呪術廻戦と精神医学: もしも夏油傑が精神科外来を受診したなら~精神科医が教える闇堕ちを防ぐ方法~【後編】
↓呪術廻戦の単行本、オススメです!
【もしも夏油傑が精神科外来に来たら】
呪術廻戦の8巻、9巻を読み終え、小生はとても切なくなりました...。
これほど才能のある若者が闇堕ちしてしまうとは本当に残念...(傑ぅ...😭)。
彼の力はもっと多くの人のためにあるべき...、しばらくそんなことを考えていたところ息子が帰ってきて、「お父さん、勝手に人の部屋に入って漫画読まないで!😡」と怒られちゃいました...😅
息子の部屋から追い出された後、ふと...
「もしも彼が私の外来に来たら、彼の闇堕ちを防げるかも...🤔」
そんな考えが浮かんできました。
そこで、ここからは夏油傑の精神科受診をシミュレーションし、皆様に「闇堕ちを防ぐ方法」を教えたいと思います!
<夏油傑の初診>
鹿冶梟介(以下、鹿冶)「次の方、どうぞ〜」
夏油傑(以下、夏油)「... ... 」
鹿冶「夏油さんですね。はじめまして、精神科医の鹿冶です。問診票を拝見いたしました。とてもお辛かったですね。宜しければ、もう少し詳しくお悩みを聞かせてください」
夏油「最近、自分がどうすべきなのか分からないのです。自分が信じてきた今の任務が、本当に意味のあることなのか... ...?」
鹿冶「... ... と、言うと?」
夏油「私は術師の本分と思い、弱者である非術師たちを助けてきました...。しかし、術師という終わりなきマラソンゲーム...、その先に我々術師にとっての安寧があるのでしょうか」
鹿冶「つまり、非術師を助けても意味がないとお考えなのですね?」
夏油「はい。それどころか、非術師がいなくなれば呪霊は生まれてこないので、非術師を皆殺しにすればいい... ...という恐ろしい考えが浮かんできたのです」
鹿冶「なるほど...、それは恐ろしいですね。そんな考えが浮かんだのは、現状に強い不満があるためなのでしょう。ところで…、みたところ顔色もよろしくないですが、疲れが溜まっているのでは?」
夏油「はい」
鹿冶「睡眠時間は?」
夏油「わかりませんが、任務が多くて十分には... ...」
鹿冶「仕事... というか任務の時間はどれぐらい?」
夏油「数えていませんが、徹夜することも...。でも、これぐらい桃鉄99年やった時のほうがと悟が... ...」
鹿冶「過労死ラインは月当たりの残業が80時間なのですが…、軽く超えてそうですね」
夏油「… …」
鹿冶「というか、高校生は22時以降は働いてはダメです」
夏油「そうなんですか?」
鹿冶「そうなんです。だから、仕事を休みましょう。診断書を書きますので、学校に提出してください」
夏油「しかし、それでは呪霊に苦しむ人々が… …はっ!?」
鹿冶「もうお分かりですね?それが夏油さんの本心だと思いますよ。兎に角休んでください。任務はドクターストップ」
夏油「... ...わかりました」
鹿冶「それから、眠れるようにお薬を飲みましょう」
夏油「薬ですか?」
鹿冶「抑肝散加陳皮半夏という漢方薬を出しておきます。不眠だけでなく、疲労倦怠にも効果がある薬です。しかし、漢方薬が合わない人もいるので、吐き気や食欲不振が悪化したら中止してください」
夏油「... ... はい」
鹿冶「そうそう。睡眠以外に必要なのはリラクゼーションですね」
夏油「リラクゼーション… …?」
鹿冶「おすすめは温(ぬる)めのお湯でゆっくりと...、そうですね10-15分入浴することですね。最近、お風呂も入っていないでしょ?」
夏油「はい、いつもシャワーで済ましているので... ...」
鹿冶「それはいけませんね。風呂は命の洗濯ですよ☺️」
夏油「... ... はい(どこかで聞いたセリフ... ...?)」
↓入浴剤等を使い、ゆっくりお風呂に入りリラックスしましょう!
