羽野京栄

歴史長編小説、短編小説、現代詩、エッセイ等を公開しています。

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マガジン

  • つれづれなる恋バナ【歴史長編恋愛小説】

    『徒然草』の著者・卜部兼好(兼好法師)が令和の世の読者に贈る、自らの若かりし日の淡く切ない恋愛話。  時は鎌倉時代後期。二十六歳の兼好は有力貴族の邸宅に執事として務めている。ある日、ひょんなことから宮中に仕える同い年の唐橋咲子に出会う。その名の通り春の京都に咲き誇る花のように美しい咲子に恋焦がれるが、同じく彼女に心惹かれる男が立ちふさがり、三角関係に巻き込まれていく。  咲子を想い続ける一方、恋敵との関係にも頭を悩ませる兼好。変わりゆく時代の流れにも翻弄され、ままならぬ世の中でもがき続ける兼好が迎えた、恋の結末とは?  時代を越えた恋愛の本質を問う、歴史長編恋愛小説。

  • 羽野京栄note詩集

    羽野京栄による、noteにのみ公開している現代詩を収録。

  • 羽野京栄note短編小説集

    羽野京栄がnoteのみに公開している短編小説です。一話読み切り、文字数4,000字前後です。

記事一覧

つれづれなる恋バナ 終章【歴史長編恋愛小説】

終章  年を重ねた今、実感することがある。昔の思い出とはなんと美しいものだろうと。夜空に輝く星たちがどれも煌びやかなように、若かりし日の出来事は淡く、瑞々しく、…

羽野京栄
3週間前
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つれづれなる恋バナ 第九章 いつでも微笑みを【歴史長編恋愛小説】

第九章 いつでも微笑みを  時間はゆっくりと流れるが、だが過ぎてしまえばあっという間に感じる。  天地は淡々と時を刻み、今は正和六年(一三一七)の一月である。  …

羽野京栄
3週間前
4

つれづれなる恋バナ 第八章 旅立ちの橋【歴史長編恋愛小説】

第八章 旅立ちの橋  花散らしの雨は、三日三晩続いた。  地面を叩きつける轟音を伴う激しい春雨のせいで、洛中における各所の桜ははかなく散ってしまったようである。 …

羽野京栄
3週間前
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つれづれなる恋バナ 第七章 まことの心【歴史長編恋愛小説】

第七章 まことの心  延慶四年(一三一一)の年が明けた。  正月三日、花園帝の元服式が二条富小路内裏にて盛大に執り行われた。それは持明院統の権威を誇示する格好の式…

羽野京栄
3週間前
1

つれづれなる恋バナ 第六章 移りゆく季節【歴史長編恋愛小説】

第六章 めぐる季節  春から初夏へと移ろいゆく季節。ほかほかとした風がそよぎ、京の都は心地いい陽気に包まれている。  四月中酉(中旬)の日、賀茂祭が色鮮やかに都大…

羽野京栄
3週間前
1

つれづれなる恋バナ 第五章 未来をともに【歴史長編恋愛小説】

第五章 未来をともに  神官の家系である卜部家は、新年の行事がようやくひと段落していた。  神楽岡の吉田神社では、卜部本家が宮司を務めているが、正月の諸行事には庶…

羽野京栄
3週間前
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つれづれなる恋バナ 第四章 月夜に君は【歴史長編恋愛小説】

第四章 月夜に君は  無官のまま、卜部兼好は年を越した。  新帝・花園天皇の即位に伴い改元され、迎えた年は延慶二年(一三〇九)である。この冬は異様に寒く、京の都で…

羽野京栄
3週間前
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つれづれなる恋バナ 第三章 秘めたる思い【歴史長編恋愛小説】

第三章 秘めたる想い  新帝の即位礼は十一月十六日、太政官庁にて盛大に執り行われた。   式典を取り仕切ったのは当然、七年ぶりに皇位を奪還することとなった持明院統…

羽野京栄
3週間前
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つれづれなる恋バナ 第二章 笑顔と涙と【歴史長編恋愛小説】

第二章 微笑みと涙と  十一月の夕暮れ近くの風が、古い邸宅の中にも伝わってくる。今日の風は凍えるような冷たさである。  鴨川の東、神楽岡にふわっと盛り上がる吉田山…

