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毎日読書メモ

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#文春文庫

角田光代『銀の夜』を読んで、『対岸の彼女』を思い出した(毎日読書メモ(515))

角田光代『銀の夜』を読んで、『対岸の彼女』を思い出した(毎日読書メモ(515))

読んでから少し時間がたってしまったのだが、角田光代『銀の夜』(光文社、そして感想を書けないでいる間に光文社文庫になった!)を読んだ。光文社、というところでピンと来る人もいるかもしれないが、女性誌「VERY」に連載されていた小説だったそうだ。連載していたのが2005年から2007年、そして単行本が刊行されたのが2020年、文庫になったのが2023年。
単行本には珍しく、作者のあとがきが付いている。2

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滝口悠生『死んでいない者』(毎日読書メモ(494))

滝口悠生『死んでいない者』(毎日読書メモ(494))

滝口悠生が『死んでいない者』(文藝春秋、のち文春文庫)で芥川賞をとったのが2016年下期、本谷有希子『異類婚姻譚』と同時で、ちなみに1期前が又吉直樹『火花』と羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』だった。
最近あんまりきちんと芥川賞受賞作をフォローしていなくて、この頃の受賞作、あまり読んでなかった。評判の良かった『長い一日』(講談社)を読んだのをきっかけに、近作『水平線』(新潮社)も読み、満を持し

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千早茜『ガーデン』(毎日読書メモ(478))

千早茜『ガーデン』(毎日読書メモ(478))

千早茜『ガーデン』(文藝春秋、のち文春文庫)を読んだ。千早茜と言う小説家の世界を色々体験してみたくて、色々拾っては読んでみようと。これは2017年に刊行された小説で、「別冊文藝春秋」に連載されていたもの。

主人公の羽野くんは、出版社で雑誌編集の仕事をしている若者。スペック高目で、仕事関係で出合う色んな女子にコナをかけられるが、心が動くことがない。他者と深い関係をもちたいと思っていない。
(でも、

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千早茜『男ともだち』(毎日読書メモ(468))

千早茜『男ともだち』(毎日読書メモ(468))

直木賞受賞おめでとうございます! 『しろがねの葉』(新潮社)で第168回直木賞を受賞した千早茜の『男ともだち』(文藝春秋、現在は文春文庫)を読んだ。『男ともだち』は第150回直木賞の候補作だった。それから9年もたって、2回目の候補で直木賞を受賞したのだなぁ。

千早茜の作品を読むのは2作目。前に『あとかた』(感想ここ)を読んだ時にも感じたのだが、別に登場人物が自分に近い、という感じはないのに、波長

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村上春樹『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』(毎日読書メモ(426))

村上春樹『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』(毎日読書メモ(426))

『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011』(文藝春秋、のち文春文庫)。

世界の色々なメディアで発表された村上春樹インタビューの集大成。企画を立てた編集のオガミドリさん(として昔よくエッセイに出てきた)の病気の話を後書きで読んで切ない。広告批評の島森さんも亡くなってしまったし。長いタイトルだが、この通りのことを何回もインタビューの中で述べていて興味深い。タイ

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山崎ナオコーラ『美しい距離』(毎日読書メモ(352))

山崎ナオコーラ『美しい距離』(毎日読書メモ(352))

山崎ナオコーラ、続く。2016年に、5回目の芥川賞候補となった、『美しい距離』(文藝春秋、現在は文春文庫)。芥川賞は逃したが、島清恋愛文学賞を受賞している。先日『母ではなくて、親になる』を読んだ時(感想ここ)に、この『美しい距離』が芥川賞候補になって落選して島清恋愛文学賞をとったあたりの経緯が書かれていて、気になったので読んでみた。

生命保険会社に勤める夫と、サンドイッチ屋さんを経営している妻。

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誉田哲也『武士道シックスティーン』『武士道セブンティーン』(毎日読書メモ(345))

誉田哲也『武士道シックスティーン』『武士道セブンティーン』(毎日読書メモ(345))

誉田哲也『武士道シックスティーン』『武士道セブンティーン』(文春文庫)の読書メモ。この後更に『武士道エイティーン』、『武士道ジェネレーション』(文春文庫)と続くが未読。いい小説だったけど、スポーツ少年少女の物語には飽和量があるようです>自分自身。いつか読むかもしれない(人の評を読むと、後になるほどよくなるっぽいので)。

『武士道シックスティーン』:磯山のオレサマぶり、早苗の天然ぶり、どちらにも深

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阿川佐和子『バイバイバブリー』(毎日読書メモ(341))

阿川佐和子『バイバイバブリー』(毎日読書メモ(341))