<夏油傑2回目の受診>
鹿冶「次の方、どうぞ〜」
夏油「先生、こんにちは」
鹿冶「夏油さん、2週間ぶりですね。あれから体調はいかがですか?診断書は提出しましたか?」
夏油「はい、診断書を夜蛾先生... ...、担任に提出したら暫くは任務をしなくて良いと言われました。それから薬のおかげでまとまった時間眠れるようになりました」
鹿冶「それはよかったです。確かに目の下のクマも少し軽くなりましたね」
夏油「はい。... ...しかし、これでは強者である自分が果たすべき義務が... ...それに... ...」
鹿冶「それに?」
夏油「ますます、アイツとの差が... ...」
鹿冶「アイツとは、親友の五条さんのことですね」
夏油「はい、以前は私と共に任務をこなし... ..."二人で最強"と思っていました。しかし、アイツが覚醒してから私との力の差は歴然で... ...。何だか、取り残されてしまった感じがします」
鹿冶「夏油さん、あなたは本当に真面目な方ですね。あなたのようなタイプはメランコリー親和型と言って、うつ病になりやすいのです」
夏油「メランコリー親和型?」
鹿冶「はい。メランコリー親和型とは、対他的配慮に基づく秩序嗜好性(インクルデンツ)、そして自分の仕事に対する高い要求性(レマネンツ)を特徴としております」
夏油「はぁ... ... 」
鹿冶「あなたの症状は任務による疲労だけではありません。"かくあるべき"という自縄自縛たるインクルデンツ、そして親友たる五条悟に遅れをとったというレマネンツとが原因と思いますよ」
夏油「!?」
鹿冶「"こうあるべき"と自分自信を縛るのはよくありませんし、人と比較は不幸の始まりです」
夏油「比較は不幸の始まり...」
鹿冶「そうです、人と比べたり期待しない... ...。それが強者として必要なマインドです」
夏油「しかし、どうしても... ...」
鹿冶「"時の流れと空の色に何も望みはしないように"、あるがままを受け入れましょう」
夏油「えっ… …!?(なんで椎名林檎🍎?)」
鹿冶「では次回の予約をとりましょうか」
夏油「... ... わかりました」
↓椎名林檎様の「幸福論」、いい曲ですよね!
<夏油傑3回目の受診>
鹿冶「次の方、どうぞ〜」
夏油「おはようございます、先生」
鹿冶「夏油さん、おはようございます。1ヶ月ぶりですが、体調はどうですか?」
夏油「はい、すこぶる良いです。漢方薬を飲まなくても眠れるようになりました」
鹿冶「どうやら吹っ切れたようですね?親友である五条さんとの関係、整理ができたようですね」
夏油「はい。悟はどんどん私の先を突っ走っていますが、そんなアイツのフォローができれば充分かと... ...、そんな心境です」
鹿冶「なるほど。五条さんとの比較を止め、"今の自分"に集中できているようですね」
夏油「はい。"弱者生存"、やはりこれが私の理想とする世界なので、弱き人々が笑顔でいられるように微力ながら尽くしたいと思います」
鹿冶「なるほど... ...。夏油さん自身も、"この世界で心の底から笑える"ようになりましたか?」
夏油「... ...、心の底からはわかりませんが、微笑む程度には…」
鹿冶「充分です。ところで、見たところ体重はそれほど増えていないように見えますが、食欲は戻っていないのでしょうか?」
夏油「... ...、はい。これは私の術式、"呪霊操術(じゅれいそうじゅつ)"のせいかもしれません」
鹿冶「というと?」
夏油「呪霊操術は、調伏した呪霊を自らの僕(しもべ)とする術なのですが、この時呪霊を飲み込む必要があります。この時の味は... ...、"吐瀉物を処理した雑巾"のような味がするのです」
鹿冶「... 仕事とはいえ、それはお辛いですね。参考になるか分かりませんが、味覚を麻痺させる方法がいくつかあります」
夏油「そんな方法があるのですか… …?」
鹿冶「はい。例えば鼻を摘んでものを食べるとか... 」
夏油「鼻を摘んで呪霊を飲み込むんですか... ...?」
鹿冶「それから、呪霊を飲み込む前にペパーミントのマウスウォッシュを使うとか... 」
夏油「... ... ペパーミント」
鹿冶「あとは、呪霊を飲み込んだ日には頑張った自分へのご褒美として好きなものを食べるとか...。夏油さんが好きな食べ物は?」
夏油「ざる蕎麦です」
鹿冶「じゃぁ、任務後はかならずざる蕎麦を喫食しましょう」
夏油「... ...、何だかお腹が空いてきたような... ...」
鹿冶「良い傾向ですね。しかし、もし次回の受診までに食欲が回復しないなら、食欲を増す抗うつ剤を少量処方してみましょうか」
夏油「わかりました。先生がご提案された方法、試したいと思います」
↓そんなあなたにペパーミントのマウスウォッシュ、いかがですか?
