藤田雅矢

SF系もの書き&植物育種家。ゆるゆるやってます。主にマイクロノベルの置き場です。『糞袋…

藤田雅矢

SF系もの書き&植物育種家。ゆるゆるやってます。主にマイクロノベルの置き場です。『糞袋』『星の綿毛』『クサヨミ』『つきとうばん』『植物標本集(ハーバリウム)』『ひみつの植物』『捨てるな、うまいタネneo』など。BFC5に参戦。連絡は、最下欄の「クリエイターへのお問い合わせ」へ。

最近の記事

「変化朝顔」のマイクロノベル 他3篇 #100

 変化朝顔の流れ星、流星獅子咲牡丹。午前中くらいは花持ちするから、いくらでも願いごとができる。自分の分、お父さんの、お母さんの、友人の分。子どもたちの未来、そして世界平和。一輪にかけるには重すぎる願い。  オジギソウの影だけ葉を閉じさせるのと、影はそのままで葉を閉じさせるのと、どちらが難しいと思う? こうすれば、葉も影も閉じるよ、と葉っぱに触れた。ソンナコトガデキルノカ……問うていた気配が、すっと消えた。  なんと、これが噂に聞くインドの山奥に生えるという羊の生まれる木か

    • 世界掌景

       このnoteのマイクロノベルも、まもなく#100に届きます。 『植物掌景』に続き、もう一冊、マイクロノベル集を作りました。 

      • 「釣船草」のマイクロノベル 他3篇 #99

         宇宙人は、緑の指を持っているよ。昨日の夜、ここに四角いUFOが停まっててね、ぼんやり光ってたんだ。恐くなってすぐ家に帰ったけれど、気になって朝もう一度見に来たらUFOがあったところだけ草が生えていた。  スジチャダイゴケの杯に入った碁石を使ったこの一局、それが世界を変えてしまうことになる。だが、石に雨粒が当たれば跳ねて胞子を飛ばし、その一局は流れてしまう。それを願って、朝から雨乞いをしているところだ。  クズ、クズって近頃はやっかいな雑草扱いするけどな、くず切りも食べら

        • 「オオオニバス」のマイクロノベル 他3篇 #98

           オオオニバスの葉の上に座るというのは、つまり宇宙の上に座るということだ。わかるか。ダークマターの湖に浮かぶ小宇宙の葉、そこに静かに座る。大人にはできないから、銀河皇帝の座につく前に経験しておくといい。  有機宇宙、すなわち生命体が発生した宇宙を維持するのは困難を極める。放置しておくと、なぜか滅亡への道を歩んでいく。かといって、介入してしまうのは悪手だ。今度は、うまくいくだろうか。神はふと、神に祈った。  ペチュニア・ナイトスカイの花から、見たこともない虫が次々と湧き出し

        「変化朝顔」のマイクロノベル 他3篇 #100

          「百日紅」のマイクロノベル 他3篇 #97

           花見は桜ではなく百日紅で行う地域がある。なにしろその名の通り百日も見頃が続いて、ずっと花見ができる。百日連続で花見をすると、百かける百の一万日無病息災との言い伝えもある。そんな地域では、猿も木から落ちる。  カラスウリの花弁が闇に広がり、そこから「夜」を吸い上げるという。その夜をもとに、カラスウリの実は生長する。実の中には、夜が仕込まれているのだ。粕漬けにしたその実を食べると、身体に染み渡る闇が心地いい。  どうしてこの草を育てているのと聞いた憶えがある。若い頃にはその

          「百日紅」のマイクロノベル 他3篇 #97

          「テングダケ」のマイクロノベル 他3篇 #96

           既に交渉の椅子とテーブルは用意されている。だがまだ誰も姿を見せない。本当に彼らがやって来て、話をつけるというのだろうか。結局誰も来ないまま椅子とテーブルは萎み、森は、いや地球は放置されることとなった。  しいたけの花言葉は「疑い」です。エリンギの花言葉は「宇宙」です。まつたけの花言葉は「控えめ」です。マッシュルームの花言葉は「福音」です。そして、タマゴダケの花言葉は……「誰も知らない」、それでいいか。  エアコンの室外機の脇にコンニャクが生えてきたら大大吉、なんて正月に

          「テングダケ」のマイクロノベル 他3篇 #96

          また「ひまわり」のマイクロノベル 他3篇 #95

           温暖化が進み、「夏」などの言葉が封印されて三十年が経つ。だが、言霊による温暖化の封印も、そう長くは保たなかった。「向日葵の季節」と言い換えられ、ヒマワリの栽培すら禁止されたが、気温の上昇は止まらない。  花びらの奥に見える雌しべの輪っかを通り抜けると、来世は向日葵に生まれ変われる。それを信じ、夏の間に死んだたくさんの虫たちの魂が次々と訪れる。あなたが叩いた蚊も、来年は向日葵として咲いているかも知れぬ。  ヒマワリの真ん中にある黒いとこ、ここ絶対押したらあかんで。あ! あ

          また「ひまわり」のマイクロノベル 他3篇 #95

          キュウリの輪のマイクロノベル 他3篇 #94

           世界はキュウリでできていると言っていたのは、河童の貫太郎だったろうか。畑から盗ってきたキュウリの輪を覗いて、ほらねと青葉のゆれる水田にカブトエビを見せてくれたあの風景は、いまは電気畑になってしまった。  ザクロの花に擬態して、今年もタコウインナー星人が地球侵略にやってくる。そんな馬鹿なと見過ごしているあなたの脳は、既に侵略されているのだ。お弁当に、タコウインナーを入れたくなるのは、そのせいなのだから。  ヘビウリの花の雫を嘗めれば千日分若返るというAIの回答が頻発してい

