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エッセイ他

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長めの詩と、物語と、ポエムの延長線上にあるエッセイと。
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#不安

伝わらないタイプの対人不安

伝わらないタイプの対人不安

 落ち着いてるねと言われることが結構あった。他人からそう認識されているということは自分は落ち着いた人間なのかなと漠然と思っていた。

 心の中を覗いてみれば不安と葛藤が渦巻いて波立っていることも多いのだが、比較対象となる他人の心を覗くことはできないから、自分の波が平均よりも高いのか低いのかわからない。これが落ち着いているということならば、他の人はもっと激しい嵐の中にいつもいるのだろう。もっと大変な

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恐怖していた、被害妄想だったとしても

恐怖していた、被害妄想だったとしても

 何だか知らないが疲れている。注意力散漫でさっきまで何をしていたかすぐ忘れるし、口の粘膜が荒れて口内炎が次々にできる。どこにも行きたくないし、何もしたくない。手持ち無沙汰になるとゲームをしたりYouTubeを流したりして何となく時間を潰す。停滞、あるいは縮退。途切れた道の続きを探すのも面倒で、快適でもないがそこそこ安全な藪の中にだらだらと留まっている。

 急に訪れた秋に鬱っぽくなっているのか、猛

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不安症の日常

不安症の日常

 不安に駆られて飛び出した。

 どこへ?

 ——とりあえず内科。

 一時間以上の待ち時間を経て診察室に入り、具合の悪さを説明する。医師が首をひねる。もう帰りたい。

 触診して、検査して、どこにも異常は見付からない。やっぱりだ。またやってしまった。「お役に立てなくてすみません」なんて謝られてしまって、居たたまれなくて仕方ない。ごめんな先生……俺の勘違いに付き合わせてごめんな……。

 ちょっ

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エッセイこわい

エッセイこわい

 エッセイは怖い。我が身に密着し過ぎているから。創作だからと逃げることも、架空の人物の陰に隠れて腹話術で話すことも許されない。エッセイに書いたことはそのまま自分の中身と解釈される。間違ったことを書いて責められるのも、誰かの感情を逆撫でして嫌われるのも自分。

 腹の中にあるものを隠して善人ぶっていない、正しいとされる価値観を振りかざしていない、むき出しの自分を知られるのが何より恐ろしい。そういう風

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不安

不安

 嫌だ要らない手放したいって君は言うけど、本音では僕が必要なんでしょ?

 僕が君を離さないのは、君が僕を呼んでいるから。

 不安でいないのが不安だから。

 僕は君を守っているよ。

 傷付く言葉、冷たい視線、体調不良、事故に災害。目隠しで見る未来の闇。

 いつも最悪を予測して、備えろと君を急き立てる。

 僕の予言が外れても、君は良かったと喜ぶだろう。

 僕の予言が当たっても、君は充分な

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憂鬱な幸福論

憂鬱な幸福論

 幸せとは湖の薄氷の上にあるものだ。

 足元にはいつだって、冷たく深い水の塊が青く青く待ち構えている。

 何気ない不注意が、ちょっとした偶然が、湖の上の氷に亀裂を作る。亀裂が元に戻ることはなく、新しい氷が薄い膜を張って塞ぐだけ。触っただけで崩れてしまうような脆いかさぶたがいつまでも残る。

 水底にはかつて幸せを構成していたものが凍ったように沈んでいる。時々あえて氷を割って、悲しみの色をした水

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