藤田雅矢

SF系もの書き&植物育種家。ゆるゆるやってます。主にマイクロノベルの置き場です。『糞袋…

藤田雅矢

SF系もの書き&植物育種家。ゆるゆるやってます。主にマイクロノベルの置き場です。『糞袋』『星の綿毛』『クサヨミ』『つきとうばん』『植物標本集(ハーバリウム)』『ひみつの植物』『捨てるな、うまいタネneo』など。BFC5に参戦。連絡は、最下欄の「クリエイターへのお問い合わせ」へ。

記事一覧

「綿の落ち葉」のマイクロノベル 他3篇 #103

 植木鉢の影にあった綿の落ち葉。葉脈の網目はなんと美しいと、拾ったあなたは思うかも知れない。だが食べ残した硬い葉脈の全体世界を見ることは、ダンゴムシには無いだろ…

藤田雅矢
11時間前
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「槐」のマイクロノベル 他3篇 #102

 槐(エンジュ)の数珠のような莢の膨れ方で、次の世界の順番が決められているのだと、お釈迦様の方から聞いた。その莢を乾燥して生薬にしたものは槐角(カイカク)と称し…

藤田雅矢
2週間前
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「スズメウリ」のマイクロノベル 他3篇 #101

 白く熟れる実を雀の卵に見立てて、その名前がついたとされるスズメウリ。そういえば、最近見なくなったなと思ったら、雀の姿も見なくなった。代わりに、ヒトウリというの…

藤田雅矢
3週間前
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「変化朝顔」のマイクロノベル 他3篇 #100

 変化朝顔の流れ星、流星獅子咲牡丹。午前中くらいは花持ちするから、いくらでも願いごとができる。自分の分、お父さんの、お母さんの、友人の分。子どもたちの未来、そし…

藤田雅矢
1か月前
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世界掌景

 このnoteのマイクロノベルも、まもなく#100に届きます。 『植物掌景』に続き、もう一冊、マイクロノベル集を作りました。 

藤田雅矢
1か月前
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「釣船草」のマイクロノベル 他3篇 #99

 宇宙人は、緑の指を持っているよ。昨日の夜、ここに四角いUFOが停まっててね、ぼんやり光ってたんだ。恐くなってすぐ家に帰ったけれど、気になって朝もう一度見に来たらU…

藤田雅矢
1か月前
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「オオオニバス」のマイクロノベル 他3篇 #98

 オオオニバスの葉の上に座るというのは、つまり宇宙の上に座るということだ。わかるか。ダークマターの湖に浮かぶ小宇宙の葉、そこに静かに座る。大人にはできないから、…

藤田雅矢
1か月前
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「百日紅」のマイクロノベル 他3篇 #97

 花見は桜ではなく百日紅で行う地域がある。なにしろその名の通り百日も見頃が続いて、ずっと花見ができる。百日連続で花見をすると、百かける百の一万日無病息災との言い…

藤田雅矢
2か月前
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「テングダケ」のマイクロノベル 他3篇 #96

 既に交渉の椅子とテーブルは用意されている。だがまだ誰も姿を見せない。本当に彼らがやって来て、話をつけるというのだろうか。結局誰も来ないまま椅子とテーブルは萎み…

藤田雅矢
2か月前
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また「ひまわり」のマイクロノベル 他3篇 #95

 温暖化が進み、「夏」などの言葉が封印されて三十年が経つ。だが、言霊による温暖化の封印も、そう長くは保たなかった。「向日葵の季節」と言い換えられ、ヒマワリの栽培…

藤田雅矢
3か月前
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キュウリの輪のマイクロノベル 他3篇 #94

 世界はキュウリでできていると言っていたのは、河童の貫太郎だったろうか。畑から盗ってきたキュウリの輪を覗いて、ほらねと青葉のゆれる水田にカブトエビを見せてくれた…

藤田雅矢
3か月前
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夏至のチコリのマイクロノベル 他3篇 #93

 夏至の日、菜園に設置された銀の鏡。その鏡に反射した陽の光にきっかりと照らされた一輪のチコリの花。その花を摘んで菜園の石門にぴたり嵌まったなら、畑は突然ひび割れ…

藤田雅矢
3か月前
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青空のマイクロノベル 他3篇 #92

 欠勤届の理由欄に、「空が青かったから」と書いて出してきた。だって、そうなんだから。社内には、ほかに「雨の匂いがしたから」派がいて勢力を二分している。最近、「そ…

藤田雅矢
4か月前
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「ホタルブクロ」のマイクロノベル 他3篇 #91

 いいかい、今日はこのホタルブクロの花を持っていって、中に一匹ずつ蛍を捕まえてくるんだよ。一万匹の蛍が集めきったとき、蛍大王がよみがえる。そして蛍の光の歌ととも…

藤田雅矢
4か月前
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「奇想天外」のマイクロノベル 他3篇 #90

 ナミブ砂漠に生える一科一属一種の植物、奇想天外。二枚の葉だけが、一年に十センチ程度生長を続け、千年以上を生きるという。人の一生は、奇想天外にとって数メートルの…

藤田雅矢
4か月前
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「エサキモンキツノカメムシ」のマイクロノベル 他3篇 #89

