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短編小説 教習所

今日も皆の視線が冷たく感じる。

生徒、教官、職員 全てが敵なのであろうか。

会社をリストラされ、職を探しながら車の免許を取得途中の私はこう思っていた。

せっかくのこのまとまった時間、実家から通えるし都合がいいと思った教習所は夢が現実になる会社のようだった。

なぜ結果を出せないのか?なぜ出来ないのか?

自分が聞きたい。
そんな目で見ないでくれ。
ただの左折が出来ない。車線変更が出来ない。世間のルールにのっとっての走行が出来ない。

今日も原本を教官に渡し、開いて前回の成績を見て溜息をつき私をチラッと流し見る。

こんなハズレ生徒が担当で申し訳ないな。

こう思うしか出来ないのだ。
この日は情けで合格したに違いない。

その予想は当然の如く当たり。卒業検定も失敗を続けてしまった。

将来車に乗らない人生を歩もうかと何度も思った。しかし免許を持っている国民はかなりいるはずだ自分はどこまで落ちぶれているのだろうか。

免許というカードは国民カードの様で私はこの国を恨んだ。

敵の方々も私をそんな目で見ていないのはわかる。ある程度の技術を身につけなければ安全に生きられない。いざ外に出たら死んでしまう。
技術がない私がいけないのだが他と違うこのわだかまりは何とも言えなった。

この気持ちはあの嫌な会社にいたときの様であった。

皆に出来て私に出来ない。その逆は無いのだ。

そんな事を多々思うことはあるが。今は会社にいた時と違う。今まで受け入れられなかったがリストラされた今は受け入れられる。

私は不出来である。私は他よりも遠回りをしなくては生きていけない。
わかっているから出来るのだ。
わかっているから今日も自転車を漕いで通っているのだ。
わかっているから今日も睨まれるのだ。

今日も教習所へ向かう。そこには敵がとても多い。今日も世界は私を拒むだろう。

受け入れてくれないのであれば自分が動くしか無いのだ。

世界は冷たい。結果を出した人間しか受け入れてはくれない。

ならば私は結果を出し、私の様な人間を守ろう。結果を出せない人を受け入れて結果を出してあげよう。

それが私の優しさであり、強さになると信じている。

そこのあなたは、何を守れていますか?力はありますか?





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