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Society 5.0と精神医学: 社会進化は新たな精神疾患を生む?〜精神科医が未来の精神疾患を予想!〜

皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

"Society 5.0”という言葉を聞いたことはありますか?

Society 5.0とは日本政府(内閣府)が提唱する概念で、狩猟社会(1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0)の4つの社会に続く第5番目の社会のことです。

日本再興を目標として「これからめざすべき未来社会」の姿を掲げ、その理想社会構築のために、人・モノ・金・情報などの社会資源を投資していく…、というのがSociety 5.0構想の狙いです。

Society 5.0が具体的にどのような社会になるかは、後世の人々の評価を待つしかありませんが、どうやらサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させた社会のようです。

おそらく映画「サマーウォーズ」における仮想世界「OZ」のようなものではないでしょうか。

同映画をご覧になった方はお分かりと思いますが、一見便利なサイバー空間も使い方を間違えると大惨事を招きかねない…、という警鐘がこの映画には込められていると思います。

このように社会の進化は人間に希望の光を与える反面暗い影を落とす危険性があり、それはメンタルヘルスに関しても同様なのです。

今回の記事では、人類が経験してきた4つの社会(Society 1.0から4.0)を精神医学の観点から俯瞰するとともに、新世界Society 5.0ではどのようなメンタルヘルスの問題が生じるのか予想してみたいと思います!

尚、本記事は医学的根拠に基づく論説というよりは、社会学寄りのテーマでありかつ小生の主観マシマシであることを予めご了解ください😅


↓映画「サマーウォーズ」おもしろかったですね!


【Society 1.0と精神医学】

Society 1.0とは狩猟採集社会を意味します。
要するに人類が動植物の狩猟や採集を生活の基盤とする社会であり、農耕が開始される新石器時代まで続いた時代です。

この時代、人々は数十名から多くて100名程度の集団を形成し、野生動物や果実を求めて移動しながら生活しておりました。

さて、ここで皆様に質問です。

Q.狩猟採集社会においては”精神障害”、あるいは”精神疾患”は存在したでしょうか?

1.Society 1.0には精神疾患は存在しない?

答えは、精神疾患は存在していたでしょうが、病気として認識されていなかったと小生は考えます。

そもそも狩猟採集社会のような太古の世界には”科学や”医学”はなく、従って"病気”という概念もありませんでした。

科学の代わりにアニミズム(万物に霊魂が宿っているという考え)が当時の世界を支配しており、そのため人間を取り巻く説明不能な現象は全て悪霊の仕業と考えられました。

そして、その悪霊を追い払うことを生業としていたのが呪術師(シャーマン)です。

呪術師は”悪霊ばらい”を行う際”トランス状態(意識変容)”に陥り、人々に”お告げ”や”予言”を与えます。

この呪術師による宗教儀式と親和性が高かったのが精神神経疾患だったのです。

例えば統合失調症の幻聴は神からのお告げと見做され、またてんかん患者の痙攣発作は”憑依(悪霊が取り憑いた状態)”と解釈されたのではないでしょうか。

これは以前note記事「憑依と精神医学: 怪奇現象"憑依"を精神科医が解説!(前編)」でも紹介しましたが、原始社会において精神病患者は、呪術師・巫女として皆から頼りにされていたと考えられます。


2.Society 1.0では統合失調症患者は”超人"だった?

狩猟採集社会における統合失調症患者の活躍は、呪術師・巫女以外にもあります。

それは、”超人”ともいえる能力です。

統合失調症患者は、微細な変化(兆候)を鋭敏に感じ取りとる傾向を持つと言われております。

精神科医の中井久夫はこの傾向を”微分的回路認識”と呼び、狩猟採集社会においてはこの認識が生存率を上げていたのではと推測しています。

微分的回路認識の具体例としては、アフリカのカラハリ砂漠に住む”ブッシュマン”が「三日前に通ったカモシカの足跡を乾いた石の上に認知する」「微かな草の乱れや風の運ぶ微かな香りから獲物を認知する」など、現代人にはおよそ真似できない芸当です。

また臨床医の間ではよく知られていますが、統合失調症患者さんは痛みにとても強いです。

普通なら苦痛のためショック死しそうな大怪我でも、統合失調症患者さんはケロリとしていることはよく聞きます(以前勤務していた病院の患者さんで、大腿骨頸部を骨折しながら自転車で外来にやってきた方がおりました…😅)。

痛みに強いという特性も、危険に満ちた原始社会では有利に働いたのではないでしょうか(狩りで傷ついても平気?)。

わずかな変化を”読み取る力”と"痛みへの耐性"…、まさに超人ですよね。


【Society 2.0と精神医学】

Society2.0、すなわち農耕社会になってから"ある精神疾患"が生まれたと考えられます。

それは”うつ病”です。

なぜ農耕社会でうつ病が生まれるのか…。その理由は農耕社会のある三つの特徴が原因であると小生は思います。

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