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大型の重力蓄電システムが稼働

スイスEnergyVault社が開発し、2019年にソフトバンクが約120億円を出資、2020年に実証設備を世界初稼働。その後、イタリア大手電力会社などと提携し米豪中に建設計画を発表。
そして2024年3月、中国に建設していた第一号となる蓄電容量10万kWhの大型商用機「EVx」が昨年末に完成し、試運転後に商用運転に移行すると発表されました。

仕組みとしては、太陽光発電といった再エネなどの余剰電力を使ってクレーンでコンクリートブロックを積み上げ、放電したい時にブロックを下ろしその重さで発電機を動かし回生発電。私たちが普段使用しているエレベーターも以前からこれと同じ回生発電で消費電力を削減しています。
このシステムは蓄電池のような電気化学的な蓄電システムに対し、位置エネルギーを使った物理的な蓄電に分類され、水とポンプを使う揚水発電、コマを使うフライホイール蓄電などもこれにあたります。

メリットとしては、
・レアメタル等を一切使わず建設費が安い。コンクリートブロックも廃材で作れるため、kWhあたり2~4米セントで済みあらゆる蓄電システムの中で最安値とされる
・山を造成してダムを作る揚水発電が充放電効率70%なのに対し、重力蓄電は80%と高い(リチウムイオン蓄電池は90%)
・ビルが建てられる土地であれば建設でき、廃坑など地下空間も利用できる
・環境への悪影響がほとんどない
対してデメリットとしては地震で停止しやすいということが考えられます。

EVxは他にも多くの計画が進められており、ソフトバンクが出資していることから将来は日本での建設も期待できます。似た技術を使った英Gravitricity社も実証機での発電に成功し、ドイツ、フィンランドなどの廃坑で大規模な実証を行うことが決定。ある研究機関によると全世界の廃坑に重力蓄電を設置した場合のポテンシャルは容量70TWhということで、もし日本が再エネ100%を実現する際に必要な蓄電容量の100倍以上となります。

物理的な蓄電には他にも様々な研究が進んでおり、実用化が近いものとしては、
・CO2 Battery(二酸化炭素の圧縮液化と気化膨張を利用。伊での実験に成功し、米で大型設備の建設決定)
・液化空気エネルギー貯蔵(空気の圧縮液化と気化膨張を利用。米英で大型設備の建設が決定し、住友重工が出資し日本でも建設が決定)
・熱エネルギー貯蔵(蓄熱性の高い岩石やアルミや溶融塩に熱を貯めスターリングエンジンで発電。商用設備の生産が各国で開始)
といったものがあります。

環境省によると日本は再エネ資源が豊富にあり、発電量は年間需要の数倍になると分析しています。しかし安定供給するには蓄電技術が必須であり、蓄電池はコスト低下は進んでいるものの材料の制約でさらに安価になるには時間がかかりますし、リチウムといった資源はEVなど消費側に優先して供給した方が効率的です。
重力蓄電のような低コストな蓄電技術が普及することで、再エネが早期に安定化し、原発や火力発電に頼らない社会が築ける日が近くなるでしょう。

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