<夏油傑8回目の受診>
鹿冶「次の方、どうぞ〜」
夏油「こんにちは、先生」
鹿冶「夏油さん、こんにちは。だいぶ顔色もよくなってきましたね。」
夏油「はい、おかげさまですっかり体調も元に戻り、食事もしっかりとれるようになりました。それから、任務も以前と同様にこなせるようになりました」
鹿冶「それはよかったですね。薬もほとんど使っていませんし、そろそろ当院への通院は終了... ...、卒業してもよいと感じます」
夏油「... ...、卒業ですか」
鹿冶「はい、卒業です」
夏油「先生、大変お世話になりました(ペコリと頭を下げる)」
鹿冶「いえいえ…。ところで呪術高専もそろそろ卒業ですよね。今後、夏油さんはどうされるのですか?」
夏油「... ...呪術高専で教師をしようかと考えております」
鹿冶「それは素晴らしい考えです!夏油さんなら生徒思いの良い先生になると思いますよ」
夏油「悟(五条)も"教師なんて柄じゃない"と言いながら、結局教師になるようですし、アイツは誰かがフォローしてやらないと危なっかしいんで... ...」
鹿冶「友情ですね」
夏油「そうですね(笑)。先生、本当にありがとうございました。ここに来なければ、私は自分を見失い、大きな過ちを犯していたかも知れません」
鹿冶「お役に立てて嬉しいです。もう大丈夫と思いますが、何かあればまた相談に来てくださいね」
夏油「ありがとうございます。さようなら、先生」
〜呪術廻戦<懐玉・玉折編>、勝手に"完"〜
↓呪術高専の教員になるには、やっぱり教員採用試験を受ける必要がある…?
【闇堕ちを防ぐ方法】
... ...書いてて何だか小っ恥ずかしくなってきましたよ😅
今回の記事…、小生の願望を描いた"妄想記事"になっちゃいましたね。
しかし、もし小生が夏油傑を治療するなら上記のような診察をするのでは...、とマジメに思っております。
夏油は頭が良いので、こちらの助言を十分理解し体調を回復させると思います。
さて、夏油傑が外来に来た時のやり取りの説明と補足のため、最後に「闇堕ちを防ぐ方法」をまとめたいと思います。
1.疲労を取り除く
先にも触れたように、闇落ちのリスクファクターとして極度の疲労があげられますが、その理由は疲労が溜まると人は正常な判断ができなくなるからです。しっかりとした休養、特に睡眠時間を確保しましょう。必要な睡眠時間は個人差がありますが、7時間以上はとったほうが良いでしょう。また長めの入浴は副交感神経を刺激してリラクゼーション効果が得られます。
2.心理的ストレスの原因を遠ざける
闇堕ち、すなわち善人から悪人になるにはそれなりの"きっかけ"があり、そのきっかけの多くは心理的ストレス因となっております。夏油の場合は、呪術師としての任務がそれにあたるため、診断書を提出してしばらく任務(=ストレス因)から離れてもらいました。
3.相談する
闇堕ちは自信の価値観が大きく変わる瞬間です。自分なりに価値観が変わる理由はわかっているとは思いますが、視野狭窄に陥り自分を客観視することができなくなっております。そんな時はやはり誰かに相談することが大切です。相談相手は、友人、家族、仕事仲間など信頼できる人にしましょう。メンタルヘルスの専門家である精神科医や心理士に相談するのもよいでしょう。
4.期待しない
人は"期待"をしてそれが失敗に終わると、怒りや悲しみといった感情が湧いてきます。
そして怒りや悲しみは闇堕ちのトリガーとなることは【闇堕ちのきっかけ】でも説明しましたね。
人に期待せずに現状をありのまま受け入れるようになりましょう。
心理学に自己受容(セルフコンパッション)という言葉がありますが、まさに自己受容こそが闇落ちを防ぐ方法の一つなのです。
5.人と比べない
「比較は不幸の始まり」とよく言いますが、その理由は明白です。それは、人と比較して自分が劣っていると気づいた場合、自尊心が低下するからです。
この時、嫉妬や怒りなどの陰性感情も現れやすくなり、闇堕ちを助長する可能性が高まります(夏油傑も親友の五条悟と比較した故に闇堕ちしましたよね...)。
もしあなたが、「●●さんはいいな。一方自分は... ...」と思い始めたら、「比較は不幸の始まり」と唱えて自分を人と比べるのはやめましょう。
他者と自己に関する理想的な態度としては、「あの人は凄いけど、自分も凄いところがある」と自他共に褒められることです。
6.新たな目標を持つ
善人から悪人への闇堕ちは、喪失体験、アイデンティティの崩壊などによって生じると説明しました。
しかし、喪失・崩壊によって失った自信や自己肯定感はそのままではなかなか回復しません。
そこでおすすめなのは、新たな目標を持つことです。
新たな目標を持つことで意識を他のことに向け、怒りや悲しみという視野狭窄から脱却しましょう。
今回の"妄想"記事で夏油は「呪術高専の教員になる」という新たな目標を掲げました。このように素敵な目標を持っていれば、彼が闇堕ちすることはもうないでしょう。
【鹿冶の考察?】
皆様、今回の記事はいかがでしたか?