羽野京栄
3週間前
4

つれづれなる恋バナ 第一章 出会い【歴史長編恋愛小説】

あらすじ・序章はこちら 第一章 出会い  京の都に、徳治三年(一三〇八)の春が訪れた。  御所から西北の北野では、今まさに早春の喜びにあふれている。天神さま・菅原…

羽野京栄
3週間前
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つれづれなる恋バナ 序章【歴史長編恋愛小説】

序章  なんと。「令和」なる世に生きる諸君の中には、硯よりも小さな、鉄のような素材でできた札でこれを読んでいるというのか。  和紙に文字をぎっしりとしたためた書物…

羽野京栄
3週間前
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【脚本】漫画アニメ脚本制作実績【最新】

これまでに担当させていただいた、 YouTube漫画アニメ脚本の制作実績をご報告します。 公開済脚本動画:330本 うち10万回以上再生:53 (20.12.29~23.11.5) 〈内訳〉 …

羽野京栄
8か月前
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【現代詩】桜ゆらゆら

街は桜に彩られ ぼくはきみにふりまわされ 心地いいはずの春のそよ風は きみの手にかかれば嵐のよう どうしようもないくらい もうきみとは描けない未来 でもきみの芳香が…

羽野京栄
3年前
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【現代詩】桜の花が咲くときは

扉の向こうへ足どり軽く 春風があたたかく迎えるとき 今年もそう 桜の花が咲く 薄日でもまぶしい光を照らす 道行く人の瞳きらめき 小鳥があたたかくさえずるとき 今年も…

羽野京栄
3年前
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【現代詩】これから刻み始める日

青く澄んだ早春の空が 灰色の雲に染まったあの日 柔らかなその手のひらから 大切な宝物がすり抜けた 時の刻みをかすかに聞いて 心憂い月日を過ごしたあなた ただひたすら…

羽野京栄
3年前
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【現代詩】若葉が見つめる光

心凍える日を越えて 淡いぬくもり風が吹く 悩ましい時に揺れたけど 空に柔らか雲が舞う そっと萌え出す若葉たち 今年もまた出会えたね 薄い緑を光が照らす 命の輝きは春…

羽野京栄
3年前
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つれづれなる恋バナ 終章【歴史長編恋愛小説】

つれづれなる恋バナ 終章【歴史長編恋愛小説】

終章
 年を重ねた今、実感することがある。昔の思い出とはなんと美しいものだろうと。夜空に輝く星たちがどれも煌びやかなように、若かりし日の出来事は淡く、瑞々しく、そして愛しい。
 振り返ると、あの女性との日々は、彼女の麗しさとともに、無数の星々の中のもっとも煌びやかな一等星として、絶えず私の胸に刻まれている。
 青春の昔の叶わなかった恋の思い出を、清々しい気持ちで回想することができる私は、幸せなのか

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つれづれなる恋バナ 第九章 いつでも微笑みを【歴史長編恋愛小説】

つれづれなる恋バナ 第九章 いつでも微笑みを【歴史長編恋愛小説】

第九章 いつでも微笑みを
 時間はゆっくりと流れるが、だが過ぎてしまえばあっという間に感じる。
 天地は淡々と時を刻み、今は正和六年(一三一七)の一月である。
 ここは洛北・岩倉の山辺の、広い敷地を誇る墓所だ。様々な雑草が生い茂る敷地の中に、ふわっと土が盛り上がった小さな半円の丘墓がある。傍らには真新しい墓標が立ち、「堀川内大臣具守之墓」と記され、横には「正和五年正月十九日没」と刻まれている。
 

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つれづれなる恋バナ 第八章 旅立ちの橋【歴史長編恋愛小説】

つれづれなる恋バナ 第八章 旅立ちの橋【歴史長編恋愛小説】

第八章 旅立ちの橋
 花散らしの雨は、三日三晩続いた。
 地面を叩きつける轟音を伴う激しい春雨のせいで、洛中における各所の桜ははかなく散ってしまったようである。
 ようやく春の青空が戻った四日目。兼好は岩倉の堀川別荘にやってきた。広大な別荘の庭園に植えられた桜の木々も、花びらがすっかり散り落ちていた。
(なぜ、突き放したのだろう)
 兼好の胸中は混沌としている。四日前、雨が降りしきる中、咲子は溢れ