 黄蘗の木から、エサキモンキツノカメムシが飛び立つ。空へ、宇宙の彼方へと帰って行く。ハートマークのカラータイマーの点滅とともに。足もとでは、得体の知れない小さな…

藤田雅矢
4か月前
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「綿の落ち葉」のマイクロノベル 他3篇 #103

「綿の落ち葉」のマイクロノベル 他3篇 #103

 植木鉢の影にあった綿の落ち葉。葉脈の網目はなんと美しいと、拾ったあなたは思うかも知れない。だが食べ残した硬い葉脈の全体世界を見ることは、ダンゴムシには無いだろう。それより次の落葉が来るのが待ち遠しい。

 

 アンテナの上に降り立ち、テレビ番組を受信する土鳩よ。どうだ、人間の作り出したものは、面白いか。そんなのより、他の鳥たちが群れて空を旋回しているのを眺める方がよほど面白いってか。まあ、確か

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「槐」のマイクロノベル 他3篇 #102

「槐」のマイクロノベル 他3篇 #102

 槐(エンジュ)の数珠のような莢の膨れ方で、次の世界の順番が決められているのだと、お釈迦様の方から聞いた。その莢を乾燥して生薬にしたものは槐角(カイカク)と称し、薬として使われる。使う度に世界の順番が入れ替わり、未来も変わる。

 ヒメムカシヨモギが、窓を拭って世界の先をほんの少しだけ見せてくれる。風は強くワイパーは激しく動く。でも、明日は草刈りでここもきれいになってしまうのだ。少し先も見えなくな

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「スズメウリ」のマイクロノベル 他3篇 #101

「スズメウリ」のマイクロノベル 他3篇 #101

 白く熟れる実を雀の卵に見立てて、その名前がついたとされるスズメウリ。そういえば、最近見なくなったなと思ったら、雀の姿も見なくなった。代わりに、ヒトウリというのが蔓延って、周りの環境に影響を与えている。

 壁に浮かび上がる植物の影、何度消してもまた浮かび上がってくる。そして、そのたびに生長しているようだ。100均で売られていて買われずに枯れていった恨みだろうか。それを言い訳にして、また買ってきて

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「変化朝顔」のマイクロノベル 他3篇 #100

「変化朝顔」のマイクロノベル 他3篇 #100

 変化朝顔の流れ星、流星獅子咲牡丹。午前中くらいは花持ちするから、いくらでも願いごとができる。自分の分、お父さんの、お母さんの、友人の分。子どもたちの未来、そして世界平和。一輪にかけるには重すぎる願い。

 オジギソウの影だけ葉を閉じさせるのと、影はそのままで葉を閉じさせるのと、どちらが難しいと思う? こうすれば、葉も影も閉じるよ、と葉っぱに触れた。ソンナコトガデキルノカ……問うていた気配が、すっ

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世界掌景

世界掌景

 このnoteのマイクロノベルも、まもなく#100に届きます。
『植物掌景』に続き、もう一冊、マイクロノベル集を作りました。 

「釣船草」のマイクロノベル 他3篇 #99

「釣船草」のマイクロノベル 他3篇 #99

 宇宙人は、緑の指を持っているよ。昨日の夜、ここに四角いUFOが停まっててね、ぼんやり光ってたんだ。恐くなってすぐ家に帰ったけれど、気になって朝もう一度見に来たらUFOがあったところだけ草が生えていた。

 スジチャダイゴケの杯に入った碁石を使ったこの一局、それが世界を変えてしまうことになる。だが、石に雨粒が当たれば跳ねて胞子を飛ばし、その一局は流れてしまう。それを願って、朝から雨乞いをしていると

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「オオオニバス」のマイクロノベル 他3篇 #98

「オオオニバス」のマイクロノベル 他3篇 #98

 オオオニバスの葉の上に座るというのは、つまり宇宙の上に座るということだ。わかるか。ダークマターの湖に浮かぶ小宇宙の葉、そこに静かに座る。大人にはできないから、銀河皇帝の座につく前に経験しておくといい。

 有機宇宙、すなわち生命体が発生した宇宙を維持するのは困難を極める。放置しておくと、なぜか滅亡への道を歩んでいく。かといって、介入してしまうのは悪手だ。今度は、うまくいくだろうか。神はふと、神に

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「百日紅」のマイクロノベル 他3篇 #97

「百日紅」のマイクロノベル 他3篇 #97

 花見は桜ではなく百日紅で行う地域がある。なにしろその名の通り百日も見頃が続いて、ずっと花見ができる。百日連続で花見をすると、百かける百の一万日無病息災との言い伝えもある。そんな地域では、猿も木から落ちる。

 カラスウリの花弁が闇に広がり、そこから「夜」を吸い上げるという。その夜をもとに、カラスウリの実は生長する。実の中には、夜が仕込まれているのだ。粕漬けにしたその実を食べると、身体に染み渡る闇