今までマンガやアニメをテーマにした記事では、「キャラクターの精神医学的診断」を中心にしてきましたが、今回の記事では「もしも●●が精神科外来を受診したら」という一種の模擬患者診察という体(てい)で記事を書いてみました。
(... 何だかやっぱり、二次創作的な内容になっちゃいましたね😅?)
<夏油傑と医療従事者の共通点>
それにしても夏油傑という人物、精神科医としてとても共感するキャラクターでした。
夏油傑が掲げる「弱者生存」という理念、これは社会的弱者である精神障害者を支援する多くの医療従事者(医師・看護師・心理士・PSW)がもつ共通の理念と思います。
しかし、精神科医療に従事する人々は、患者さんの「負の感情」を受け止める場面がしばしばあります。
それは、患者さんの苦しみや悲しみだけでなく、時には怒りや憎しみといった激しい感情も含まれます。
これら「負の感情」は支援者に二次的外傷性ストレスを起こすことさえあります。
夏油の術式である呪霊操術は呪霊を飲み込む際、極めて不快な味を伴うようですが、医療従事者が人の負の感情を受け止めることは呪霊操術に似ているかも知れませんね…。
このように、作中の夏油傑の心理状態は医療従事者がしばしば直面するジレンマと相通じるものがあり、従って精神科医療に携わる多くの方は小生同様、夏油傑に共感を抱くのではないでしょうか?
(... ...、というか、医療従事者の方は呪術廻戦の8巻、9巻は是非読んでみましょう!)
<小生がマンガやアニメをテーマに記事を書く理由>
今回でマンガ・アニメをテーマにした記事も6回目となりましたが、「架空の人物の診断・治療に意味はない」と厳しい意見を持たれる方もいらっしゃると思います。
しかし、小生は声を大にして言いたい!
マンガ・アニメをテーマに記事を書くのは、単なるお遊びではございません。
小生がこのような記事を書き続ける理由... ...、それはマンガやアニメ等ポップカルチャーという「文化的アイコン」を介して多くの方々、特に若い人々に精神医学を知って欲しい... ...、という切なる願いがある為です。
国内外の研究が示すように、精神疾患の初発年齢は10代〜20代前半に集中しております。
例えば2005年の米国の疫学調査によると、精神疾患のうち四分の三は24歳までにはじまるそうです(文献)。
従って精神疾患の教育は10代には行うべきと小生は思うのですが、残念ながら本邦ではこのような教育はほとんど行われておりません。
更にもう少しツッコんで言うと「学校の授業」という枠組みでは、若者たちも積極的に精神疾患について学ばないのではないでしょうか?
このような状況に鑑み、小生は「若者が興味を持つコンテンツ」を精神医学的に考察することで、精神医学の知識を若者に広めたいと思っております!
(ただのマンガ・アニメ好きおじさんじゃないぞ😤)
<本編について>
ところで現在ジャンプに連載中の本編ですが、物語はそろそろフィナーレを迎えそうな雰囲気ですね。
ネタバレになりますが(いまさら!?)、夏油傑も五条悟も小生の大好物なキャラなので生きている間に仲直りして欲しかったです。
あの世で、二人が再開するシーンは切ないですよ... ...😭
(... ...、やっぱり小生はただのマンガ・アニメ好きおじさんですね?😅)
【まとめ】
↓アニメ版を見たい方は、是非アマプラで!
【参考文献】
1.呪術廻戦 第8巻 , 芥見下々, 集英社, 2020
2.呪術廻戦 第9巻 , 芥見下々, 集英社, 2020
3.Effects of mental fatigure on risk preference and feedbak processing in risk decision-maiking. Jia H et al., Scientific Reports, 2022
4.Lifetime prevalence and age-of-onset distributions of DSM-IV disorders in the National Comorbidity Survey Replication. Kessler RC et al., Arch Gen Psychiatry, 2005
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