呪術廻戦と精神医学: もしも夏油傑が精神科外来を受診したなら~精神科医が教える闇堕ちを防ぐ方法〜【前編】
皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です!
卒爾(そつじ)ながら、ジャンプの大人気マンガ「呪術廻戦」はご存知ですよね?
我が家でも息子が単行本を購入しているため、こっそりと息子のお部屋にお邪魔して"ふむふむ"と味読しております(<=迷惑な父親ですね😅)。
しかし、職業病でしょうか...、例え漫画であってもついつい精神科医視点で閲読しちゃいます(<=自覚はありますが、病的ですね😅)。
ところで、この「呪術廻戦」の中で精神科医として最も興味を抱いた人物がおります。
それは作中の中ボス(?)「夏油傑(げとうすぐる)」です!
彼はなぜ親友であった五条悟を裏切り、母校「呪術高専」に敵対したのか…。
そして、もし小生の外来に夏油傑が受診していたら...。
「呪術廻戦」を読むと、そんなことを思い廻(めぐ)らせます。
そこで今回のnote記事では、呪術廻戦の悪役こと夏油傑の闇堕ちを精神医学的に解説し、さらに「もしも精神科外来に夏油傑が受診したら」という設定で、不肖、鹿冶梟介が闇落ちしない方法をご紹介致します!
尚、本記事はネタバレを含みますので、漫画「呪術廻戦」を読んでからのご高覧を推奨いたします!
【呪術廻戦とは】
原作: 芥見下々による日本の少年漫画作品。
週刊少年ジャンプには2018年3月から現在まで連載中。
人間の負の感情から生まれる異形「呪霊」を祓う呪術師たちの戦いを描いたダークファンタジー漫画。
↓呪術廻戦、是非ご購入くださいな(超オススメです)!
【呪術廻戦<懐玉・玉折編>のあらすじ】
2006年、呪術高専2年の夏油傑は親友の五条悟と共に重要な任務を依頼される。
それは500年ごとに"同化"が必要な呪術師「天元」の適合者、すなわち"星漿体"天内理子の護衛であった。
天内に襲いかかる数々の敵を難なく蹴散らし任務は無事に完了したかに見えたが、夏油と五条の前に立ちはだかったのは"術師殺し"の異名をもつ伏黒甚爾であった!
伏黒と対峙した五条は敗北し、さらに護衛対象であった天内も殺害される。
夏油も伏黒の圧倒的な力を前に戦闘不能となるが、敗北を機に覚醒した五条が伏黒を倒す。
覚醒した五条は以後一人で任務をこなすようになり、その結果夏油も単独任務が増える。
孤独にそして淡々と任務をこなす夏油に呪術師としての使命に疑問が生ずる中、後輩の灰原雄が殉職する。
呪術師の"終わりなきマラソンゲーム"に疲れ果て、非術者を守ることに意義を見失った夏油は、任務先の某山村で112名の住民を殺害する...。
【呪術廻戦<懐玉・玉折編>の登場人物】
次に呪術廻戦<懐玉・玉折編>の登場人物をご紹介しますが、今回のnote記事に出てくるキャラクターのみについて触れます(他のキャラも魅力的なので、ご興味がある方は是非コミックを読んでください!😆)。
夏油傑(げとうすぐる)
"最悪の呪術師"と称される特級呪術師。黒髪、長髪、袈裟を着込んだ独特の出立ち。かつて五条悟のたった一人の親友であったが、仲間の術師を犠牲にしながら非呪術師(一般人)を救うことに疲れ闇堕ちしてしまう。非呪術師を排除した呪術師だけの世界を夢見、2017年12月24日呪術による大規模テロ...、通称"百鬼夜行"を実行する。
五条悟(ごじょうさとる)
呪術高専の1年担当教員。呪術界御三家である五条家当主。現在における最強の呪術師。白髪、長身、イケメンだが、いい加減でマイペースな性格。夏油傑とは学生時代には親友であったが、とある事件をきっかけに袂を分つことに...。夏油傑の闇堕ちと深く関係が...。
天内理子(あなまいりこ)
廉直学園に通う女子中学生。呪術師「天元」の適合者である"星漿体"。某団体から命を狙われたため、五条と夏油が護衛についたのだが...。
伏黒甚爾(ふしぐろとうじ)
名門禅院家の出身だが呪力がなく(非術師であるため)禅院家では疎まれたため出奔。以後、"術師殺し"として暗殺など裏世界の仕事を生業とする。作中、小生が最も好きなキャラです!
灰原雄(はいばらゆう)
呪術高専の学生。五条と夏油の1年後輩。2007年、任務先で呪霊討伐に失敗し命を落とす。
九十九由基(つくもゆき)
日本に4人しかいない特級術師の一人。金髪長身の美女。呪霊を祓うよりも呪霊の発生を防ぐ"原因療法"を探るため世界を巡っている。
【闇堕ちとは?】
さてここから本題です。
今回のnote記事のテーマである「闇堕ち」とは一体なんでしょうか?
goo辞典によると...
