フェイクニュースと精神医学 :フェイクニュースを信じやすい人はどんな人?〜海外文献の紹介〜
皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうけ)です。
フェイクニュース(fake news)ってご存知ですよね?
日本語に訳すと虚偽報道という意味、要するに「デマ」です。
フェイクニュース(デマ)自体は昔から存在し、例えばノストラダムスの大予言、ネス湖のネッシーなどオカルト的なものから、豊川信用金庫事件やオイルショック時のトイレットペーパー騒動など、社会的混乱を引き起こす迷惑なものまで実に様々あります。
近年、SNSの発達によりフェイクニュースは世の中に拡散されやすくなり、またAI技術革新により本物と間違えるようなリアルなフェイク画像がネットに溢れております...。
そして人類史上フェイクニュースが最も猛威を振るったのは、コロナ禍であったのは間違いないでしょう。
Covid-19やワクチンに関するフェイクニュースは多種多様であり、「BCGワクチンがコロナ感染を抑制する」と科学者すら信じたデマもあれば、「ワクチンにマイクロチップが含まれている」などという病的なデマもありました...。
それにしても人はなぜフェイクニュース(デマ)を信じるんでしょうか...🤔
そんな疑問を抱く中、昨年「フェイクニュースを信じやすい人」の心理学・精神医学的特徴を研究した論文を発見いたしました!
なかなか興味深い結果だったので、今回の記事で是非皆様とシェアしたいと思います(今回は短い記事です)。
【研究紹介】
<目的>
フェイクニュースを信じる人の特徴を心理学的・精神病理学的にプロファイル調査する。
<方法>
21歳以上(平均年齢29.15歳、標準偏差6.128)のボランティア1452名(女性49%、男性51%)が参加した。参加者に精神科の診断歴がないこと健康障害がないことを確認した。参加者には以下のテストをオンラインで回答してもらった。
1. 状態-特性不安尺度(STAI)
STAIは、(1)状態型不安(その人が経験した状況によって動機づけられた不安を指す)と(2)特性型不安(個人のあり方または性格によって動機づけられた不安を指す)の2つの次元に分布する40項目からなる。自覚症状の頻度を0(「全くない」)から3(「非常にある」)までの尺度で示す。
2. 陽性・陰性感情スケジュール(PANAS)
PANASには20の項目があり、(1)陽性感情(熱意、満足感、活力などの陽性感情や情動を評価する)と(2)陰性感情(罪悪感、敵意、悲しみ、悲観、不満などの陰性感情を評価する)の2つの次元に分類されている。各項目について、参加者はそれぞれの内容をどの程度経験しているかを、1(「ほとんどない」)から5(「非常にある」)までの尺度で示す。
2.2.3. 多変量多軸暗示性インベントリー(MMSI-2)
MMSI-2はEscolà-Gascón(2020a)によって8年間の心理測定分析を経て開発・発表された。この検査は広範囲で、174項目からなり、16の一次臨床変数と4-5の二次変数を測定する。これらの尺度は、『精神障害の診断と統計マニュアル(DSM-5)』に基づくいくつかの臨床症状を収集したものである。本研究で使用したMMSI-2の臨床的次元は以下の通りである: 矛盾(K)、嘘(L)、詐欺(F)、シミュレーション(Si)、神経衰弱(Nt)、物質使用(Cs)、暗示性(Su)、スリル追求(Be)、ヒストリオニズム(Hi)、統合失調症(Ez)、 パラノイア(Pa)、ナルシシズム(Na)、視覚・聴覚異常(Pva)、触覚異常(Pt)、嗅覚異常(Po)、感覚異常(Pc)。参加者は、5つの選択肢(1=「強くそう思わない」、5=「強くそう思わない」)からなるリッカート・モデルに従って、各項目について同意の程度を示さなければならない。
2.2.4. COVID-19フェイクニューステスト
COVID-19フェイク・ニュース・テストは、コロナウイルスに関する18の記述で構成されており、6つが偽(フェイク・ニュース)、6つが真実、6つが不確定(すなわち、証拠がないため、内容の真実性を立証することができなかった)である。妥当性を確保するため、発言は世界保健機関(WHO)の真偽判定ガイドライン(2020年)に沿って作成された。各文章を読んだ後、参加者は内容が真実か(「YES」)、虚偽か(「NO」)、不確かか(「?」)にチェックする。 正しい回答にはそれぞれ1点が与えられ、それ以外の回答には点数は与えられなかった(誤りは減点しない)。合計得点は0点から18点の範囲となった。