久しぶりに父の本棚シリーズ。実家に来て、棚に挿してあった阿川佐和子『バイバイバブリー』(文春文庫)を読んだ。2013年から2016年にかけて雑誌「GOLD」に連載され、2017年に『バブルノタシナミ』というタイトルで単行本になり、2021年4月に改題されて文庫本になった本。
父には、本を読みながらマジックペンで線を引く、という悪癖があった。阿川佐和子の肩の凝らないエッセイを読むのに、何故いちいち、

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山崎豊子『運命の人』(毎日読書メモ(338))

山崎豊子『運命の人』(毎日読書メモ(338))

山崎豊子『運命の人』(一~四、文春文庫)、文庫になった時に一気に読んだ。なんというか、代表作にはならないな、という感じの作品だった。

【一】弓成亮太は、いやな人ですね。身近にいたら疲れそうですね。マスコミの正義を盲信しているのもちょっとこわい。結果として、機密漏洩が表沙汰に。表沙汰にならなければ漏洩してもいいのか? しない方がまずいのか? 隠蔽されては困るが、漏洩を漏洩とわからないように公開する

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乾くるみ『イニシエーション・ラブ』『リピート』(毎日読書メモ(299))

乾くるみ『イニシエーション・ラブ』『リピート』(毎日読書メモ(299))

乾くるみ『イニシエーション・ラブ』(文春文庫)。書店の店頭等で話題の本として取り扱われ、新刊でもないのに、なんだろう、と思って読んだ。
もうこれは、何も紹介できない。読んだ人すべてが、最後の一行で唖然として、慌ててページを返して、自分がそこまで何を読んできたのか、反芻してしまう、ある意味トンデモ本。読んだ人すべてが、そうそう、と、肯定的であれ否定的であれ、そのエンディングを忘れない一冊。読んでない

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木内昇『茗荷谷の猫』『漂砂のうたう』(毎日読書メモ(283))

木内昇『茗荷谷の猫』『漂砂のうたう』(毎日読書メモ(283))

2011年に『漂砂のうたう』(集英社、のち集英社文庫)で直木賞を受賞した木内昇、読んでいて割と引っかかるので、気になりつつなかなか読めない。
過去の読書記録から、『茗荷谷の猫』(平凡社、のち文春文庫)と、『漂砂のうたう』の感想。

『茗荷谷の猫』:時代小説集?、と思ったら、1編ずつ時代が現在に近づいてきました。そして、別々の主人公の別々の物語だったのに、他の作品と確実につながっている。昔の東京の範

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佐藤多佳子『第二音楽室』『聖夜 ― School and Music』(毎日読書メモ(271))

佐藤多佳子『第二音楽室』『聖夜 ― School and Music』(毎日読書メモ(271))

佐藤多佳子『第二音楽室』、『聖夜 ― School and Music』(いずれも文藝春秋→文春文庫)の読書メモ。

第二音楽室:色んな年の自分が、音楽室で見たかもしれない光景。リコーダーカルテットの話はすてき、羨ましい感じ。バンドの葛藤の話は、自分の立ち位置を意識しすぎる今の若い子の姿を彷彿とさせて胸が痛い。ひとりひとりの心の姿が、くっきりと描かれていて、いい本でした。

聖夜:『第二音楽室』か

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毎日読書メモ(250)『モダン』(原田マハ)

毎日読書メモ(250)『モダン』(原田マハ)

実家に帰って、父の本棚にあった原田マハ『モダン』(文春文庫)を読んだ。ニューヨークのMoMA(近代美術館)を舞台にした、5つの短編からなる作品集。主役はMoMAそのものである同時に、MoMAで働く人々。原田マハの他の作品と同様、史実と違うフィクションを物語の中心に据えてはいるが、狂言回しとなる美術作品はすべて実在のものなので、検索しなくてもわかるアンドリュー・ワイエス『クリスチーナの世界』、ピカソ

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毎日読書メモ(224)『舟を編む』(三浦しをん)

毎日読書メモ(224)『舟を編む』(三浦しをん)

三浦しをんの職業小説が好きだ。職業、と呼ぶにはちょっと微妙な『仏果を得ず』とか『神去なあなあ日常』とか、会社員小説の極みのような『星間商事株式会社社史編纂室』とか、『愛なき世界』も職業を極めている物語だ。
その中でも、本屋大賞をとった『舟を編む』(光文社、のち光文社文庫)は特に、プロフェッショナルの何たるかを教えてくれる。最後は勿論大泣き。

本屋大賞受賞直前に図書館に予約を入れ、それからでも随分

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