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そこにある詩

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記事一覧

桜の季節

桜の季節

花見とは名ばかりに、集まる理由を探している
桜並木の川沿いではお見合いのように並んで愉快が座っている

お酒は飲める理由が正当なほど美味くなるもんだ

一般や大衆への大きな括りに憧れをそれなりに持ちながらも、反対側の緑道に腰掛けて、読む気の進まない本を開いていた

人の目はいくら気にしたって気になるもの
人なんていない方が落ち着いていられる
二人組は三脚とカメラを背負いながら川沿いでフィクションを

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つぶやける声

つぶやける声

見えない花火の音

法定速度を突破した公共バス

充電の切れたiPhone12

涙の出ない感動超大作

無音で威圧的に佇むアンプ

3甘の手仕込ヒレカツカレー

使い忘れた青春18きっぷ

快晴の傘立て

すっからかんの月極駐車場

並ばないタピオカ屋

履きつぶしたスニーカーのカフェ店員

雨の日の満月

子どもの好奇心で掘られた砂場に引っ掛けた足を人としての親心で数秒立ち止まってあげる
誰も

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破裂

破裂

電気ポットの湯が沸きたって、スイッチの音とともに空気はカチッと弾けた。地下鉄から地上へ向かう足が軽くなり、エスカレーターを追い越して地を蹴った。駅内移動には6分かかると、乗換案内は表示する。課せられた移動を全うする。人の間を掻い潜り、ときには人を盾にしてパーソナルスペースを絶対的に我がものにする。同じ方向を進む赤の他人に背中を任せ、一体となって一歩を踏む。

早足が地と擦れる音を遠ざけて、丈の長い

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飴空へのフライト

飴空へのフライト

期待に沿えず申し訳ない気持ちでいっぱいです

膨れあがる思いとは裏腹に 対策すら考えたくない
聞き心地の良い言葉のフレーズばかりが浮かぶ

隣で頭を下げる先輩と違う惑星にいます
雨のように飴が降るようで 明日が待ち遠しい

夢から覚めたらじゃんけんしよう
勝ったらたくさん飴をもらうよ

プライベートジェットでお別れを告げて
飛行機雲を描こう

知らない人にも見上げてもらえる空で
似顔絵を見せて

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括られる線は見えない

括られる線は見えない

ストーリー
疑わずして若さを尖らせていた。顔を見合わせたかもしれないのに、もう記憶からは遠のき、投稿に固まった表情で想像されたきみは、仲睦まじい友人とのカラオケで、歌詞に沿わない合いの手を入れている。
レモンサワーやら、ハイボールやら、大衆を引っ掛け、騒音から飛び出してから、狙った音が反響する部屋で、メロディに合わない音程が心地良さそうに聴こえる。

同世代に括られていた。首に馴染ませているファッ

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言葉 時々 晴れ

言葉 時々 晴れ

雲の境目が頭上にあった

どうしてもかき混ぜたくないから、口に運ぶ分だけ軽く掬い上げ、盛ったご飯の上に少し被ったカレーを僅かに交わらせる

誰かにも指摘されることがなくなった、きっとこだわりであったはずの、人としてのクセも、自分だけが気にしている

誰かに見られている、という緊張感をちょっと重めに背負わせてしまっているのは正直申し訳ないとは思っているけれど、「あと数年の辛抱だから」とまた嘘を重ねて

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白線に隔てられながら、それはリズミカルに途切れているような気がする隙間を飛び越えてみたくなる。
水滴が滴るインターバルを何度も往復してみたくなって、蛇口に指を軽くぶつける。
雨が降りだしそうな匂いを窓越しに見つけてから、コンビニを目掛けて自転車を走らせる。

無謀に、躍る。

船着場

船着場

鋭い視線を掻い潜りながら

時間通りに街が迎える

誰も悪くないんだよなと分かっていながらも

まるで犯人を探すかのようにからまり合っている

縦置きにしたいほどの冗談なのに

笑いひとつも起こらないでいる

ノイズ混じりのイヤホンが懐かしい

不調によるノイズが世界のフィルターになっていた

クリアになってから気になってしまうことばかりだ

やんわりとまとわりついた薄暗い靄がちょうど目の高さまで

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あの夏

あの夏

年頃のニヒリズムめいたものはなんら特別なものではなくて、もはや共通項に近くあって、人それぞれきっかけこそあれど静まる日は訪れる。
待ち構えていた「無」を冬眠してやり過ごすほかない。均された静寂が救ってくれると信じるしかなかった。

ただ、変わりたくない23時半はズキズキと痛み、眠りが浅くなる。
「守るべきもの」を包み込むように抱いて温めたかった。
両手塞がる私は、瞬間の勢いと邂逅に身を任せて持ち帰

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宵

5時の始発電車とともに訪れる千変万化の想像を囲うように集めてみても文学の扉は開かない

夜明けとともに眠くなり、目を閉じる
顕微鏡で覗き込んで判別できるかどうかも怪しいほどの自己嫌悪と希死念慮を布団に持ち込みそうになりながらも、生活必需品からは外れているはずの飲むヨーグルトを冷蔵庫から取り出してコップに注いで三口で飲みきろうとする
なめらかさにほのかな甘さを感じられるはずなのに、酸味は喉元にヒリリ

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蓄積夢

蓄積夢

後ろめたさと数々の悔いを刻んだぶんだけ、人としての時間を記憶していく。
濃密で忘れ去ることができないご褒美のような財産だけでなく、空っぽで犠牲にしてきた無の時間も含まれる。

寂寥に言葉にも表したくない0の日々を積み上げて、またひとつの24時間パックを開封し、空になった入れ物を迷わずゴミ箱に押し込む。

夢であればどれほどまともな生き方ができたんだろうか。
何かのきっかけで「刺激を受けた、やってや

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0°Cの針

0°Cの針

色濃く身を支配してくる苛立ちに抵抗するばかりの施しも虚しく、0時には魔法にかけられて現実の世界に取り残される。

横殴りの強雨の標的にされた傘一つは、イヤホンの防音と俯きがちな顔だけを残し、涙風の餌食になって9m先に飛ぶ。残像は姿形を微かに保ち、後ろを気づかれないようについてくる。傘に跳ね返る雨粒の音は、直線距離から遮音なしで響く。

自分以外の誰かとは共有できない心音は、歩行者用信号機の点滅に重

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初夏の陽気の2月でした

初夏の陽気の2月でした

サニーデイ・サービスが耳に流れてくる。メトロノームのように首を揺らして、夏を想起する。

もはや夏のような日だった。
ニュースでは半袖で海岸線を歩く男性がインタビューを受けていた。白いTシャツの明度の高さに目が眩みそうになりながら、夜ご飯を1人で食べ進める。

「繰り返しますが、今は2月です。」
アナウンサーは台本を読まされ、コメディー要素を足そうとして、安上がりなSEとともに夏を演出している。

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借景

全ての予定を済ませて、やっとの思いで帰ってきた勢いでぐったりと倒れ込む。
ピンとしわを伸ばして張り切って綺麗ぶってた靴下も、つま先にくしゅくしゅとまとめて、勢いよく足を振る。今日はたまたま、ゴミ箱の四角に引っかかって干されたようにそこにもたれている。

スマホの充電コードを鞄に入れて旅に連れ回してきたせいで、断裂目前。手を洗う前にサラッとハンガーにかけたジャケットは右に重心を傾けて、今にも肩を落と

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