<結果>
フェイクニュースを見抜けない被験者は、潜在的変数である特性不安、状態不安、演技性、統合失調症性、妄想性、バーナム効果、被暗示性、スリル追求性のスコアが高いことが示された。
特にバーナム効果 、統合失調性、 妄想性、 状態不安、 演技性 がフェイク・ニュース・テスト・スコアの分散の78.1 %を説明することを示していた。
<結論>
フェイクニュースの拡散を防止するには、今回の解析結果を踏まえた精神医学的・心理学的対応が求められるかも知れない。
【鹿冶の考察】
少し補足をいたします。
バーナム効果とは誰にでも該当するような性格的特徴を、自分もしくは自分が属する特定の集団にだけ当てはまる性格と捉える傾向のことです。
具体的に言えば星座による性格占いや血液型性格診断などが該当するでしょう。
ちなみにバーナムとは興行師Phineas Taylor Barnumの名前にちなんでおり、彼が "we've got something for everyone"(誰にでも当てはまる要点というものがある)と言ったことが由来だそうです。
最近ではマーケティングなどでもバーナム効果が重視されているようなので、ご興味があるかたは深堀してみてください!
<結果としては妥当?>
本研究の結果は、フェイクニュースを見抜けない人(信じ込む人)の特徴として、特性不安、状態不安、演技性、統合失調症性、妄想性、バーナム効果、被暗示性、スリル追求性のスコアがフェイクニュースを見抜ける人よりも高い傾向を示しましたが、これはある意味"納得"な結果ですね。
不安は人の正常な判断を狂わせますし、バーナム効果・被暗示性などは情報を鵜呑みする傾向を助長します。
また統合失調症性や妄想性については、その情報を正しく判断できない(思考障害を伴う)ため誤情報を正しいと認識しやすく、一度正しいと思い込むと訂正不能となるでしょう。
スリル追求性はその情報が真実であることよりも「面白く興奮すること」を重視し、また演技性はその誤情報を周囲に拡散し自らが目立つことを好むため、SNSと強い親和性があると言えます。
...ということで、この論文は精神科医から見ると「まぁそうでしょうね」という妥当感あふれる結果でした😅
<鹿冶はフェイクニュースを信じるのか?>
実は小生、占いやオカルトが大好物なので、おそらくこの研究におけるバーナム効果、妄想性、被暗示性などは高いと自覚しております😅
とはいえ科学者の端くれであることを自認する小生は、ニュースや論説に対して「科学」という裏付けがなければ信じないように訓練されております(なんでも情報ソースを確認する癖をつけてます)。
またこれも科学者としての訓練の賜物ですが、物事を批判的に考察する癖もついております。例えばある科学的成果が大々的に発表されても、その論文のオリジナルに目を通し、研究の限界(limitation of study)は必ず確認するようにしております。
従って、今回のコロナ禍におけるさまざまなフェイクニュースに振り回されることはありませんでした。
...しかし、COVD-19パンデミックは新種ウィルスによる未曾有の災害であり、コロナウィルスへの対抗措置はほぼゼロベースからはじまりました。
"群盲象を評す"という言葉がありますが、目に見えない未知なるウィルスに対する人類の初動はまさにこの言葉がぴったりであったでしょう。
誰もが何も見えない手探りの状態であれば不安が募り、都合がよい情報だけを信じたくなるのも無理はないと思います。
大切なのは予測できない状況に陥った時、自分たちは現状を十分把握できていないという「無知の知」というソクラテス的な姿勢を維持しながら、多種多様の情報を自分なりに咀嚼し事態を俯瞰的に眺めることではないでしょうか。
【まとめ】
【参考文献など】
1.Who falls for fake news? Psychological and clinical profiling evidence of fake news consumers. Escola-Gascon A, Pers Individ Dif, 2023
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0191886922003981
2.Barnum effect: wikipedia
【こちらもおすすめ】
記事作成のために、書籍や論文を購入しております。 これからもより良い記事を執筆するために、サポート頂ければ幸いです☺️