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【将棋】互いに好手連発!竜王戦挑戦者決定三番勝負第1局▲永瀬王座ー▽藤井二冠戦

8月12日は第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負第1局▲永瀬拓矢王座ー▽藤井聡太二冠の対局があった。世間は藤井二冠の方に注目していたと思うけれども、自分は両者の繰り出す手のレベルの高さにどちらも応援せずにはいられないほど圧倒される一局となった。個人的に受けた印象も含めて綴っていくことにしよう。

【序盤】永瀬王座、必然の振り飛車採用(?)

これまで両者の対戦は5度あり、永瀬王座1勝に対し藤井二冠4勝だった。この永瀬王座の唯一の勝利は振り飛車(四間飛車)を採用したものだったからか、秘密裡に研究していたのであろう三間飛車を選択した。最近の永瀬王座は居飛車を指しているイメージが自分の中に定着していたので「これは今日すげぇことになるぞ」と思った。

【中盤1】日が暮れるまで続いた睨み合い

戦形は金銀4枚で玉を深く堅く囲う相穴熊となった。藤井二冠の居飛車穴熊は角まで加わった囲いになっている。対して永瀬王座の三間飛車穴熊は角を囲いに参加させていない(振り飛車は居飛車穴熊に組ませないよう角のラインを変えず、居飛車をけん制した駒組みをするのが基本)。4枚穴熊は飛車・角・桂しか戦力に割けないので攻めが軽く、すぐに息切れしやすい。それゆえ、穴熊使いには歩を上手に使うスキルが求められる。

中盤、五段目に4~6枚並んだ永瀬王座の歩が藤井二冠の浮き飛車と陣形に沈黙の圧力をかけていた。そのまま押し潰すのでは?と思えるほどだった。しかし仕掛ける側が先に損をしてしまうので、なかなか本格的な戦いには突入せず、歩のやりとりだけで時間は刻々と過ぎていった。結局歩以外の駒を取り合って戦いが始まったのは90手台(21時頃)と余り例を見ない将棋になった。既に日は暮れていた。

【中盤2】穴熊戦勝利のためのセオリー、桂香回収

相穴熊戦は囲いに手数を割くことと、少ない戦力で相手の穴熊を攻略するのに手数がかかるため必然的に長手数の戦いになる。100手を過ぎてもどちらが勝つのか全く分からない中盤戦の最中、藤井二冠は飛車・角をそれぞれ角・金と刺し違え、永瀬陣左翼に捌け残った桂香を回収することに成功する。結果的に飛車1枚と金桂香3枚の交換となり、かなりの駒得となった。

対して永瀬王座は下段に打ちおろした角が飛車の横利きを遮ったため、藤井陣右翼に残った桂香回収(戦力補充)をできなくしていた。これが勝敗を分けた遠因だと思う。穴熊戦勝利のためのセオリーは①と金攻めと②相手陣の桂香回収なのだが、②の差で藤井二冠がやや優勢の印象を受けた。

【終盤】好手連発、そして決着

終盤も互いにAIの示す最善手や好手の連発でとんでもなくハイレベルな戦いを繰り広げた。が、ここで中盤の駒の損得の差が浮き彫りになってしまう。藤井二冠は取った香を永瀬陣を睨みながら自陣強化に据えたり、取った桂を銀と交換して永瀬王座の穴熊を弱体化させるなどして着実にリードを広げていった。こういう流れを一部では「駒得は嘘をつかない」と形容したりする。

とりわけ、▽5二銀(自陣強化&馬飛車交換の強要)と▽6五金(入玉防止の待ち駒&代わりに▽3六桂▲同飛と単に清算してしまうと飛車が攻防に良い位置に来てしまうことの抑止)の好手2手が圧巻だった。最終盤、永瀬王座は2枚の桂で金銀を剥がしつつ藤井二冠の玉を穴熊からひっぱり出すことに成功はしたものの、そこからスピーディに迫る持ち駒がなくて息が切れ、勝負アリの状態になってしまった。最後まで桂香を回収して攻撃力をためられなかったのが悔やまれる一局だったのではないか、と個人的には回想する。

【個人的短評】

棋界四強の2名が激突したこの対局は互いにクオリティの高い手を連発し合うアマチュアにも嬉しい対抗形(居飛車vs振り飛車)となった。そして、安い駒(桂香歩)を使って金銀を剥がしていくのが穴熊攻略のセオリーであることを教えてくれる教科書のような棋譜と言えると思う。終わってみれば184手の日を跨ぐような(終局は23時36分の)大激闘だった。30日に行われる第2局の戦型が一体どうなるのか、今から楽しみで仕方がない。

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