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短編小説 雨

毎日楽しい高校生活、それは確かに20分前まであった。もはや日常になっている幸せはさっきの一言で無くなった。

「もともとタイプじゃない」

中身の無い答えと言葉に打ちのめされ、僕ははじめて失恋をした。

この人はいつから別れを考えていたのだろう。もっと早く気付けていたらこの痛みは軽減されたのだろうか。いや、されないだろう。

彼女だった人とは高校で知り合い、初めて相思相愛がなんとなくわかり、互いに確かめ合う様なやりとりをし、学校や部活何もかもが幸せのフィルターがかかり、楽しくなり、付き合えた。

今は何も手につかない。フィルターはなくなった。

以前友達が失恋のショックで何もかも手につかない状態でいた時。僕は笑って肩を叩いて

「気を取り直して他の事やろうぜ!」

と励ましたが、あぁ、僕はなんて嫌なやつだったのだろうか。

空は晴れているのにうなだれながら自転車を漕ぐ気にもなれずに押して歩く。後ろにはいつも彼女が座っていた。

振られた場所は学校の駐輪場だった。いつも通り一緒に帰ろうと自転車を出したら自転車を見て溜息をつき、急に言われたのだ。

早足で去っていき、後ろを振り向かない彼女は僕にもう興味が無い事がひしひしと伝わり、声をかける事すら出来なかった。

自転車を押して歩いていると信号待ちをしている車に彼女だった人と大学生くらいの男が2人楽しく乗っていた。

僕はこの横断歩道を渡らなくてはいけない。とても惨めだった。

待っている車を横目で見ながら恐る恐る横断歩道を渡る。彼女だった人と一瞬目があったが僕をみる目は他人を見る目だった。

そういうことか。

「もともとタイプじゃない」という中身の無い言葉は本当に中身が無く僕を排除出来ればなんでも良かったのだ。

僕はこの時思った。あぁ、あの日のあの子はもういないんだと。

車に乗っていたあの子といつも自転車の後ろに乗っていたあの子は違う人なのだ。

人が変わった というのではなく、おそらく 無くなった 亡くなった の方が近いのだろう。

取り返したくても取り返せないのだ。いないから。
おそらく彼女が心変わりして

「あなたの方がよかった、付き合い直して」

と言っても無理だろう。それは彼女では無いから。知らない他人から言われたら驚くだろう。

その瞬間信じられないが冷静になっている自分がいた。そして自分が怖くなった。
一つ言いたいのは現実逃避とか逃げるとかでは無いこと。
おかしい事に納得してしまったのだ。僕はおかしいのだろうか?正しいのだろうか?

あなたはどう思います?

そして気づいた時に、また世界は輝いて見え、フィルターが戻っていた。

数日後、雨が降っていた日、放課後の僕は下駄箱で帰ろうと靴を履き替えていた。

ふと外を見ると彼女だった人とその友人が雨宿りをしていた。私は普通の傘と折り畳み傘を持っていたので普通の傘を渡そうと声をかけた。

彼女だった人は私と目が合うと傘を取ってありがとうと言い足早に友人と出て行ってしまった。

後で友人に傘を返してもらったついでに聞いたが、私が彼女の事を見た目が他人に親切にしている目で怖すぎたらしい。

何を言っているのか全くわからない。

僕の中の彼女は無くなったのだから。困っている他人を助けるのは普通じゃないか。

どうでもいい話だがおそらく彼女の中の僕は生きていたのだろう。まだいたのであろう。

バカな話だ。彼ももう、無くなったのだから。








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