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つれづれなる恋バナ 第七章 まことの心【歴史長編恋愛小説】

つれづれなる恋バナ 第七章 まことの心【歴史長編恋愛小説】

第七章 まことの心
 延慶四年(一三一一)の年が明けた。
 正月三日、花園帝の元服式が二条富小路内裏にて盛大に執り行われた。それは持明院統の権威を誇示する格好の式典であった。式次は当然花園帝の取り巻きが主導して進められ、伏見院の庇護を受ける貴族たちが得意顔で若き帝を見守った。その中には、権大納言に複したばかりの京極為兼の姿もあった。
 めでたい雰囲気の中で一年が始まったが、朝廷の実権は持明院統の手

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つれづれなる恋バナ 第六章 移りゆく季節【歴史長編恋愛小説】

つれづれなる恋バナ 第六章 移りゆく季節【歴史長編恋愛小説】

第六章 めぐる季節
 春から初夏へと移ろいゆく季節。ほかほかとした風がそよぎ、京の都は心地いい陽気に包まれている。
 四月中酉(中旬)の日、賀茂祭が色鮮やかに都大路を彩る。御所から、例祭が催される下鴨神社と上賀茂神社までを、華やかな行列が練り歩く
 いま花園帝は二条富小路内裏に居している。そこから衣冠などに飾りをつけた勅使、供奉者らが行列をなして富小路を北上し、下鴨神社を経由し上賀茂神社に参向する

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つれづれなる恋バナ 第五章 未来をともに【歴史長編恋愛小説】

つれづれなる恋バナ 第五章 未来をともに【歴史長編恋愛小説】

第五章 未来をともに
 神官の家系である卜部家は、新年の行事がようやくひと段落していた。
 神楽岡の吉田神社では、卜部本家が宮司を務めているが、正月の諸行事には庶流の卜部家も毎年参加する。兼好も父兼顕、弟兼雄とともに儀式に陪席していた。
 吉田神社における新年行事の最後の務めが終わり、自宅に戻った兼好は気にかかることがあり、兼顕の部屋を訪ねた。
「このたびはご苦労様でございました。父上、お務めは今

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つれづれなる恋バナ 第四章 月夜に君は【歴史長編恋愛小説】

つれづれなる恋バナ 第四章 月夜に君は【歴史長編恋愛小説】

第四章 月夜に君は
 無官のまま、卜部兼好は年を越した。
 新帝・花園天皇の即位に伴い改元され、迎えた年は延慶二年(一三〇九)である。この冬は異様に寒く、京の都では二度も膝あたりまで積雪するほどであった。
 朝廷への勤務がなくなったことで、兼好はこの冬の間は自宅と堀川家を往復するのみの日々だった。兼好は例の離れ舎で主人、堀川具守に課せられた秘密の業務をこなした。その回数、三度。前年十一月に、具守が

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つれづれなる恋バナ 第三章 秘めたる思い【歴史長編恋愛小説】

つれづれなる恋バナ 第三章 秘めたる思い【歴史長編恋愛小説】

第三章 秘めたる想い
 新帝の即位礼は十一月十六日、太政官庁にて盛大に執り行われた。 
 式典を取り仕切ったのは当然、七年ぶりに皇位を奪還することとなった持明院統に与する公卿たちである。高御座に座したまだ元服前の十二歳の新帝の脇を、この時を待ち焦がれていた連中が意気軒高に固めている。どの顔も得意満面な有頂天ぶりに溢れている。単なる一儀式にとどまらない、覇権交代を世に知らしめる格好の舞台。権力をつい

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つれづれなる恋バナ 第二章 笑顔と涙と【歴史長編恋愛小説】

つれづれなる恋バナ 第二章 笑顔と涙と【歴史長編恋愛小説】

第二章 微笑みと涙と
 十一月の夕暮れ近くの風が、古い邸宅の中にも伝わってくる。今日の風は凍えるような冷たさである。
 鴨川の東、神楽岡にふわっと盛り上がる吉田山。その山辺にひっそりと建つ卜部家では、居間に家族全員が勢ぞろいしている。
 縁側に腰を下ろした卜部兼好と向かい合うように、上座に父の兼顕、継母のとみが座している。兼好の向かって右には弟でとみの実子の兼雄、左には長兄であるが幼くして出家し、