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「テングダケ」のマイクロノベル 他3篇 #96

「テングダケ」のマイクロノベル 他3篇 #96

 既に交渉の椅子とテーブルは用意されている。だがまだ誰も姿を見せない。本当に彼らがやって来て、話をつけるというのだろうか。結局誰も来ないまま椅子とテーブルは萎み、森は、いや地球は放置されることとなった。

 しいたけの花言葉は「疑い」です。エリンギの花言葉は「宇宙」です。まつたけの花言葉は「控えめ」です。マッシュルームの花言葉は「福音」です。そして、タマゴダケの花言葉は……「誰も知らない」、それで

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また「ひまわり」のマイクロノベル 他3篇 #95

また「ひまわり」のマイクロノベル 他3篇 #95

 温暖化が進み、「夏」などの言葉が封印されて三十年が経つ。だが、言霊による温暖化の封印も、そう長くは保たなかった。「向日葵の季節」と言い換えられ、ヒマワリの栽培すら禁止されたが、気温の上昇は止まらない。

 花びらの奥に見える雌しべの輪っかを通り抜けると、来世は向日葵に生まれ変われる。それを信じ、夏の間に死んだたくさんの虫たちの魂が次々と訪れる。あなたが叩いた蚊も、来年は向日葵として咲いているかも

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キュウリの輪のマイクロノベル 他3篇 #94

キュウリの輪のマイクロノベル 他3篇 #94

 世界はキュウリでできていると言っていたのは、河童の貫太郎だったろうか。畑から盗ってきたキュウリの輪を覗いて、ほらねと青葉のゆれる水田にカブトエビを見せてくれたあの風景は、いまは電気畑になってしまった。

 ザクロの花に擬態して、今年もタコウインナー星人が地球侵略にやってくる。そんな馬鹿なと見過ごしているあなたの脳は、既に侵略されているのだ。お弁当に、タコウインナーを入れたくなるのは、そのせいなの

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夏至のチコリのマイクロノベル 他3篇 #93

夏至のチコリのマイクロノベル 他3篇 #93

 夏至の日、菜園に設置された銀の鏡。その鏡に反射した陽の光にきっかりと照らされた一輪のチコリの花。その花を摘んで菜園の石門にぴたり嵌まったなら、畑は突然ひび割れて裏返り、あなたを地下世界へと導くだろう。

 梅雨時、ここらに巨大なエノキタケが生えてくる。それを刈って巨大鍋で煮て味付けし、巨大な瓶に詰めて罠を仕掛けておく。すると、瓶詰めが食べたくて巨人が出てくるので、奴らを狩って食べる。手がかかるが

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青空のマイクロノベル 他3篇 #92

青空のマイクロノベル 他3篇 #92

 欠勤届の理由欄に、「空が青かったから」と書いて出してきた。だって、そうなんだから。社内には、ほかに「雨の匂いがしたから」派がいて勢力を二分している。最近、「そよ風に撫でられたから」派ができたと聞いた。

 干し柿の種を蒔いたら芽が出たので、大きくなって干し柿が成るのが楽しみだという。次は、梅干の種を蒔いてみたいらしい。なんと、梅干しも木に成ると思っているのか。だが、近々梅干しの木が売り出されると

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「ホタルブクロ」のマイクロノベル 他3篇 #91

「ホタルブクロ」のマイクロノベル 他3篇 #91

 いいかい、今日はこのホタルブクロの花を持っていって、中に一匹ずつ蛍を捕まえてくるんだよ。一万匹の蛍が集めきったとき、蛍大王がよみがえる。そして蛍の光の歌とともに、この世界が終わっていくのを眺めるんだ。

 ケシの実を八つ取ってきて、中の種の数が丁度9494個だったら、君はケシケシ団に入団できる。9994個の場合はケケケシ団に、9444個の場合はケシシシ団です。もし、5454個ならゴシゴシ団、掃除

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「奇想天外」のマイクロノベル 他3篇 #90

「奇想天外」のマイクロノベル 他3篇 #90

 ナミブ砂漠に生える一科一属一種の植物、奇想天外。二枚の葉だけが、一年に十センチ程度生長を続け、千年以上を生きるという。人の一生は、奇想天外にとって数メートルの葉の時間。探検家ウェルウィッチが見つけた。

 伊勢撫子は江戸時代に作出され、門外不出の献上品でもあった。長く垂れ下がった花弁は傷みやすく、保護のため室内において鑑賞した。うちの先祖は、その花弁を丁寧にほぐして花を整える職にあったという。誇

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「エサキモンキツノカメムシ」のマイクロノベル 他3篇 #89

「エサキモンキツノカメムシ」のマイクロノベル 他3篇 #89

 黄蘗の木から、エサキモンキツノカメムシが飛び立つ。空へ、宇宙の彼方へと帰って行く。ハートマークのカラータイマーの点滅とともに。足もとでは、得体の知れない小さな生き物が溶けていく。今回も地球は守られた。

 優曇華の花は三千年に一度咲く吉兆の花だ。だがこの花なら年に三回ほど見かける。ということは、一年で九千年分の時が過ぎ、三度もいいことがあったはずだ。思うに、昨日の麦酒が旨かったのがいいことかも知

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