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【読書感想文】石原慎太郎「処刑の部屋」

こんばんは!
天才依頼2度目の登場ですね!小栗義樹です!

本日は読書感想分を書きます。
僕が好きな本・読んだ本を題材に、その感想をまとめていく試みです。
よろしくお願い致します。

本日の題材はコチラ

石原慎太郎「処刑の部屋」

です。

デビュー作でもある「太陽の季節」に収録されている石原慎太郎さんの代表短編作品の1つです。

冒頭のご挨拶にもちょろっと書きましたが、石原慎太郎さんの作品で感想文を書くのは2回目となります。石原慎太郎さんがコンピューター付きブルドーザーと呼ばれた首相「田中角栄」になり切って書いた「天才」という作品です。

この作品が発表されたのは2016年。晩年とは言わないですが、石原慎太郎後期の作品と言えます。しかも、田中角栄になり切り、史実に沿って書いているため、石原慎太郎さんの創造性よりも、田中角栄の凄さと石原慎太郎の作家としての力にフォーカスされている作品です。

なんでも書ける人なのでこうした企画ものに特化した小説、エッセイみたいな本も沢山出版されています。

処刑の部屋や太陽の季節は、天才とは違うと思います。これらの作品は、石原慎太郎さんのメッセージ・主題が詰まった作品です。長いキャリアを持っているため、年齢に応じて主題は変わっていくと思いますが、石原慎太郎さんが持つ「パワー」とか「強さ」は、処刑の部屋や太陽の季節などから見て取ることが出来ると思っています。先週も書きましたが、デビュー作には作家の根底・主題が反映されやすいです。石原慎太郎さんも、太陽の季節に自分が一番伝えたい思いみたいなものを乗せているように思います。

処刑の部屋は、石原慎太郎さんの短編の中で僕が一番好きな作品です。太陽の季節よりも処刑の部屋の方が好きだなと思います。(どっちも良いんですけどね!)

喧嘩に明け暮れた主人公が、敵対勢力に騙されて捕まります。敵対勢力がたむろするバーでボコボコにされていると、主人公が昔騙した女性が、たまたまバーに入ってきます。その女性は主人公に恨み節を言い、女性が連れていた彼氏らしき男は、主人公に怒りをぶつけてボコボコにします。あまりにも凄惨な暴力の中、いよいよ主人公が死ぬかもしれないとなった時、急に女性が主人公の拘束を解きます。主人公はボロボロの身体を引きずって路地裏に逃げます。最後は死にかけの身体を表通りの光に向かって引きずるという話です。

主人公はしきりに言います。俺は俺のしたいように生きる。頭で考えるよりもまずはやってみる。そうでないと自分が自分じゃなくなってしまう。

その行動は、はっきり言ってむちゃくちゃです。仮に時代背景が分かっていたとしても、主人公の行動に褒められるものは1つもありません。物語の序盤、まるでバディのように主人公に称賛されている親友の男が出てきます。この男は主人公の過去の中では主人公と同じ立ち位置のように見えるのですが、お話の中では少し大人になったように見えてきます。僕は最初、主人公が哀れな子ども・成長しきれない不完全な人間に見えて、少しだけ不快感を覚えていました。

主人公がワルであることを自慢している小者のように見えてしまうのです。

しかしこの後、不思議な感覚に襲われます。物語が進んでいくにつれて、どんどん主人公の行動を肯定し始める自分が出てくるのです。そうやって主人公の考えを肯定できる頃には、先ほどまでバディと称していた男は、いつの間にか物語にも、主人公の頭の中にもいなくなっています。

僕はこれを成長だと思い、その姿と心意気に、いつの間にか主人公を称賛していました。

彼が表通りの光に向かって身体を引きずるラストシーンでは、彼の心理描写も相まって、縛られない自由への強いあこがれを感じ、いつの間にか色々なものに勝手に縛られていた自分にすらも嫌悪感を抱きました。

短編というのは短いお話の事です。よく短編にこそ作家の力が現れるという評価軸を耳にすることがあります。だとすれば、短編で処刑の部屋を超える作品はなかなかないと思います。というか、ほとんど不可能なんじゃないでしょうか?

それはこういう事です。お話には原因があって結果があります。これがいわゆる「構造」というやつです。この原因と結果の中に、どれだけドラマを生むことが出来るか?これこそが、短編にこそ作家の力が現れるという言葉の意味だと僕は思うのです。

ドラマとはすなわち、読み手や受け手の感情メーターの振れ幅の事です。僕は処刑の部屋を読んで、嫌いだと思っていた主人公を最後には応援していました。これは振れ幅で言えばすさまじい幅です。

読み終わりはとても不思議な気分でした。僕は最後、主人公と共に表通りの光のまぶしさを見たのです。

それだけのエネルギーを発散している作品は、僕は割と小説を読んでいる方だと思いますが、ほとんど見たことがありません。あ、三島由紀夫くらいです(笑)

1つ確実に言えることは、いつも見えない壁に苦しんでいる人がいるとして、壁を壊そう・自由になろうと本気で思っているのならば、処刑の部屋は読んだほうがいいなと思います。

最後、その光に向かって進んでいくシーンに没入することが出来た時、多分ですが、確実に人生は変わるはずです。

普通に生きているだけでは経験できないことを経験できるのが小説なのであれば、現代では絶対に経験できない圧倒的な暴力と血、人の残酷さ、折れない心みたいなものを体感することが出来ると思います。

めちゃくちゃおすすめです。今すぐ古本屋にGOです!

というわけで、本日はこの辺で失礼いたします。
また明日の記事でお会いしましょう!
さようなら~


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