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毎日読書メモ

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中島京子『うらはぐさ風土記』(毎日読書メモ(539))

中島京子『うらはぐさ風土記』(毎日読書メモ(539))

中島京子の新刊、『うらはぐさ風土記』(集英社)を読む。2022年11月から2023年7月に「小説すばる」に連載されていて、2024年3月に単行本刊行。
うらはぐさは架空の地名だが、著者の母校である東京女子大学がある西荻窪近辺をイメージして書かれているそうだ。

うらはぐさ、は風致草とも呼ばれる、イネ科の植物。
古くからある地名だが、この植物の花言葉は「未来」。

そして、タイトルの「風土記」は井伏

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安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(毎日読書メモ(527))

安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(毎日読書メモ(527))

安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』(集英社)を読んだ。昨年(2023年)の本屋大賞第2位(1位は凪良ゆう『汝、星の如し』)。チェロが重要な役割を果たすと聞いていて気になって、買ったまま1年間積ん読してしまったが、ようやく読めた。

子どもの頃、習っていたチェロを、ある事件をきっかけに失い、なんとなく屈折した育ち方をした主人公橘樹。全日本音楽著作権連盟という会社に就職した樹は、社内の派閥抗争のとばっ

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恩田陸『夜果つるところ』『鈍色幻視行』(毎日読書メモ(524))

恩田陸『夜果つるところ』『鈍色幻視行』(毎日読書メモ(524))

恩田陸『夜果つるところ』『鈍色幻視行』(集英社)を続けて読む。というか、この2作は、関連を持って書かれているので続けて読まなくてはならない。たまたま『夜果つるところ』を先に読んだが、正解だった。『鈍色幻視行』の中でネタバレされちゃうので。ただし、『鈍色幻視行』を先に読んじゃっていても、テキストが膨大すぎるので、ネタバレの部分を読みながらスルーしちゃっていて、気づかない可能性もあるか、そんなボーっと

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古矢永塔子『七度笑えば、恋の味』(毎日読書メモ(519))

古矢永塔子『七度笑えば、恋の味』(毎日読書メモ(519))

古矢永塔子の『七度笑えば、恋の味』(小学館)を読んだ。小学館の「日本おいしい小説大賞」第1回受賞作。
古矢永塔子、という小説の名前を知ったのは、朝日新聞の書評欄で、近作『ずっとそこにいるつもり?』(集英社)を、藤田香織さんが絶賛しているのを読んで。とりあえず、過去の作品を読んでみようと、予備知識なしに読む。
自分の人生に納得のいっていない女性主人公の自分探し、というのは、多くの、主に女性作家の手掛

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宝物をそっと飾るように:宮本輝『よき時を思う』(毎日読書メモ(505))

宝物をそっと飾るように:宮本輝『よき時を思う』(毎日読書メモ(505))

宮本輝の小説は、キーワードのオンパレードだ。
大体2年に1回くらいのペースで刊行される長編小説、それらを読み続けてきて、つまりは、物語の魔法の壺の中に、幾つかのキーワードを入れると、宮本輝的物語のテンプレートにはまるように、物語が紡ぎ出されるのだな、というように見えてきた。
幾つかの地名とか、骨董品とか、ゴッホの絵とか、自転車とか、糠床とか、腰痛とか、痔とか、中華そばとか、桜とか。
三題噺のように

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米澤穂信『栞と嘘の季節』(毎日読書メモ(473))

米澤穂信『栞と嘘の季節』(毎日読書メモ(473))

米澤穂信『栞と嘘の季節』(集英社)を読んだ。これって「図書委員」シリーズって言うんだ...なんか身も蓋もないな。「古典部」と「小市民」と「図書委員」ってか?
読む前に、『本と鍵の季節』を再読し(感想ここ)、堀川次郎と松倉詩門の立ち位置を確認。次郎も詩門も、積極的に自らを語ろうとしないが、『本と鍵の季節』は詩門の自分探し的な要素が後半の肝となったため、読者は詩門についてはなんとなく知ってしまっている

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桐野夏生『燕は戻ってこない』(毎日読書メモ(460))

桐野夏生『燕は戻ってこない』(毎日読書メモ(460))

桐野夏生『燕は戻ってこない』(集英社)を読んだ。テーマは代理母(サロゲート・マザー)。
日本国内では代理出産は認められていない。法的な規制はないが、社団法人 日本産科婦人科学会の会告(平成15年)に、「生殖補助医療への関与、また代理出産への斡旋を行ってはならない」という文言があり、代理出産を行うことは出来ない。妻の子宮を摘出してしまっていたり、不育症だったり、夫婦間の子どもを妻が出産できない場合、