          キュウリの輪のマイクロノベル 他3篇 #94

          夏至のチコリのマイクロノベル 他3篇 #93

           夏至の日、菜園に設置された銀の鏡。その鏡に反射した陽の光にきっかりと照らされた一輪のチコリの花。その花を摘んで菜園の石門にぴたり嵌まったなら、畑は突然ひび割れて裏返り、あなたを地下世界へと導くだろう。  梅雨時、ここらに巨大なエノキタケが生えてくる。それを刈って巨大鍋で煮て味付けし、巨大な瓶に詰めて罠を仕掛けておく。すると、瓶詰めが食べたくて巨人が出てくるので、奴らを狩って食べる。手がかかるが美味い。  梅雨入りしただろう、もう今年のドングリの数は決まってるんだよ。ほら

          夏至のチコリのマイクロノベル 他3篇 #93

          青空のマイクロノベル 他3篇 #92

           欠勤届の理由欄に、「空が青かったから」と書いて出してきた。だって、そうなんだから。社内には、ほかに「雨の匂いがしたから」派がいて勢力を二分している。最近、「そよ風に撫でられたから」派ができたと聞いた。  干し柿の種を蒔いたら芽が出たので、大きくなって干し柿が成るのが楽しみだという。次は、梅干の種を蒔いてみたいらしい。なんと、梅干しも木に成ると思っているのか。だが、近々梅干しの木が売り出されると聞いた。  夏の日射し、電柱が香り立つのが見えるか。そのフェロモンに誘われて、

          青空のマイクロノベル 他3篇 #92

          「ホタルブクロ」のマイクロノベル 他3篇 #91

           いいかい、今日はこのホタルブクロの花を持っていって、中に一匹ずつ蛍を捕まえてくるんだよ。一万匹の蛍が集めきったとき、蛍大王がよみがえる。そして蛍の光の歌とともに、この世界が終わっていくのを眺めるんだ。  ケシの実を八つ取ってきて、中の種の数が丁度9494個だったら、君はケシケシ団に入団できる。9994個の場合はケケケシ団に、9444個の場合はケシシシ団です。もし、5454個ならゴシゴシ団、掃除係です。  そっと近づいて手をかざす。念じながら、ゆっくりと手首をひねる。する

          「ホタルブクロ」のマイクロノベル 他3篇 #91

          「奇想天外」のマイクロノベル 他3篇 #90

           ナミブ砂漠に生える一科一属一種の植物、奇想天外。二枚の葉だけが、一年に十センチ程度生長を続け、千年以上を生きるという。人の一生は、奇想天外にとって数メートルの葉の時間。探検家ウェルウィッチが見つけた。  伊勢撫子は江戸時代に作出され、門外不出の献上品でもあった。長く垂れ下がった花弁は傷みやすく、保護のため室内において鑑賞した。うちの先祖は、その花弁を丁寧にほぐして花を整える職にあったという。誇らしい。  蒲公英綿毛数役(たんぽぽわたげかぞえやく)を拝命して五十年。こうし

          「奇想天外」のマイクロノベル 他3篇 #90

          「エサキモンキツノカメムシ」のマイクロノベル 他3篇 #89

           黄蘗の木から、エサキモンキツノカメムシが飛び立つ。空へ、宇宙の彼方へと帰って行く。ハートマークのカラータイマーの点滅とともに。足もとでは、得体の知れない小さな生き物が溶けていく。今回も地球は守られた。  優曇華の花は三千年に一度咲く吉兆の花だ。だがこの花なら年に三回ほど見かける。ということは、一年で九千年分の時が過ぎ、三度もいいことがあったはずだ。思うに、昨日の麦酒が旨かったのがいいことかも知れない。  ソラノカギカズラは手入れが悪いと蔓の鉤爪を雲にかけて、天空の巨人の

          「エサキモンキツノカメムシ」のマイクロノベル 他3篇 #89

          緑の莢のマイクロノベル 他3篇 #88

           近頃、その緑の莢みたいなの頭に生やしてる人多いよね。そこから宇宙の声が受信できるって、大丈夫か。なに、耳から根っこ生やしてる人には、言われたくないってか。いや、この根から聞こえる大地の声はたまらんよ。  あっ、逃げちゃう。庭で遊んでいた息子が、急に空を指さして声を上げた。あの雲の上を、大きななにかが走って逃げたという。半透明な奴が青空に蠢いていたのを、息子くらいだった頃、自分にも見えたのを思い出した。  あの切り株だけは絶対押したらいかんというのに押してしもた人がおった

          緑の莢のマイクロノベル 他3篇 #88

          IMAGINARC 想像力の音楽

          森下唯さんプロデュース、2台のピアノと小説が織りなす幻想的アンソロジー!『IMAGINARC 想像力の音楽』、すごい曲目、メンバーの演奏会です。プログラム冊子に「異形たちの輪舞曲」テーマの掌編「空の瞳」で参加しています。チケット好評発売中!!ぜひに! https://www.imaginarc.jp/

          IMAGINARC 想像力の音楽

          「ヒナゲシ」のマイクロノベル 他3篇 #87

           茎長120mはあるゴライアスヒナゲシが朝焼けに蕾をもたげる。大きな一日花が散るとき、その花弁の重さに押しつぶされる家もある。熟れた実からこぼれ落ちる一抱えもあるケシ粒を拾って帰ると、今日の夕飯になる。  六十年前、こうしておまえを囚えておけば、この国のどこまでもオレンジ色の花を咲かせることは無かったかも知れない。そして、あの重大な事件も起こらなかったかも知れぬ。ああナガミヒナゲシよ、時を戻しておくれ。  ネズミムギの花咲く頃、ベジタリアンな猫たちがいそいそと集まってくる

          「ヒナゲシ」のマイクロノベル 他3篇 #87