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【将棋】順位戦B級1組4回戦▲藤井二冠ー▽久保九段戦、振り飛車の不満。

振り飛車は飛車に何手も手数をかけているほど余裕があるのか?

7月6日に行われた順位戦B級1組4回戦▲藤井二冠ー▽久保九段は藤井二冠の流れるような指しまわしと駒余り無しの実戦詰将棋(29手詰)によって幕を下ろした。個人的には、振り飛車党の希望である久保九段がどのように藤井二冠を翻弄するのか?に注目していた。

久保九段が選んだ作戦は角交換四間飛車だった。飛車だけの動きを示せば、▽4二飛~▽2二飛~▽2一飛とし、金銀2枚を左翼に配置する下図のような中飛車の親戚みたいな構えに落ち着いた。

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2000年代初頭は居飛車の急戦に対抗する振り飛車の美濃囲いの方が玉は堅かった。それが、2021年現在では居飛車の方が陣形が堅いという不思議な逆転現象が起こっている。堅さで敵わない振り飛車が採った作戦は、序盤から角交換を恐れずに積極的に動いて優位を築こうとする方へとシフトしていっているが、あまり上手く行ってはいない。その理由は、飛車に手数を1手以上かけなければならない点にあるからだと考えている。早く動かなければならないのに、飛車に何手もかけているようでは指針と行動が合っていない。

前述の通り、▲藤井二冠ー▽久保九段戦では贅沢にも飛車に3手もかけている。これが陣形に大きな差を開かせる結果につながっている。振り飛車が飛車を3回移動させるのに対して、たとえば居飛車はこの3手を自由に使って右銀を4六まで進出させることもできるし、玉を8八にまで移動させることもできる。1手当たりの価値は居飛車の方が高いだろう。攻めにしろ守りにしろ、どちらかは立ち遅れることになる。感覚的に振り飛車は3手パスに等しいインポッシブルモードを自ら発動しているのだ。

このような手数制限があるため、振り飛車は玉を存分に堅くしている暇がない。とりわけ、角交換型の中飛車や向かい飛車は金銀を左右に分散させ、本局のように角の打ち込みを避ける低姿勢の片美濃にするのがやっとだ。左銀の出遅れや、歩を3枚渡すだけで玉側の端に歩を垂らされて面倒なことになる片美濃の脆弱性など、不満点を挙げればキリがない。対して居飛車は、金銀3枚を使った左美濃から銀冠、銀冠穴熊へと発展させていく余裕があり、普通に指しているだけでやや良しの形勢となる。

また、囲いにくっつかず、打ち込みを回避しながら飛車のコビンをサポートする左金は大抵ひもがついておらず、攻め合った時に居飛車の格好の標的となってしまう。取られるにしても、金損と飛車を動かした手数以上の対価を回収しなければ釣り合いが取れない。実際に指してみたら分かるが、そんな芸当ができれば最初から角交換振り飛車は苦労はしない。

居飛車は実質的手得を生かした進展性のある金銀3枚の堅い囲いに対し、片や振り飛車は大して堅くない片美濃に立ち遅れている左翼攻撃陣だ。論理的に考えて、飛車の移動回数が(居飛車の陣形をより堅固にさせて)形勢に差を生じさせていると言わざるを得ない。そうなると、2回以上飛車を移動することが多い中飛車、角交換四間飛車は作戦として良策とは言いづらく、最初に飛車を移動させた地点に固定して決死の覚悟で戦うしかないだろう。

以上をまとめると、現状の振り飛車は飛車に何手も手数をかけているほどの余裕はないというのが自分の結論だ。それ故に、振り飛車を指す上での最善策は、飛車にかける手を極力1手に抑えることだろう。

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