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憑依と精神医学: 怪奇現象"憑依"を精神科医が解説!(前編)

皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

夏といえば、青空、海、スイカ、花火、そしてホラー…😱ですよね?

涼を求めてホラーを堪能するのは、やはり人間の性(さが)だと小生は思っております。

そこで今回の記事では怪奇現象”憑依”を精神医学的に解説したいと思います!

ご存知のように憑依とは霊や悪魔が人に乗り移り、その人を支配することです。

果たして憑依現象は現代医学ではどのように考えられているのでしょうか?

今回は憑依現象についてかなり深堀したため、前編・後編の2回に分けて解説いたします。

前編では憑依現象について医学的な定義を紹介し、後編では日本の憑依現象に関する珍しい英語論文、そして小生が祖母から聞いた話をご紹介いたします!

この記事を読めばきっと涼しい夏の夜を過ごせますよ…👻


【憑依とは?】

憑依(ひょうい:(英)phenomenon of possession)とは、霊などが人に乗りうつること。

乗りうつる存在(憑依人格)の種類によって、神懸り、憑霊、悪魔憑き、狼憑き(ライカンスロピー)、狐憑きなどに分類される。
以下に憑依人格の種類を列挙する。

[動物]
(国内) サル、キツネ、タヌキ、犬、猫、蛇、カエル
(海外) ゾウ、ライオン、ヒョウ、ハイエナ、狼
[人間(の霊)]
 生き霊、死霊
[空想上の生物]
河童天狗餓鬼ゲドウトウビョウオサキクダオトラ
[宗教的存在]
神、キリスト、仏、悪魔

狼憑き(ライカンスロピー)に関する過去記事です!是非、ご高覧を!

憑依現象は宗教と深く関係し、全宗教の創始に憑依現象(特に神憑き)が関与したと言って過言ではないだろう。

神、預言者、神に敵対する存在(悪魔)、霊など、その宗教に関与する存在が人々に憑依し、天啓・厄災をもたらすエピソードが各宗教に存在する。

以下に各宗教における代表的な憑依現象を列挙する。

[キリスト教]
 
神・イエス・預言者など”神側”の憑依
異教の神や悪魔憑き(レヴィヤタンバランベヒモスなど)
堕天使憑き(サタンマスティマベリアルベルゼブブアザゼルなど)
[イスラム教]
ジンシャイタンイフリトなど精霊の憑依
[仏教]
 
マーラ(悪魔)、牛、ライオン、狐、猿などの動物の憑依
[ユダヤ教]
ディブク(肉体を失った霊)の憑依
[ブードゥー教]
ロア(精霊)の憑依

国や地域により憑依現象の呼び名・性質も異なる。
以下に代表的な憑依現象名を列挙する。

ケニア: シャイタニ(shaitani)は霊の一種。通常女性が取り憑かれ、男性に高級品を要求するとのこと…。
モザンビーク: ガンバ(gamba)は戦争で亡くなった兵士の霊の憑依。
中国: シー(shi: 先祖の霊の憑依)。タンキ(Tangki: 神の憑依)。
日本: オサキ(関東地方: 狐憑き)。イタコ(東北北部: 口寄せ)。ユタ(沖縄・鹿児島: 霊媒師)。
インド: ブタ・コラ(Buta Kola: 精霊)。タミル人に生じる。
インドネシア: サンギャン(sanghyyang)とよばれるトランス状態。神々が憑依。
北米: ウェンディゴ(wendigo: 精霊)。取り憑かれると気分の落ち込みと食欲低下に陥る。
ギリシャ: ニンフォレプシー(nympholepsy)。ニンフ(精霊)に取り憑かれる現象。

【憑依とシャーマニズム】

憑依は「あらゆる万物に精霊や霊魂が宿る」というアニミズム文化が背景にあり、おそらく有史以前より存在した現象と言われております。

太古において憑依現象は”悪魔”や”悪霊”の仕業と考えられ忌み嫌われる一方、神々や精霊が人間に奇跡を与える現象と捉えられ人々から歓迎されておりました。

そして憑依現象を人々の幸福のために使う職業霊能士、すなわちシャーマン(呪術師)がこの混沌とした世界に現れます。

シャーマンの仕事は儀式により神を自らに憑依させ、神託を人々に与えたり呪いを祓ったりしたそうです。

このようにシャーマンを信仰する宗教形態をシャーマニズムと呼びます。

シャーマンの語源はツングース語で”呪術を行うもの”であり、シベリア・中央アジアの狩猟採集社会においてはとても重視されました。

なぜなら「どこに食料となる獲物・植物があるのか」という問題は太古の人々にとって死活問題であり、獲物の在処を告げるシャーマンがその集団の運命を担っていたためです。


狩猟採集社会以降においても、シャーマンは人々の生活に影響を与えておりました。

例えば有史以降のシャーマンと言えば、古代ギリシャのデルフォイの巫女が最も有名ではないでしょうか。

デルフォイはパルナソス山の麓にありアポロンを祀る神殿があり、そこにはアポロンの神託を伝える巫女がいてギリシャ全土から人々が集まってきたそうです。


本邦におけるシャーマニズムに関する最初の文献記録は3世紀に編纂された「魏志倭人伝」にあります。

「倭国乱れ、相攻伐すること歴年、乃ち共に一女子をたてて王となす。名付けて卑弥呼という。鬼道に事え、能く衆を惑わす」

出典: 魏志倭人伝

もうお分かりですね。
卑弥呼こそ本邦最古の呪術師(シャーマン)だったのです。


↓ちなみに卑弥呼が邪馬台国の統治に用いたのは「鬼道」という宗教だそうです。

<余談>

シャーマニズムは太古よりありますが、地域によっては今でも信じられております。
小生が数年前に診ていた東チモール出身の女子学生は、幼少期に左足がひどく腫れ上がり、自分のお腹の上を大きな蛇が這い回る幻を毎晩見るようになったそうです(感染症によるせん妄?)。
この時両親は病院ではなく呪術医(シャーマン)の元に彼女を連れて行き、お祓いを受けさせました。
呪術医は彼女に黒い液体を飲ませた後、踊りながら祈りを捧げます。
すると数日で蛇の幻はなくなり、また足の腫れも次第にひいたそうです...。
「呪医のお陰で治ったと思うのか?」と尋ねるとその学生は微笑みながら「はい」と答えました。

【憑依現象の精神医学的説明】

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2,738字
現役精神科医がオカルト現象を精神医学の観点から解説。尚、記事の一部はマガジン「マニアック精神医学」に含まれていることがあります。

オカルト...、それは科学では説明がつかない超自然現象の総称。世の中の不思議現象を精神医学の観点から解説。なぜ、オカルトと精神医学?それの…

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