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小説

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短編小説を書いています。5分あれば読めます。暇な時にどうぞ。
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記事一覧

短編小説 蝉(恋愛物)

高校の3年間というのは人生で一番早い3年間なのかもしれない。

1年の初めての校舎、勉強に始まり次々くる行事や修学旅行。

人によっては部活に恋愛、バイトなども重なりすべてにおいて忙しい。
帰ってからも友との連絡、勉強や見たいドラマだってあるし、やる事が多すぎて寝るのが惜しい。

大人を自覚していくには3年間は短すぎる。

気がつけばあと高校生活は1年しかなく、いつの間にかクラス内の会話は将来の話

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短編小説 老兵

短編小説 老兵

周りに見られ、頼ってばかりの狭い世界だったが充実した毎日。もう何年たっただろうか。
同い年や年の近い物は皆死んだ。

重たくなる目蓋を感じながら私は思う。
もうそろそろお迎えが来るだろう。

子や孫は沢山いたが会ってない子も多い。
はるか彼方で暮らしている者、私より早く亡くなった馬鹿も沢山いた。

動きは日に日に遅く鈍重になり、食も細くなる。老いとは逆らえないものだ。

戦争の時私は子で満足な食事

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短編小説 雨

短編小説 雨

毎日楽しい高校生活、それは確かに20分前まであった。もはや日常になっている幸せはさっきの一言で無くなった。

「もともとタイプじゃない」

中身の無い答えと言葉に打ちのめされ、僕ははじめて失恋をした。

この人はいつから別れを考えていたのだろう。もっと早く気付けていたらこの痛みは軽減されたのだろうか。いや、されないだろう。

彼女だった人とは高校で知り合い、初めて相思相愛がなんとなくわかり、互いに

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短編小説 葬儀屋

短編小説 葬儀屋

くいっぱぐれのない仕事といえば葬儀屋だ。
人はいつか死ぬ。

軽い気持ちで入って10年経つが突然の仕事の依頼にも動揺せずに慣れてしまった。

今日は年寄り5人に若いのが2人と少し忙しい。

いつも通り黒のネクタイを締めて笑みを作らない様に鏡を見て顔を作り葬儀に勤める。
もうすぐでお坊さんがいらっしゃる頃だ。

(お前さん、見えるんだろ?目、合ったよな?)

目の前で男の老人の霊が言っているが気にし

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短編小説 教習所

短編小説 教習所

今日も皆の視線が冷たく感じる。

生徒、教官、職員 全てが敵なのであろうか。

会社をリストラされ、職を探しながら車の免許を取得途中の私はこう思っていた。

せっかくのこのまとまった時間、実家から通えるし都合がいいと思った教習所は夢が現実になる会社のようだった。

なぜ結果を出せないのか?なぜ出来ないのか?