と記載されております。
要するに善人が悪人に変わってしまう...、という意味のようです。
ちなみに「闇堕ち」という言葉の歴史は浅く、どうやら2005年頃のネット記事等で扱われ始めたようです。
闇堕ちの具体例としては、フィクションだとスターウォーズのダース・ベーダー、羅生門の下人、歴史上の人物だとジル・ド・レや豊臣秀吉などが挙げられるでしょうが、聖書に記述されている"堕天使"なども闇堕ちの元祖なのかもしれません。
このように善人が悪人に成り下がってしまう話は、古今東西存在するようです。
↓小生が以前執筆したダース・ベーダーに関する記事です。是非、ご高覧を!
【闇堕ちのメカニズムと定義】
それでは何故"闇堕ち"が起こるのでしょうか?
闇落ちのメカニズムについて、ダークトライアド、人格変化など様々な面から国内外の文献をあたりましたが残念ながら適切な文献を見つけることができませんでした...。
そもそも闇堕ち自体が現実世界では比較的稀な現象であり、科学的検証が難しいテーマなのでしょう...(世の中、普通の悪人はたくさんいますが... ...😅)。
他に方法がないので、私見ではありますが自称"闇堕ち研究者"である小生が闇堕ちのメカニズムについて解説したいと思います😤(異論は認める)!
<善人の特徴>
前述のように闇落ちとは「善人が悪人になること」です。
従って、闇堕ちするにはまず"善人"である必要があります。
(普通の人や悪人が闇堕ちする...、とはあまりいいませんよね?)
そこでまず善人の特徴を挙げると、
1.優しい、2.正義感がある、3.常識的などが挙げられます。
ここで3つの特徴を夏油傑の闇堕ち前の性格と照らし合わせてみましょう。
ご覧のように夏油傑は善人としての条件を揃えており、闇堕ちの前提条件である"善人"であったことがよくわりますね。(傑は、ええやつやぁ...☺️)
<闇堕ちと反動形成>
... ...ところで善人でいることって結構しんどいですよね?
皆様も、困っている人がいたら助けるべき... ...、と思いながら、その一方で「自分だって辛いのに」と思うことはありませんか?
(「善人」ほどではなくても、周りから「いい人」と言われるそこのあなたっ🫵!今、ちょっと頷いたでしょ?)
たしかに善行を逡巡なく続けるのは難しいことなのですが、以下の3つ美徳を備えている人は善人(いいひと)を続けることができます。
実際、夏油は高潔な倫理観を身につけ、"弱者生存"という崇高な理念を掲げ、その理念のためには親友(五条悟)と言争いも厭わない強い信念をもつキャラクターでしたよね?
もはや菩薩のような人物ですね(やっぱ傑は、ええやつやぁ...😭)
これら三要素の支えのおかげで善人(いいひと)は持続可能となりますが、この時人は"反動形成"という防衛機制をとっています。
反動形成とは心理学における自我の"防衛機制"のひとつで、抑圧された欲求と真反対の行動をとることを意味します。
例えば"好きな子に意地悪をする"や、"嫌な相手にバカ丁寧に接する"などが挙げられ、人が「自分の気持ちを素直に表現できない」「自分の欲求を満たすことができない」状況に置かれると起きやすい反応です。
そして、この抑圧(心の蓋)がなくなった時、その反動(反作用)は爆発的に増大いたします。
夏油傑は口では「弱者生存」を唱えておりましたが、作中の描写から察するに非術者に対する軽蔑の念を抱えていたようです。
この軽蔑の念を抑えるために、彼は反動形成として「弱者生存」という崇高な理念を掲げていたのでしょう。
すなわち... ...、
... ...と小生は定義いたします。
【闇堕ちのきっかけ】
それでは善人(いい人)であることを支える3つの要素(倫理観、理想、信念)はなぜ崩れるのでしょうか?
このセクションでは倫理観、理想、理念が崩壊する原因... ...、すなわち"闇堕ちのきっかけ"を夏油傑のエピソードを交えて具体的にご紹介いたします。
<挫折体験>
挫折体験が"人"を変えることはよくあります。
卑近な例を挙げれば受験の失敗や失恋など、何か目標に向かって行っていたことがダメになると人は変わってしまうことはよくありますよね?
夏油傑の場合、護衛対象であった天内理子(あなまいりこ)が目の前で殺害されたことが大きな挫折体験となりました。
そして任務失敗が夏油自らの"弱さ"を自覚させるきっかけとなります。
任務の前に相棒こと五条悟は...、
と弱き存在に対して否定的な見解を述べたのに対し夏油は、
と説き伏せていましたが、任務失敗により果たして本当に自分が"強者"であるのか疑問が生じたのです。
そしてこの挫折体験が後述のアイデンティティ喪失に繋がります。
<極度の疲労>
善行は心に余裕がないとできません。
皆様も、体調が悪い時は判断能力が鈍り、無理をしませんよね?
