見出し画像

DEATH NOTEと精神医学: 夜神月とLの精神医学的診断とIQ(後編)

【前編のあらすじ】

X(旧 Twitter)でのアンケートの結果に基づき、今回のnote記事では「DEATH NOTEと精神医学」をご紹介しております。
精神医学的に見るとLは自閉スペクトラム症(ASD)の診断基準に当てはまりますが、自らの才能を十分生かし社会に還元しているため障害とは言えないと思います(むしろLから見たら我々のほうが...)。
一方、夜神月(キラ)については自己愛性パーソナリティ障害説が有力ですが小生は違うと思います。
後編では、小生が考える夜神月(キラ)の診断および夜神月(キラ)とLのIQについて解説いたします!

↓DEATH NOTE全巻セット発売中です!


【夜神月(キラ)のもうひとつの診断】

DEATH NOTE第7巻第53話より引用

デスノートと精神医学: 夜神月(キラ)とLの精神医学的診断とIQ(知能指数)について(前編)」では、夜神月(キラ)が自己愛性パーソナリティ障害であるという説を紹介しましたが、小生は違うと感じます。

人格(パーソナリティ)とは、本人の気質(生まれながらの個性)が環境によって陶冶された結果であり、作中のような急激な変化はパーソナリティ障害には該当しないと感じます(器質性パーソナリティ障害や薬物中毒による人格変化は別ですが…)。

そこで、夜神月の急激なキャラ変(性格変化)を説明できるとある”症候群”をご紹介いたします!

それはヒューブリス症候群(Hubris syndrome)です。

この耳慣れない症候群は別名傲慢症候群とも呼ばれており、権力者がだんだん高慢になっていくことを指します(ただし正式な医学用語ではありません)。

ちなみにヒューブリスとは神に対する侮辱や無礼な行いへと導く自尊心や自信を意味する言葉です。

「僕は新世界の神になる」とほざいた夜神月(キラ)にはピッタリの言葉ですよね…。

ヒューブリス症候群はDavid Owenの定義がとてもわかりやすいため、今回の記事ではOwenの診断基準を用いて夜神月(キラ)を診断したいと思います。

ヒューブリス症候群: Hubris syndrome
以下のような特徴をもつ人をヒュブリス症候群と呼ぶ。
1 世の中を、権力を行使して自己顕示欲を満たす場と見なしている。
=>YES: 当初は”犯罪者のいない理想社会”新世界”の実現のためにデスノートで犯罪者や自分に敵対するものを葬りますが、自分の力を誇示するためにデスノートを使い始めます。
2 主に個人的なイメージを高めるために行動を起こす傾向がある。
=>YES: 夜神月(キラ)はキラのイメージを大切にしており、軽犯罪でも処刑する第二のキラこと弥海砂の殺人を批判しております。
3 イメージとプレセンテーションに不釣り合いな関心を示す。
=>NO: 該当するエピソードなし。
4 メシア的な熱意を示し、高揚して話す。
=>YES:「僕は新世界の神となる」という名言でわかりますよね?
5 自己を国家や組織と混同している
=>YES: 二部では警察組織を自分の意のままに操ります。
6 会話の中で「我々」を使う
=>YES: 夜神月(キラ)はしばしば自分の理想を語るときは”僕たち”という表現をしていました。
7 自信過剰である
=>YES: 説明不要ですよね?最終話では「新世界を作れるのは僕しかいない」と言っております。
8 明らかに他人を軽蔑している
=>YES: これも説明不要ですよね?自分以外の人間を馬鹿にしております。
9 高次の存在(歴史や神)に対してのみ説明責任を果たす。
=>NO: そもそも自分が神になろうとしております。
10 自分が正当性を証明されるという揺るぎない信念を示す。
=>YES: 夜神月(キラ)は”新世界"という自分の理想が正当なものと心より信じております。
11 現実との接点を失う。
=>NO:これは非該当?というか"死神のノート”というのが既に非現実的なのですが…。
12 落ち着きがなく、衝動的な行動に走る。
=>NO: 夜神月(キラ)は少々ムキになることがありますが、この項目は該当するとは言えません。
13 道徳的な正しさによって現実的なコストや結果を考えなくなる。
=>NO: 夜神月(キラ)はリアリストで計算高いのでこの項目は非該当です。
14 政策決定の要諦を無視した無能ぶりを発揮する。
=>YES: デスノートの存在を知られた第二部においては、ミスばかり。まさに無能っぷりを発揮してくれてます!

14の行動のうち、5つ(5,6,10,12,13)はDSM-IV(米国精神神経学会の診断基準)のパーソナリティ障害の基準の中に出てこないという意味で「ユニーク特性」と呼ばれています。

Owenによると同症候群と診断するには14の項目中のうち少なくとも3つを満たし、そのうち少なくとも1つがユニーク特性に含まれることを必要としております。

夜神月(キラ)の場合14項目中9項目、ユニーク特性のうち3項目が該当するためヒューブリス症候群にばっちり該当しますね。

夜神月は元々は正義感に溢れ、とても思いやりのあった人間と小生は思います(前編で紹介した”綺麗な夜神月”を見れば明らかですよね?)。

つまり夜神月は”サイコパス”や”自己愛性パーソナリティ障害”とは真逆の性質の持ち主であり、それがデスノートというチートアイテムを手にしたため傲慢(ヒューブリス)症候群に陥った…、というのが小生の診断です。


もう少しわかりやすく説明しましょう。

良くも悪くも夜神月は正義感が強い理想主義者です。

そんな彼が神の力...、否、死神の力を手にしたら、厨二病をこじらせちゃいますよね😅?

"天狗の高転び"という言葉がありますが、まさに夜神月(キラ)は"高転びした厨二"…、と言えるのではないでしょうか?


↓映画版も面白かったですね!


【夜神月(キラ)とLのIQはいくつ?】

さて、ここからは本記事のもうひとつの重要パート、夜神月(キラ)とLのIQについて考察しましょう。

ここから先は

6,064字 / 2画像
現役の精神科医がマンガ・アニメのキャラクターを精神医学的に解説します!

日本のサブカルチャーの代表であるマンガ・アニメを精神医学の観点から解説!これを読むとあのキャラクターの印象もかわっちゃうかも?

この記事が参加している募集

記事作成のために、書籍や論文を購入しております。 これからもより良い記事を執筆するために、サポート頂ければ幸いです☺️