか交わさないし、目も合わせてくれない。
仕事帰りに声をかけようとすれば、気配を察知してあっという間にいなくなる。
先輩が、あの夜のことはなかったことにしてしまおう思っているのが、表情や態度からひしひしと伝わってくる。
いくら酔った勢いだったとはいえ、ひどくな
ドラマみたいなふたりのはじまり02
酔った勢いで会社の後輩と男女の関係になってしまうという、非常に不本意なことをやらかしてから一週間。
私はひたすら後輩を避け続けていた。
あの夜は本当に酔って理性を無くしていただけで、社内恋愛なんてごめんだし、私が好きなのはお互いに心地よい距離を保てる余裕のある年上の男だし、三十歳目前にして五つも年下のイケメンと本気の恋をはじめるなんて、ひたすら面倒でしかない。
もうこれは忘れたふりをしてすっとぼけ
ドラマみたいなふたりのはじまり
ベッドの上で疲労感に包まれながらぼんやりしていると、隣にいた男が体を起こした。
どうやらシャワーを浴びに行くらしい。
あんなに動いた後ですぐにベッドから起き上がれるなんて、さすが若いな。こっちはさんざん喘がされたおかげで、寝返りをうつことすら億劫なのに。
そんなことを考えているうちに、どんどんまぶたが重くなっていく。
「先輩、シャワーはいいんですか?」
その問いかけに、わずかに目を開け首を横に振っ
フレンドリーな取り立て屋さん6 今日も誰かの背中を押す
「おい、お前。ちゃんと人生を楽しんでんだろうな」
仕事を終えた私が会社を出てバイト先に向かっていると、背後から声をかけられた。
少しかすれた低い声に、ぶっきらぼうな口調。
驚いて振り返る。そこにはふたりの男の人が立っていた。高そうなスーツを着た長身の男性と、サングラスに派手なアロハシャツを着た……。
思わず「あ」と声をもれる。
以前、父が作った借金の取り立てに来た人だ。
「フレンドリーさん!」
そ
フレンドリーな取り立て屋さん5 物々交換をする
炎天下の街をひとり歩いていた。
喪服を着た俺の背中に日差しが容赦なく照り付ける。
なにもかも熱かった。背中を伝う汗も、吐き出した息も、目じりに浮かぶ涙も、全部。
めまいに襲われ、視界が反転した。同時に世界から色が消える。
貧血か、熱中症だろう。冷静に考えながら、仰向けに道路に倒れる。
こんなところで倒れていたら、車にひかれるかな。そう思ったけれど、それでもかまわないと目を閉じた。
生き続けたところ