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#人生
野菜スープ@Tokyo
いつものように起きる。ぼうっとしながら洗面所へ向かう。髪をあげ、蛇口をひねる。顔を濡らしたときに違和感があった。ガサガサしている。何かが変だ、と思いながらもいつも通り顔を洗い、タオルで水を拭き取った。
私の顔は、ゾウのようにガサガサして赤いまだら模様になっていた。
なにこれ……呆然とした声が出る。鏡の中の自分に焦点が合わない。
思わず顔を触る。額、頰、鼻、顎。そのまま視線を腕にやれば、まだら模様
ジャガイモ@Hokkaido
ほら、海ちゃん、呼ばれなさい。
その中では一番若いおばあちゃんが、ニコニコと笑う。ひっくり返した年季の入った水色のコンテナの上に、菓子パンがならぶ。10時と15時、農家はしっかり休む。じゃないと体力がもたないからだ。「しっかり」すぎて、たった1週間なのにお腹周りが太ったが。
朝8時から夕方5時まで。私は誰より若かったが、時給のお手伝いさんだから、と誰より働く時間は短かった。おじいちゃんおばあちゃ
オレンジジュース@Vancouver
ふわっと意識が浮上する。眼鏡のない視界は水の中のようにぼやけていて、向こう側がやたら明るい。守るように、自然と目を細めた。
少しずつ目が慣れて、ぼんやりと、強烈な光を遮る影が見えてきた。人の形。さっきまでここにいた、彼。業務用みたいな巨大な冷蔵庫の白い光を遮るようにして、開けっ放しの扉の前に、彼が背を向けて立っているようだった。
ベッドサイドに目をやれば、白く「AM3:25」と浮かび上がっている
チキンカレー@Hokkaido
太ももが伸びる。とん、と肩を押されて、正座していた私は、足を正座の形にしたまま、後ろに倒れた。筋肉のびすぎ。かなりきついストレッチみたい。
大きな手が髪を撫でてくる。いつものにおい。そのまま頰に触れられる。冷たくてしっとりしてる。そう、ちょっと爬虫類みたいな感じ。ゆるいくせ毛の前髪が近づいてくる。
ただ近くにいて、とりとめもない話をして。それだけだ。それなのに、すごくドキドキしている。わるいこ
クローバー@Hokkaido
明日は首が隠れる服を着てきて。
そう書いてあった。雪だるまの絵と一緒に。
その前日、私は1ページ書き込みを増やしたノートの上に、白い封筒を置いた。自由に使えるお金がない私は、なにも贈れるものがない。それを知っていた彼から、この封筒を渡された。開くと立体的な雪だるまが飛び出すグリーティングカード。雪だるまのお腹を押すと、メッセージが録音できる。ピッ、という音を聞いて、私は息を吸い込んだ。
向かっ
ホットチョコレート@Vancouver
ある夜だった。電気ケトルでお湯を沸かす。グリーンのパッケージの、見慣れたホットチョコレートのスティックをオレンジのマグに入れ、お湯を注ぐ。最後に少しだけミルクを入れるとそれっぽくなる。ちょっとぬるくなるのもいい。なみなみに注いだオレンジ色のマグを手に、音を立てないよう静かに階段を下りる。結構な頻度でカーペットにつま先をひっかけそうになるので、慎重に進む。音が立たないようにドアを開けて閉め、マグをベ
もっとみるシーフードヌードル@Nagano
怒涛の繁忙期が終わった。9月に入れば満室になる日は稀だったが、今度は紅葉を求めるお客が来るようになった。電話で「紅葉はどんなもんですかねぇ」と、判で押したように聞かれる。「色づき始めましたが、自然相手なので、わかりません」。下界のような、常にこちらが下手に出ることを求められる接客は、ここではいらない。そこが好きだった。
空気は一気に冷たさを増し、食堂にはどん、とストーブが置かれた。相変わらず忙し
ペットボトルの緑茶@Hokkaido
自動ドアが開く。どんよりいつもの曇り空。海沿いのこの街は、霧が多く夏も涼しい。教室の誰より早くビルを出た。長期休暇の講習会にしか参加しない私には、どうせ知り合いもいない。正面から少し離れたところに、見慣れたグレーの車が停まっている。さっと乗り込んだそれは、親の車ではない。
海沿いの国道を走る。助手席には座れない。この辺りの海は、沖に出ると突然深くなる地形だそうで、全面遊泳禁止だった。そのうち車は
Open sesame@Hokkaido
キキ、とブレーキの音がして、車が停まった。後部座席、助手席の後ろ座っていた私は軽く背中を打った。このまままっすぐ進めば、公園が右手に見えてきて、もうすぐ着く。でもここはずいぶん手前の、周りに何もないただの道。住宅街だが車も人もあまり通らない。画質の悪いホラーゲームに出てきそうな暗い街だ。
いきなり明るくなって反射的に瞬きをした。車内のライトが点いたんだ、ドアを開けたら自動で点くやつ。続けてバン、