自分が聞きたい。
そんな目で見ないでくれ。
ただの左折が出来ない。車線変更が出来ない。世

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短編小説 鞄

短編小説 鞄

やりたくないのにミスをしてしまう。
必ず気が付かずに大ごとになっている。
自分は何か人として欠陥があるに違いない。

そう言われた事もあった、しかしもう皆は諦めたのか何も言われなくもなった。

会社にしがみつくように、すがるように生きてきてもうすぐで5年経つが身についた事はない。

あえて言えば責任を負わずに仕事を出来るだけしない1日を過ごす生き方くらいか。

今日も失敗をしてしまった。今回はシャ

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短編小説 美容師

短編小説 美容師

町外れにある二階建ての古い民家、貯めたお金を全て使っても足りなかった。

借金をして足りないところは自分でリフォームをして、機材は中古の物を揃えた。
ちぐはぐだがこれから長いんだ、少しずつ直そう。緑がほしいな。

どうしてもやりたかった自分の店。
都会の店よりも私には輝いて見えた。

その日から数年、ありがたい事にお客様はリピーターが多く。月1で来てくれる人が多くなった。

今、目の前で切らせても

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短編小説 新卒に投資

短編小説 新卒に投資

俺は他の人と違う。

幼少の頃から思っていた事はただの自惚れであった。

特別な力で、特別な所で働き、特別な仕事をして称賛される。馬鹿馬鹿しいが俺はそれが好きだ。

それなりの大学へ行き、いざ就活になるとその夢は崩れる音を見せる。

皆こぞって己のみの強みを探し、皆同じに見えて少し個性を出す正装をして、ありふれている事より少し上の答えを出す。

今日の集団面接では面接官と話している、というよりかは

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短編小説 豆腐屋

短編小説 豆腐屋

死んだ親父の跡を継いで何年だろうか。

時代は流れていくのは仕方ないが私の代で終わるのは避けたかった。

朝の4時に起きて大豆と水を混ぜ、ミキサーに回して絞り豆乳をつくる。

出来た豆乳とにがりをいれ、固めている時だけが朝の少ない休憩時間でそれが終わると卸先へ配達だ。

息子はまだ寝ているのかわからない、一緒に住んでいるが会う日の方が少ない。
作った食事は食べてくれている。

20歳を越えて出てい

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短編小説 車

今の時代から少し未来の話をする、そう遠くはないだろう。

「お父さんなんで車使うの?」

家のガレージで年季の入った軽自動車にガソリンを入れている私を見て高校生の娘がふて腐れながら言った。

「たまには良いじゃないか、久々に乗ればわかるんじゃないかな」

苦々しくも私は言う。

今の時代車はもうほぼ無い、外には電気で動く無人カーがひしめいていて、お金を払い目的地を言えば勝手に連れて行ってくれる

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短編小説 職人

短編小説 職人

あなたは人を殺した事がありますか?と言われてあると言える人は殆どいないだろう?
しかし私はそうとは言えない。

私はある銃器メーカーに勤めている職人だ。

鍛造の技術や傭兵の経験を生かして日々銃の改良、開発を行なっている。

銃は何よりも手っ取り早く人を殺し、生き残れる道具だ。
その時の罪悪感は瞬間的には残らない。
倒れた者を見なければさらに半減する。

出来るだけ1発で仕留めるなり、苦しんで戦力

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短編小説 煙草とサイダー

短編小説 煙草とサイダー

煙草を吸う時だけが幸せだ。

そう思うようになったのは入社して間も無い時からだ。

先輩と一緒に仕事を抜け出してビル横の僅かな喫煙スペースで吸っている時もいいが1人ベランダで吸っている時が何よりも落ち着く。

誰もいない空間、何も考えなくていい今、最高である。
煙草は会社と1日の終わりだけ吸うからあまり減らない。

1日の疲れと、色んな思い、嫌な事も全て煙に変えて吐き出している様だ。それだけ思うと

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短編小説 夜間警備員

短編小説 夜間警備員

もう会社を定年退職してから3年経つ。

私は65で会社を辞めてからあるビルの夜間警備員を務めている。ビルの外、入り口に立っているだけの作業だ。

この年で辞めろという声があるが、年金があてにならない今、この年でも働かなくては生きていけない。

むしろ今が昼か夜か分からないくらいの老体にはもってこいだ。

大きなビルを眺める。

68年という月日とは、信じられないくらい早いものでいつのまにか終わっ

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短編小説 社畜と猫

短編小説 社畜と猫

私は真面目だ。

サラリーマンを続けて10年、この10年何があったと聞かれると正直困る。

仕事はしている、世の中を回している1人かもしれないが俺が明日いないくらいで困らないだろう、むしろ困るのは生活できなくなる私だ。

朝の9時に出社して23時に帰る私を世の中は社畜と言うのだろう。
月に忙しい日は2日間会社に泊まる日もある。

営業とは名ばかりで実際は資料作りもプレゼンもやっているのでやる事が多

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