船着場
鋭い視線を掻い潜りながら
時間通りに街が迎える
誰も悪くないんだよなと分かっていながらも
まるで犯人を探すかのようにからまり合っている
縦置きにしたいほどの冗談なのに
笑いひとつも起こらないでいる
ノイズ混じりのイヤホンが懐かしい
不調によるノイズが世界のフィルターになっていた
クリアになってから気になってしまうことばかりだ
やんわりとまとわりついた薄暗い靄がちょうど目の高さまで浮かんで再びノイズになった
どうしても苦しみたくはないけれど、自分一人がここで立ち止まるだけで気が済むのならそれでもいいと思った
犯人が見つからないとして被害者は一人でよかった
動かなかった分だけ妄想は拡大して大袈裟になる
そう、考えているだけだから嘘も建前も遠慮も自在なんだ
信じられないかもしれないけど よぎったのは本当なんだ無理もない
盛大なフィクションで虚像である
鋭利なナイフも弱々しくシンクに並んでいるし
自転車だって空を目がけて動き出している
なんでもあっていいはずなのに
見えるものは変わっていくのに
見ているだけではなにも変わっていかない
誰かの自転車 誰かのイヤホン 誰かの夕方5時のニュース
いつまでも一緒にいてくれるって
安心しちゃったから
ずっとこのままがいいと願ったんだろう
自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。