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どうして「全米が泣いた」映画は観る気が失せるのか?
編集部員の北山と四ツ谷は、新たな記事を書くため、廃村を探して奥多摩の山を彷徨っていたーー。
北山:廃村を探して登山口に入ってから、もう30分くらい歩いてるよね。
まだ目印の祠には着かないの?
四ツ谷:うーん。まだじゃない? 一本道だったから、迷ってはないと思うけど。
北山:疲れてきたな……。
突然だけど、ORANGE RANGEって好き?
四ツ谷:「上海ハニー」とかのね。好きだよ。
というか、我々みたいなミレニアル世代は、幼少期に必ずハマってるはず。
北山:俺も好き。ふと思ったんだけどさ、対してGReeeeNってなんか好きじゃないよね。グループとしては近しいはずなのに。この感覚ってなんなんだろう。割と共感する人が多いんだよ。
四ツ谷:ああ、なんか分かるなぁ。現役で聴いてた小学生くらいの時は気にしてなかったけど、大人になっても聴けるのは、明らかにORANGE RANGEだね。
北山:黙って登ってもしんどいから、この差はなんなのかを考察しよう。
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四ツ谷:ひとつは、ORANGE RANGEには、圧倒的な陽キャ感があるってことじゃない? すべての人間がひれ伏すくらいの。
北山:そうなんだよ!
美学の観念でいうと「サブライム」っていうのかな。巨大な存在に対する畏怖の念が美的な感覚を刺激するみたいな。大学の時の講義の知識を引っ張り出しただけだから、合ってるかしらんけどな!
方やGReeeeNは「頑張って陽キャやってます」感がある。崇高さがない。
四ツ谷:ORANGE RANGEの方が断然余裕があるよね。歌詞とかMV観てもそう。「熱く奥で果てたいよ」なんて余裕がないと言えない。MVもビキニのお姉さんが踊ってるくらいでしょ。
計算なんて必要としないかっこよさがある。だって「なんかイイ感じ」だぜ!? ちょっと勝てないな。
北山:その話をすると、やっぱりGReeeeNは分が悪いね。
「キセキ」のMVでも、老夫婦のお涙ちょうだいみたいなシーンがあって、冷めた記憶がある。
四ツ谷:学校に忍び込んで屋上で流星群観るんだよね。んで、先生に見つかって逃げる時、男の子と女の子が手を繋ぐ。
北山:よく覚えてるな!
四ツ谷:にしても、古典みたいな筋だなぁ。
北山:我々は捻くれてるからね。「打算的」なものを見せられると冷めるんだろうね。映画も「全米が泣いた」みたいなこと言われると、急に観たくなくなる。「顰蹙必至!」の方が観たい。それも単純な話ではあるけど。
四ツ谷:カルチャーに関わろうとする人間は、奥底に「他人と違うと思われたい」って願望があるからね。「全米が泣いてるの? 俺は泣かないけど?」って逆張りしたい気持ちがある。
その発想自体がみんなと同じっていうジレンマからはずっと逃げられない。
北山:ともかく、「センスよく見せかけた打算」が一番苦手。それなら「無策の天才」の方がかっこよく思えてしまう。だから、ORANGE RANGEは、逆張りしたがりのインテリワナビーの評価は高いんだと思う。
四ツ谷:お笑いだと、バカリズムとかが苦手かな。「ほらシュールでしょ?」みたいな打算が見える。なら、ハリウッドザコシショウの方が面白い。まあ、ハリウッドザコシショウの一周まわった巧みな打算を我々が見きれていないのかもという問題はあるけど。
北山:日清のCMとか見てても同じこと思うよ。「これ絶対うまいやつ♪」みたいにネットのノリを持ち込んだり、「いいぞ、もっとやれ」みたいに流行りのフレーズに飛びついたり、練られてはいるんだろうけど、代理店の打算をモロに感じてしまうから冷める。日清の施策ってすごいよ。「謎肉」とか、一回気になりだすと止まらない(笑) これマジだから。
あと、変に凝った長い名前の飲食店とかは入りたくならないよね。インスタ(ショート動画)めっちゃ頑張ってる店とか、高い食パン屋とか。
四ツ谷:分かる。音楽の話に戻るけど、余裕のあるバンドは、やっぱりカッコいい。くるりとか、フジファブリックとかナンバガは好例だよね。くるりの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」の歌詞とか「DO BE DO BE DA DA DO」だぜ。余裕しかない。フジファブリックも、よく聴けば歌詞は意味不明だし。
北山:とにかくメロディがいいから、計算する必要がないのよね。センスが打算を上回ってる。だから余裕を感じる。
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四ツ谷:我々もセンスがいいと思われたくて、打算で動いてる方だからね。
北山:それはそうだね。余裕がないから、同じく余裕のない人間が痛々しく思える。
四ツ谷:賢ぶってるからこそ、賢ぶってる人が嫌い。
北山:そう。仕事してても、たとえばストレートで東大に受かった人たちとは余裕が違うなって実感する。
家の本棚とかも「いかに知的に思われるか」に全振りしてるしね。読んでないウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』が一番良い場所に置いてある。
四ツ谷:でも、そこを超越してる人ってほんのひと握りだと思うよ。
千葉雅也の『現代思想入門』にも、「『カッコつけ』から出発した」って書いてあったし。で、それを言えちゃう千葉雅也は、余裕があるしカッコいいってわけ。
北山:ともかく俺はいま余裕がないから、いったん休憩しよう。
四ツ谷:うん。水分摂ろう。
【「ルポ〇〇の世界」の編集部員たち】
北山:1994年生まれ。ライター。「文春オンライン」などに寄稿。山菜採りが好き。タラの芽に目がない。署名は(円)。
四ツ谷:1996年生まれ。学術書編集者。出版社3社を経験。山と渓谷社の入社試験時、一瞬で「登山にわか」を見透かされ落ちた。署名は(四)。
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