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超短編小説

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ふたり生活

ふたり生活

「私のが遅いから帰りにクリーニング屋で取ってきて」
渡された受け取り票のレシートを財布に入れて
僕のものじゃない
スーツをもらいに行った

「あなたのですか?」
店員に少し
怪しそうな顔をされながら渡された
3枚もあったのだけれど
家までそう遠くないから
少し意地を張って素手で持って帰った

しばらくして君が帰ってきた
「明日の式で使うのよ、助かった」
そんなものギリギリまで
クリーニ

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故郷のちがう人

故郷のちがう人

 今日私は、あなたとあなたの故郷で久しぶりに会いました。
 あなたの故郷は、10月なんかには既に寒空が広がっていて、日光がやや痛いのに上着に困るなんてことがありました。雨が降らなくてよかったね、と、天気の話ばかりする時は、大層な話題も無いときだと言われたりもしますが、あなたと散歩をしている時に限っては、それがかえって心地よかったりもしました。

 私はコーヒーが飲みたくなりました。取ったホテルとは

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朝が来る

朝が来る

髪の毛を乾かして欲しい、でも前髪だけは大事なのと、ドライヤーを手に取った。
君は僕の家に、君が使う為のシャンプーとトリートメントを置いていた。
同じ場所で同じ匂いしてるの、何だか変でしょうと言っていた。

だらしなさが愛しいとするなら、夜だけ着けない上の下着だろうか。確かに、嘘の吐けない胸部の膨らみを見て、少しだけ、美しいと感じた、なんて、まるで芸術家を気取っていたかのようだ。

君との会話はすれ

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ハマナス

ハマナス

夕方5時のチャイムは少しも胸に響かず、
風車の見える砂浜で佇んだ。
隠れ家のような部屋であけた詩集には、
ただひたすらに妻の名前を綴ってあった。
嘘も本当も全てが素晴らしくなった時、
きっと僕らは名前を呼び合うだけで
生きていけるのではないか。

僕はゆっくりと、思い出を処理していこうと思った。

一体今年の8月は何をしていた。
いつもより、会えた友人の多かったことだ。
どんな風に彩られた景色より

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女性教師

女性教師

 ある友人の女性教師から聞いた話だ。今年度はより張り切っている、身の引き締まる思いだと言っていた。どうしてかと私は尋ねた。丁度半月程前に、大層惨めな思いに晒されたからだそうだ。

 友人が言うには、それは三月下旬の修了式当日にあたる。閉式後教室に順次戻り、友人は通知表をひととおり捌き切り、今学級最後のHRを始めようとした。睡眠時間を切り崩して作成したビデオレターを流そうと画策していた。しかし、友人

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Dear Smell

Dear Smell

或る映画を口実に、君を家に誘った。
或る映画を見たいと言ったのは君の方だった。
「どうしてスクリーンで見れる間に行かなかったの」と、言い訳の予想ができた文句を君にぶつけた。
何やら少し嬉しそうに、「いいじゃん」と返された。
僕には余り興味の無い映画だった。
でも僕は君に興味があった。
僕は君の見たい映画に少し、興味を持っていた。
実家暮しの君の家に行く気は無かった。
僕は君を家に誘った。
「大丈夫

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四月が終った記念に

四月が終った記念に

 「約束をしてから好きになることもあるから」と言う助言を友人から頂き、貴方とお付き合いを始めてから一か月が経ちました。早くも四月が終りました。五月が始まった記念に、いえ、四月が終った記念に、以下の日記を書き残す事にしました。

 まだ私は、貴方に告白された時のことをありありと思い返す日々が続いています。何故か、あの時、調子がいいほどに、小山で街灯りが隠れた夜景をまさに見ていたあの時、貴方は私に「好

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冬服

冬服

 朝はもう めっきりと肌寒くなった まだ秋 もう冬 だとか言っている間に とうとう冬物がクローゼットから引っ張り出される なんとなく上着が必要な季節に なんとなく浮気をされた時節は 「寂しくさせた僕が悪い」 の最終判決となった 僕が言い返す気も 別れる気もない癖に 『失恋のメカニズム』なんて謳った小雑誌を読んでいる頃にはもう 君は別の男の子のこと 考えていたりするんだろうか

 嫉妬ができたり 可

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ボタン

ボタン

 あなたと二人で過ごすこの部屋が陽の光で照らされる頃、いつ寝付いたんだっけ、なんて思いながら、あなたの方を見る。わたしがあなたの枕を奪ってしまったのか、あなたが枕から逃げていってしまったのか、それは分からない。けれどあなたは、まるでわたしに「もう食べないからあげる」と、自分の気に入らなかったお菓子を押し付けるように、枕と掛け布団を丸ごと明け渡して、うずくまって寝ていた。わざと起こすお節介なわたしと

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ブーケ

ブーケ

大衆であり、個人であるひと、だから

何処からも好かれて幸せそうだ

器用に生きているように見えて、

一番大事なものが「今」だって解っている

人生に失敗しない人、

本当は、打たれ弱い自分を隠す為だってことに

心の何処かで気づいてる

未来も明日も昨日も履き捨てて

手にしたものが、切なくて

不安で頬を伝った涙の理由も

指の間から零れ落ちていった

この街にいるのは、

ただ寂しくて、会

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護られる佳人

護られる佳人

私はそう きっと 護られる為に産まれてきた

護られた後 笑顔で 涙で 

「ありがとう」 この無償の御褒美をあげる為に産まれてきた

私 セクハラされてるみたい いつも触ってくる人がいるの 肩を

女性の身体で唯一 触ってもいやらしくない箇所だとでも

思ったのでしょうね

私は大丈夫 そう 今は 大丈夫だから

これから何かあった時 また相談してもいいかしら

これでわかったのでしょうが 貴方

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仮失恋日記

仮失恋日記

 五日前、大学時代からとても仲が良かった後輩から「先輩、聞いてほしい話があるんです、文章だと長いから、電話したい」と連絡が入っていた。僕は電話をかけた。

 どうやら、他大学の宅飲み会に誘われてついて行ったら、潰れて寝てしまった拍子にキスをされてしまったらしい。それも、何度も。潰れていながらも意識はあったが、突然のことだったらしく思わず、寝たふりをしてその場を過ごし、すごすごと自宅に帰ってきて、電

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相談と文句

「私のことが好きって、はっきり言ってくれないんだよね」 彼氏の話を僕に打ち明けてきた アイスコーヒーをストローで吸い込みながら 「彼氏の相談を男に言う彼女って、最低だって見られるよね、普通」 そう〝わたしはわかっててやっていますよ〟の態度をみせた だからって 最低だと見られることには 何も変わらないけれど でも 「そんなことないよ」 と答えることが 正解だと思った

「でも私

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マイ部屋イズバッド

楽しかった夏休み 川で遊んで 花火も見て 色んなところに出かけて どんなドキドキもまるで君のためにあった 初めて行った遊園地 絶叫マシンが苦手な僕に 可愛いねって可愛く笑う 憎らしくて抱きしめたくて 情けなく手を繋いでみた 見たことない顔をされて 心臓の奥が溢れだしそうだった こんな光景をずっとずっと夢見てた でもそうなってみたら 僕は僕の居場所を無くすように浮き足立っ

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