例えば自分や家族のことであれば多少の無理もしましょうが、ボランティア活動などの他人事はとても善い行いと知っていながらも、疲れたり体調が悪い時は無理はできません。
また極度の疲労は人の判断能力を低下させ、普段とは異なる行動を起こさせることがあります。
実際、海外の研究によると精神的疲労はリスク回避型の行動を取りやすくさせるそうです(文献)。
夏油傑が闇堕ちした時、その年はたくさんの災害が起こりその結果呪霊が"蛆のように沸いた"そうです。
このため夏油も一人で多くの任務をこなす必要があり、極度の疲労状態であったことに間違いありません。
そしてこの慢性的な疲労が、夏油の判断を狂わせることになるのです。
<喪失体験>
喪失体験とは自分が大切にしていたものを失うことです。
夏油傑は<懐玉・玉折編>の中で、少なくとも二つの大きな喪失体験をいたします。
一つ目は後輩、灰原雄(はいばらゆう)の死です。
呪術高専1年の灰原雄は、分不相応な案件を担当し命を落とします。
呪術師は呪霊との永き闘いが宿命づけられていますが、灰原の死に直面した夏油は"終わりの見えぬマラソンゲーム"は仲間である呪術師の屍の基に築かれるものと悟ります。
二つ目は親友、五条悟の敗北と覚醒です。
五条悟は、"術師殺し"伏黒甚爾に一度敗れ瀕死の重症を負います。
伏黒は五条を始末したと思い込み、後に対峙する夏油に「五条悟は俺が殺した」と挑発します。
そして親友が死んだという凄まじい喪失体験は、冷静沈着な夏油を激怒させました(実際は五条は死んでおりませんが...)。
五条の敗北という喪失体験の後に、もう一つの喪失体験が夏油を打ちのめします。
それは伏黒との戦闘により覚醒した五条が"最強"になったことです。
それまでは夏油と五条は"最強コンビ"として任務を遂行してきましたが、単独で最強となった五条にとってもはや他の術者は足手まといに他ならないのです。
つまり、五条の覚醒は夏油にとって"相棒"というポジションを喪失させたと言えます。
<アイデンティティの崩壊>
アイデンティティとは、以下のように定義されます。
そして夏油傑の闇落ちの原因として、最も影響が大きかったのは"アイデンティティの崩壊"ではないでしょうか。
前述のように夏油は"術師は非術師を守るべき(弱者生存)"という価値観を持っておりました。
しかし、その考えは"自分は強者側の人間"という自信があってこそ成立するものだったのです。
この夏油の自信は天内理子の護衛に失敗してから脆くも崩れます。
非術者である伏黒甚爾に完敗し、さらに今まで相棒として肩を並べていた五条悟は"最強"となってしまいました。
そうです、自分はもはや人を守る強者ではなく、守られる側の弱者に成り下がったことに気がついたのです。
更に護衛対象であった天内の死を無邪気に喜ぶ盤星教信者(非術師)らの姿を見て、自分が信じてきた"弱者生存"という考えに疑問を持ち始めます。
"強者"としての自分というアイデンティティの崩壊、そして守るべき"弱者"へ憎悪が今まで自分を支えてきた価値観に亀裂を生じさせました。
<価値観の変化>
夏油傑は任務失敗後「ブレるな」「強者としての責任を果たせ」と自分に何度も言い聞かせます。
しかし、こんな最悪な精神状態で夏油はある人物に出逢います。
その名は、呪術高専のOG九十九由基です。
それまでの夏油は、「呪霊の発生を抑制するのは何よりも人々の心の平穏」という考えをもち、愚直に呪霊を祓い続けました。
しかし、九十九から「術師からは呪霊は生まれない」「全人類が術師になれば呪いは生まれない」...と、聞きます。
この言葉を聞き夏油は、
と思わず口にします。
この言葉に九十九は否定どころか寧ろ肯定的な感想を述べ、
と言い残し呪術高専を去ります。
まさに、目から鱗。
この九十九との邂逅が、夏油傑の価値観を大きく変えることになります。
<怒りと悲しみ>
悲憤慷慨、すなわち怒りと悲しみは"闇堕ちトリガー"の鉄板です。
(このパターンの好例は、映画「スター・ウォーズ」のダース・ベーダー、映画「ジョーカー」の主人公アーサーなどが挙げられます。ご興味がある方は是非!)。
夏油傑が闇堕ちした直接の原因は、"呪術師"として最後の任務でした。
後輩の灰原雄が殉職した悲しみを引き摺りながら、2007年9月夏油はとある討伐任務に向かいました。
それは、"村落内での神隠し、変死 その原因と思われる呪霊の祓除"というありふれた任務でした。
いつものように原因となる呪霊を払う夏油。
しかし、村人たちは神隠しや変死の原因は別にあると主張します。
不審に思いながら夏油が案内された先には、年端も行かぬ幼女術師二人が牢獄に監禁されている悲惨な姿でした。
村人たちは幼女たちを「化け物め」「赤子のうちに殺しておくべきだった」と罵倒します。
幼女らは明らかに虐待されており、夏油に対しても怯えております。
夏油は村人達すなわち非術師たちに対して激しい怒りを覚えます。
この瞬間、夏油は闇堕ちしました...。
<後編に続く>
後編では、不肖、鹿冶梟介が夏油傑を治療いたします。
是非、ご高覧を!
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