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つれづれなる恋バナ 第一章 出会い【歴史長編恋愛小説】

つれづれなる恋バナ 第一章 出会い【歴史長編恋愛小説】

あらすじ・序章はこちら

第一章 出会い
 京の都に、徳治三年(一三〇八)の春が訪れた。
 御所から西北の北野では、今まさに早春の喜びにあふれている。天神さま・菅原道真公を祀る北野天満宮の境内には、今年も梅の花がほがらかに咲き誇っている。
 本殿の参拝を終え、梅園の煌びやかさに目を奪われている一人の若者がいる。
「いつみても美しいなあ」
 思わずひとり言をこぼしたのは卜部兼好。このとき二十六歳であ

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つれづれなる恋バナ 序章【歴史長編恋愛小説】

つれづれなる恋バナ 序章【歴史長編恋愛小説】

序章
 なんと。「令和」なる世に生きる諸君の中には、硯よりも小さな、鉄のような素材でできた札でこれを読んでいるというのか。
 和紙に文字をぎっしりとしたためた書物がその札の中に含まれている、と言われても、何のことだか私にはさっぱり分からない。その大きさときたら、縦は五寸(約十五センチ)、横は三寸(約九センチ)にも満たないというではないか。手のひらに収まるほどの極小の物体に、古今東西のありとあらゆる

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【脚本】漫画アニメ脚本制作実績【最新】

【脚本】漫画アニメ脚本制作実績【最新】

これまでに担当させていただいた、
YouTube漫画アニメ脚本の制作実績をご報告します。

公開済脚本動画:330本
うち10万回以上再生:53
(20.12.29~23.11.5)

〈内訳〉

*スカッと系:Vyond217、朗読57、漫画9、2ch3

*感動系:Vyond8、朗読17

*PR系:漫画19
#シナリオライター #YouTube #脚本家

【現代詩】桜ゆらゆら

【現代詩】桜ゆらゆら

街は桜に彩られ
ぼくはきみにふりまわされ
心地いいはずの春のそよ風は
きみの手にかかれば嵐のよう

どうしようもないくらい
もうきみとは描けない未来
でもきみの芳香が忘れられない
いつもでも消えない残り香さ

心つながる永遠は
まばたきのような一瞬の輝き
桜の花が開く前に
きみは愛というつぼみを
摘み取ってしまったんだね

桜ゆらゆら微笑みながら
ぼくらはゆらゆら散っていく

ぼくは待っていたんだ

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【現代詩】桜の花が咲くときは

【現代詩】桜の花が咲くときは

扉の向こうへ足どり軽く
春風があたたかく迎えるとき
今年もそう 桜の花が咲く
薄日でもまぶしい光を照らす

道行く人の瞳きらめき
小鳥があたたかくさえずるとき
今年もそう 桜の花が咲く
舗道にのどやかな若草ゆらす

つれない冬の日を越えて
真白なページをめくるとき
今年もそう 桜の花が咲く
過ぎゆく季節に想いをのこす

いま辛苦にふける日々と
ぼんやりためいきもらすとき
今年もそう 桜の花が咲く

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【現代詩】これから刻み始める日

【現代詩】これから刻み始める日

青く澄んだ早春の空が
灰色の雲に染まったあの日
柔らかなその手のひらから
大切な宝物がすり抜けた

時の刻みをかすかに聞いて
心憂い月日を過ごしたあなた
ただひたすらに前だけ向いて
希望を探して重ねた歳月

そんなあなたを見つめながら
がむしゃらな後ろ姿に憧れていた
心に透けた凍える痛みは
あなたにしかわからないのね

ホットコーヒーをすすった朝も
あなたは遠い光を探していたね
ぬるま風が静かにそ

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【現代詩】若葉が見つめる光

【現代詩】若葉が見つめる光

心凍える日を越えて
淡いぬくもり風が吹く

悩ましい時に揺れたけど
空に柔らか雲が舞う

そっと萌え出す若葉たち
今年もまた出会えたね
薄い緑を光が照らす
命の輝きは春の華

冷たい言葉が身に沁みて
氷の世界に気もそぞろ

耐え忍んだ日々は過ぎ
のぞみたたえた明日が来る

ふわり芽生えた若葉たち
浴びる光は優しいですか?
いつもと変わらぬぬくもりを
いま全身に感じてますか?

そっと萌え出す若葉た

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