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松家仁之『泡』(毎日読書メモ(424))

松家仁之『泡』(毎日読書メモ(424))

松家仁之『泡』(集英社)を読んだ。デビュー作『火山のふもとで』(新潮社)があまりに好きすぎて(わたしにとって、2010年代ベスト小説、と言い切ってもいいくらい)、その後の小説は、その余韻で読んでいる気持ちがどうしてもぬぐえない。どの小説も、何かをあきらめているような、静かな人たちの物語、と読んでしまう。どの登場人物も、嫌いにはならないけれど、自分の友達になるかな、というとちょっと違う、そんな感じの

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有吉佐和子『真砂屋お峰』(毎日読書メモ(334))

有吉佐和子『真砂屋お峰』(毎日読書メモ(334))

先日、小佐野彈『車軸』(集英社)を読んだ時(感想ここ)、自分で稼いだわけではないお金をホストクラブにばんばん使ってしまう登場人物の姿を見て、有吉佐和子『真砂屋お峰』(中公文庫)を思い起こしたのだが、いかんせん、『真砂屋お峰』を読んで45年近くたっているので(当時住んでいた家の棚に挿してあった『真砂屋お峰』の単行本の姿がイメージで甦る)、あまりに見当はずれなイメージなら是正した方がいいな、と思って、

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堀江敏幸『なずな』『めぐらし屋』(毎日読書メモ(324))

堀江敏幸『なずな』『めぐらし屋』(毎日読書メモ(324))

遅れてきた堀江敏幸ファン。どの本を読んでもびんびんに心に響く。続けて読んだ、2冊の堀江敏幸本をまとめて紹介。

『なずな』の中でレシピが出てきた大根サラダ、我が家の定番メニューに。
(1)千切りした大根を塩もみして絞る
(2)ワインビネガーをかける
(3)白ゴマを振って、その上からゴマ油をかけて、軽く混ぜる
これだけなんだけど、すごく美味しい。ありがとう堀江敏幸、って感じ。

『なずな』(集英社、

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伊坂幸太郎『逆ソクラテス』(毎日読書メモ(317))

伊坂幸太郎『逆ソクラテス』(毎日読書メモ(317))

刊行から2年もたってしまったが、ようやく伊坂幸太郎『逆ソクラテス』(集英社)を読んだ。小学生を主人公とした5つの短編からなる作品集。それぞれ別の子どもが主役の独立した物語だが、教師磯憲が2つの物語で大切な役目を果たし、そして、最後の物語(磯憲は出てこない)の一番最後の部分で、逆転ホームラン的に大きな救いが提示される。

どの物語も素敵だ。魂の自由。人による価値観の押しつけへの抵抗のため、小学生たち

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小佐野彈『車軸』(毎日読書メモ(308))

小佐野彈『車軸』(毎日読書メモ(308))

小佐野彈『車軸』(集英社)を読んだ。
とても遠い場所にいる人の話を読んでいる、という印象。
小説の登場人物にそんなに共感したり肩入れしたりすることはなく、自分との違いを認識しながら読むことが多いのだが、この小説に出てくる人たちはわたしの狭い体験では理解不可能に近い。友達になれないとかそういうフェーズで語れない遠さ。
こういう世界もあるのかな、というぼんやりしたイメージ。
自分の置かれた環境に対する

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毎日読書メモ(256)『自分で名付ける』(松田青子)

毎日読書メモ(256)『自分で名付ける』(松田青子)

半年くらい、部屋の隅で積読状態になっていた、松田青子『自分で名付ける』(集英社)をようやく読んだ。「小説すばる」に2020年5月から約1年間連載されていた、出産、育児を主なテーマとしたエッセイ。
子どもを産み、育てるということは、きわめて個人的で、一人ずつ、置かれた環境や思うことが本当にばらばらで、それぞれにこだわりがあり、語りだすと止まらないようなことだ。わたしが出産、育児をしていたのはもう25

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毎日読書メモ(195)『桐島、部活やめるってよ』(朝井リョウ)

毎日読書メモ(195)『桐島、部活やめるってよ』(朝井リョウ)

朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』(集英社文庫)の感想。2012年6月の読書記録より。この本読んだあとで、スクールカーストという言葉を知った。本当のカーストと違って、スクールカーストは自分たちで作っているんだな、と思った。作るところにも、押し付けられるところにもいないようにしたいな。

面白く読む。なんでみんな、こんなにクラスの中での自分の立ち位置を意識して生きて行かなくてはいけないんだよ、と思

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